60 ゆとりの時間
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1997年9月号掲載
60 ゆとりの時間
ケッケッとセイタカシギの警戒声が聞こえる。ピピピ、ピピピと鳴いているのは大きくなったヒナに違いない。きれいなピンク色に染まった夕焼け雲の上に、満月に近い月が出ている。きっちり巻いたメダケの新芽の先に一粒ずつ露の玉がついて、静かな夕暮れ時だ。
とっぷりと日が暮れるころになると、わが家から観察舎のまわりはヒキガエルだらけになる。今年生まれの小さいのももう2センチくらいになっていて、たいていは背から顔のあたりが赤っぽく、目のところに黒い筋が入って、なかなかりっぱな面構えをしている。6,7センチ大の小柄なのは昨年生まれだろうが、その上はどれもこれもどっしりと大きくて、何才なのやら見当がつかない。
保護区の中の観察路は、日暮れ時になるとクロベンケイガニがぞろぞろ出てきている。刈り込んである観察路の草のやわらかいところがお目当てなのだろう。自転車で通ろうとすると、たいていのカニはさっさと道をあけてくれるのだが、道路の右にいるものが右へ、左にいるものが左へよけるとは限らない。わざわざ車輪の直前を横断して反対側に逃げ込もうとするものがいて、自転車を押していてもひやっとする。
梅雨時から夏の盛りをむかえるこの時期、草ののび方のみごとなこと。棚田のミズアオイなど、5段目の池を埋めつくすばかりだ。工事で土がむき出しだった竹内が原もアシがのびて、見通しがきかなくなっている。一昨年度造成、昨年から水が入った2面の深めの池ではカイツブリが子育て中。移植されたヒメガマがだいぶひろがって、ひさびさにオオバンのヒナも見られた。
昨年度造成の広大な棚田にまだ水が入れられないのが口惜しくてたまらない。ポンプのトラブルのためだ。当初は空気を吸って止まることだけを心配していたが、いざ運転を開始してみると、この程度のトラブルは日常茶飯事でどうということはなく、まだまだ序の口だということがわかった。
メインの大きいポンプと補助用の小さいポンプの2台が設置されているが、大きいポンプは2回の連続運転テストをしたところ、パイプが陰圧に耐えきれず、2回とも30時間前後でぺちゃんこにつぶれてしまった。単純な構造上の欠陥で、本格的な手直しが必要なため、目下運転をあきらめている。小さいポンプは何とか続けて動かそうとしているのだが、1,2日に1回の割で空気を吸って止まるほか、6月中には逆流防止弁にゴミがはさまって弁がふさがらず、空気を出せなくなる事故が3回も起きた。はさまったゴミはマッチ棒と大差ないサイズの小枝など。こんなゴミは水中に無限にあるのに。目の細かいステンレスのザルを2個組んでゴミよけにとりつけてみたら、すぐに目詰まりして、1週間でつぶれてしまった。
弁のトラブルが起きると、胸までくる胴長をはいて、水源である湊排水機場遊水池(通称はドブ池)の高さ4mもある壁面を下り、泥深い池の中に設置されたゴミよけかごのふたを開け、吸水口を持ち上げて陸地まで引き上げ、吸水口そのものにとりつけてある竹製の防ゴミかごをはずし、弁やまわりを掃除し、ふたたび池におりてセットするというやっかいな操作が必要になる。小さいポンプの吸水口を上げるだけでも重労働だが、大きいポンプの吸水口は、大の男が2人がかりでも上がるかどうかという重さになる。
繁殖期は棒にふったが、せめて秋の渡りには間に合わせたいと思っていた。しかし、ポンプのめどが立たないことには揚水はできない。目下、対策の提言をして、千葉県の検討結果を待っている状態。
5月から水を入れはじめた水車池には、ゲンゴロウの幼虫をはじめ、ミジンコや赤虫がおびただしくふえ、小柄でかわいいコフキトンボも何頭か見られている。ああ、早く水を入れたい。
ただひたすら待つのは楽ではない。もっとも野鳥病院のラッシュと揚水開始にともなう水量・水質チェックが重なれば、今よりはるかに仕事がきつくなるはずだ。
暑い季節に楽をするのはよいこと。まあ、ゆとりの時間というところか。




