76 赤い実がつくころ
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1999年1月号掲載
76 赤い実がつくころ
ギーイ、とやわらかいきしり声が聞こえてきた。いるいる。青空に浮き出したニセアカシアの枝で、コンコンつついたり、枝を伝ってひとまわりしたり。背中の縞もきれいに見える。コゲラ。スズメくらいの小型のキツツキで、このごろは行徳でもだんだんおなじみの鳥になってきた。観察舎庭のニセアカシアでひとしきり餌を探してから、100mほど離れたUFO島のニセアカシアへと飛んで行くのがいつものコースだ。
もともと林にすむコゲラが町なかに進出してきたのはもう15年以上も前のこと。私の知るかぎりでは、市川高校の石井信義先生が市川市内の白幡神社で見つけられたのが最初のことではないか。本八幡付近の市街地では、10年前には既にごく当たり前に見られる鳥になっていた。行徳への進出はシジュウカラよりも何年か遅かったが、どのように定着してゆくか、楽しみな鳥だ。
道ぎわのトキワサンザシは今がいちばん美しい。つやつやした緑の葉に真っ赤な実をびっしりつけて、青空に輝いている。赤い実がみごとな時期もあとわずか。ある日とつぜんヒヨドリやツグミが集まってきて、数日で実は食べつくされてしまう。
鴨場の周囲のシロダモの花が咲きはじめた。高い枝先なので、まだ花をじっくり眺めたことはない。枝のもう少し下には、昨年からゆっくりと成熟してきた赤い実がついているはずだが、他の木や枝にさえぎられてよく見えない。花と実が同時に見られるという変わった木だ。
シロダモ、トベラ、トウネズミモチ。保護区周辺の樹林帯の中に芽生えている実生木のベスト3種である。トウネズミモチは観察舎付近にずっと列植されていて、丸浜川岸などには実生とは思えないほど大きくなったものが多く、このあたりではいちばん目立つ木だ。トベラの黄色い果皮が裂けて赤い種子があらわれると、ツグミなどが喜んで食べる。ふんの中にはほとんど原形のまま赤く残っているが、鳥の腸内を通ると種皮の粘りがとれて発芽しやすくなるという。保護区の中ではどこでもトベラの実生が多い。意外だったのはシロダモの実生の多さで、新浜鴨場のへりにはたくさんあるが、他ではあまり見かけない種類だ。鴨場と周辺緑地の樹林を往復する鳥が多いことがよくわかる。シロダモも鳥に好かれる赤い実をつけるし、きっと薄暗い林内での発芽率もよいのだろう。
あれだけ鳥に好かれているのに、樹林内ではトキワサンザシの実生木をほとんど見かけなかった。ヤマザクラやノイバラと同様に、光量が少ない林内では育ちにくいのではないか。授業で習った陰樹、陽樹といったことばがとてもよくわかる。
水・道・樹林・土・草・鳥。最近の作業メモのキーワードを書き抜いたらこうなった。
水:浄化池の水路補修・竹内が原の干し上げ準備・そのための水量調整・水路の手入れ
道:新しい観察路の仕上げ。目かくしや木道作り
樹林:手入れ予定地の現況調べ・作図・手入れプランづくり・伐採予定木のマークつけ
土:みなと池棚田の堆肥入れ・トラクターがけ・水路補修用の土のう作り
草:路傍の草刈りでやり残したところ
鳥:寒い時期を迎えるので健康チェックを入念に・今週から禽舎清掃旬間(月ごと)
6~8月の野鳥病院と草刈りのラッシュ時期が過ぎると、本格的な保護区の管理作業の時期に入る。再整備事業で大きく拡大した湿地の管理は、水入れ開始の今年が実質的な初年。夢中で手探り、といった心境。
トラクターがけや水路の手入れなどは昨年から手をつけているし、なにも「見たことも聞いたこともない」作業をするわけではない。余裕があればやりたかったこと、可能ならやっておきたいこと、と、これまで続けている仕事の延長だ。それにしても「こうやってやればいいんだ」「こうすれば、こうなる」と教えてもらえるとは限らない。そもそも、先達がない仕事もある・・・・・・
ゆっくり、のんびり、あせらずに。くじけず、めげず、あきらめず。それでも作業のキーワードを並べてみると、人がうらやむような仕事なのかな、と、つい思ってしまった。ちょっとうれしい。




