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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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75 10月26日

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1998年12月号掲載


75 10月26日


 ヒッ、ヒッ、と耳慣れた声が聞こえたと思うと、小鳥が2羽飛び出した。後を追う方はまぎれもなくジョウビタキの雄。翼の白斑から尾のオレンジ、顔の黒までくっきりと見える。逃げた方も同様だろう。やった!ぴったり10月26日ではないか。ジョウビタキの初認はこの日が圧倒的に多い。到着から10日前後は、あたり一面にジョウビタキがあふれかえるが、その後は分散してなわばりを構えるらしく、間をおいて見られるだけになる

 見渡すと、アシ原はベージュ色に変わってきていた。セイタカアワダチソウの黄はまだ鮮やか。オギの穂が白く光り、トキワサンザシの赤い実が映えて、保護区は晩秋の色どりである。

 朝のミーティングをやっているうちに月1回の市川FMの取材の方が来られた。5分間の話だが、前回は4回も収録をやりなおし、40分近くかかった。今回は冬鳥の到着のことなど、目の前で飛んだセグロカモメの様子をまじえて話していたら、きっちり4分55秒で一発OK。やったね!

 3度目のラッキーは、原稿をいただきました、これでいいでしょう、という電話。提出後2回戻されて書き直し、3回目の提出をしたばかり。連載ものにはあまり苦労はしないのだが、私は要領が悪くて、単発の原稿を書き直さずに済むことはめったにない。直しが入ると休日がつぶれるし、遅くなれば編集の方にも申し訳ない。ほっとした。今日はいいことばかり、とほくほくしながら、こういう日は後がこわい、と、ちらっと思った。

 午後は周辺の樹林帯に狭い通路をつけに行くことになっている。軍手に手のこ、なた鎌とひさびさに完全武装である。入院している鳥たちのほとんどが自力で餌を食べるようになったので、野鳥病院担当の私も時には外の作業に出られるようになった。これも晩秋のありがたさだ。

 大黒柱1号の一樹君が道具を準備している間に、餌を追加し、禽舎掃除にかかる非常勤スタッフたちに伝言を残して、いざ出発、と思ったら、自転車がないのに気付いた。主人が使っているに違いない。私がいつも乗る方は保護区の中だ。他のを物色したが、パンクか、鍵がないか。アンラッキーその1。10分ほど探したあげく、あきらめて非常勤の祐子さんの自転車を借りた。

 作業現場までは1.5キロほどの道のりだ。湾岸道路や周辺の道路、工場などと保護区の水面は、巾約20mの樹林帯で隔てられている。私たちが来た23年前には、植えたばかりで高さが40~50㎝の小さな苗木の列だった。伸びるにまかせた木々は、鳥が持ち込んだ実生木もまじえて、まあまあの樹林になっている。この冬は業者委託で一部に手を入れるので、どうやるか、どの木を切るか、といったことを決めなくてはならない。様子を見に先週入った時、プランづくりと検討のため、立って歩けるだけの通路を作ろうということになった。

 倒木や視野をふさぐ枝、小さな実生木を少し整理するだけなので、作業は思いのほかはかどった。立ち枯れてくさった木は押したりけとばすだけで簡単に倒れる。後からついて行く私の分担は、どっちをとろうか、という時の相談役や、倒れた木の整理、ゴミ拾いなどが中心。たまに手のこを使うとうれしくなってしまうほど。ところが腰に下げた鞘から手のこがなくなっているのに気づいた。アンラッキーその2、さあたいへん。きちんとベルトを止めておかなかったのが悪い。さきほど使った場所まで戻ってみたが、アンラッキーその3で、見つからない。なんのことはない、これでは足手まといにしかならないではないか。

 時間どおりに予定の作業が終わった。日が短くなって、樹林内はそろそろ薄暗くなってくる。気があせって、行きと同じルートをたどることもできなくなっていた。気の毒な手のこはこれでは見つかるわけはない。朝の運がよすぎたなあ、と情けなくなっていると、「ありましたよ」と一樹君の声。「上を向いて立つように落ちていました」

 よかった。これで今日は最後までラッキーな一日になった。きっとこの調子で、今年の管理作業も乗り切れるだろう。楽観こそわが仕事だ。


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