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決して怪しいものではございません!!!!


 戸惑った表情を浮かべる女性。


 見たところ、凶暴化している様子はない。今、自我が保てているだけという可能性もある。だが、鉄格子の中にいた、穢れに寄生された彼等のように怪我をしているようにも見えない。

 自我を失ってはいないということだろうか。


 けれど、顔色が悪く、戸惑った表情も作り物めいているように見える。



「あの、いきなりごめんなさい。これ、落としませんでしたか?」


 何を話しかけても不自然になりそうで、咄嗟(とっさ)に着物の(たもと)から自分のハンカチを出して手渡した。

 手渡すこと自体に無理があることは分かっていたし、こんな街中で浄化された彼女が消えたら騒ぎが起きることも理解していた。


 それでも強引な手段に出たのは、何かが起きてからでは遅い上に、このチャンスを逃したら彼女を見つけ出すのは難しくなるのが分かっていたから。


 穢れに寄生されていたのなら、一刻も早く浄化をする必要があり、目の前にいる女性に触れる必要があったのだ。


「いえ、これは私のではありません」


 そう言って、困った顔で私を見る彼女の体は浄化されなかった。だが、彼女についていた黒い虫のような穢れは粒子状になって消えた。

 数は違えど、白樹が討伐に行った時に浄化したのと同じだ。


 でも、まだ足りない。消えたといっても、ほんの一部だ。仲間を呼び寄せるように漂う穢れは集まって来ている。


 抱きついてしまいたい。そうしたら一気に浄化できるのに……。


「あの……、私はこれで……」

「えっ? ま、待ってください!」


 まるで磁石のように穢れを吸い寄せながら、ここから去ろうとする彼女を慌てて呼び止めた。

 けれど、そのあとに続く言葉が見つからない。


 浄化させて欲しいとは言えない。そんなの怪しい宗教みたいだ。

 だけど、このまま別れてはだめだ。彼女の瞳からは光を感じない。代わりに暗さを感じるのかといえばそういう訳でもない。無という言葉がピッタリなのだ。

 会話は成立するのに、まるで心はここにない。その時に合う表情を選んで貼りつけたみたい。

 生きているのに、生きていない。何を言っているのか自分でも分からないけれど、そんな感じなのである。


「まだ何か?」

「と、友だち! 友だちになってください!!」


 あ、失敗した。これはアウトだ。警戒される。


「妻はまだこの地で友人がいない。何かの縁だと思って、仲良くしてやってもらえないだろうか?」

「そ、そうなの! 急にごめんなさい。何だか勝手に運命を感じちゃって!!」


 だ、だめだ。せっかく白樹がフォローしてくれたのに、台無しにした。


「申し訳ないですが……」


 ですよね! そうなりますよね!! もう既に変な人だと思われてしまったのだから、気にするのを止めよう。でも、さすがに抱きつくのはまずいよなぁ。


「分かりました。いきなり、ごめんなさい。不躾なお願いをした、お詫びをさせてください」


 着物の袂から組紐を何本か出すと、ちりーんと音がした。私の意図を察知して、白樹が何かをしてくれたのだろう。おかげで抵抗されることなく、一本の組紐を結べた。


「……あの、これは?」


 そう聞いてくる表情は困惑を作っている。

 ふわふわと飛んでくる穢れはなくなった。けれど、既にくっついている穢れは組紐を避けただけで、まだ彼女にくっついている。


「私の生まれた村では、組紐はお守りだったんです。あなたを守ってくれますように」


 彼女の腕から見える組紐は、淡い桃色の女性らしい梅結びをしたデザインだ。梅結びは魔除けや運命を向上させる意味も持っていて、見た目よし、縁起もよしなのだ。


「……ありがとう」


 ほんのわずかに上がった口角。それは、作り物めいた表情ではなく、ぎこちなさはあるけれど心がある……ように感じる。

 そう思いたいだけなのかもしれないけれど。


「……やっぱり顔色が悪いので、どこかで休憩しましょう。甘いものは食べられますか? あ、私のことは花と呼んでください」


 当たり前のように笑顔で両手を握る。

 え? やり過ぎ? 仕方ないよね。組紐は穢れを弾いてくれるけど、浄化はしてくれなかった。既にくっついている穢れには効果がないのだから。


 手を握っていると、腕の方から少しずつ穢れが消えていく。

 抱きつけば一瞬、手を握るのではゆっくりと。私と触れる面積の問題だろうか。


「あなたのことは、何とお呼びしてもいいですか?」


 光が戻りつつある瞳を見詰め、なるべく怪しく思われたくなくて微笑んだ。

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