62 秋がきた
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1997年11月号掲載
62 秋がきた
「オルカ、おいで」
声をかけると、寝そべっていた尾長黒白猫のオルカが頭をもたげ、すなおに寄ってきてひざに上がった。もうこんな季節なんだ。ススキ、ヒガンバナ、キンモクセイの香り。ひざ猫のぬくもり。
昨夜は保護区の中でアオバズクらしい姿が見られたという。そろそろヨタカも渡ってくるはずだ。暑さと山積みの作業に耐えるだけで精いっぱいで、「生きるだけにしておこうよ」とネを上げている夏が過ぎると、あたりを見まわすゆとりが出はじめる。私がゆとりの時間を持つと、ろくなことがない、というのがわが観察舎の定説である。また新しく仕事をつくる、くわえこむ、おどりだす・・・・・・まきこまれて迷惑をこうむるのは周囲である。
今日は休日、ゆとりの一日だ。提出すべき原稿は二本しかない。朝のうちに、「ポンプの様子を見てきてあげる。ついでにまわりを見たいから」と保護区の見回りを買って出た。きれいに刈りそろえられた観察路の草の上を赤トンボが飛ぶ。羽の先が黒いノシメトンボやオレンジ色の体のウスバキトンボはすぐわかるが、アキアカネとナツアカネの違いはまだよくわからない。きらっと見えた赤いチョウはヒメアカタテハだった。移動の途中だろうか。イチモンジセセリをはじめ、この時期は渡るチョウもよく見かける。
観察路沿いにはススキがしげり、どこもみごとに穂をつけていた。オギの穂はまだのびていないようだ。セイタカアワダチソウの花穂が枝分かれして、黄緑色が目立ってきている。開花まであと二週間というところか。
昨年までセイタカアワダチソウの大原野だった保護区本土の中央部は、昨年度の再整備工事で水質浄化用の広大な棚田と浅い湿地になっている。ポンプのトラブルのせいで、浄化池は水が入れられないまま、目下牧野の状態。ほとんど全域で最優先の座を占めているのはイネ科の一年生草で帰化植物のオオクサキビ。本土部分のどこであれ、土がひっくり返されてむき出しになった場所では、必ずこの植物がのさばっている。みなと池の棚田を手作業で耕していた時、この種には泣かされた。集めて焼こうとしても火がつかず、残しておけばスコップでは切れないため耕せない。オオクサキビとキンエノコロ、ところによってはメヒシバやイヌビエ、エノコログサ(アキノエノコログサ)など、浄化池予定地はイネ科一年生草本の大草原と化していた。セイタカアワダチソウの大群落も、棚田以外にはあちこちにあるので、10月の黄色い花はじゅうぶん楽しめそうだ。
今年になってできた湾岸道路沿いのカワウのコロニーは、午前中は鳥がごく少ない。巣についているものや、巣内のヒナを除くと、朝はほとんどが海へ漁に行っているらしい。コロニー近くの木の枝に止まる白い鳥に双眼鏡を向けると、ウミネコだった。電線に止まるユリカモメのように、どうも違和感のあるポーズである。
みなと池流出口の土手道で、カルガモの死体を見つけた。胸筋の片側がきれいに食べられている。角膜がまったくへこんでいないところを見ると、とられたのは今朝だ。下手人がオオタカなら、少なくとも道の反対側のしげみに引き込むはず。チュウヒがとったのだろうか。後半身はそっくりしているので、死体はそのままにしてきた。どのタカにせよ、あと2日くらいは食べに通うだろう。
2日前に水もれを止めてもらった水路を見てから、10日ほど前に移植してもらったミズアオイが青紫の花を新しくつけているのを確かめた。ちゃんと根づいたようだ。このあたりには、いろいろな種類の湿地の植物を植えて、花が楽しめる水生植物ゾーンにしたい。観察路ももう少し工夫して、水面が見える場所を増やしたらどうだろう。
自転車による保護区一周を終え、採集してきた植物を同定していただくため、パッキングして宅急便で送り出してから帰宅。面白いこと、やりたいことがいくつも目につく1時間余だった。
やっぱり、私にゆとりの時間を持たせるとろくなことはない。得な性分?それとも、厄介な業?




