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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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59/95

59 セイタカシギ誘拐作戦

新浜(しんはま)だより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1997年8月号掲載


59 セイタカシギ誘拐作戦


 ケレッ、ケレッ、キッキッキッ、とセイタカシギの警戒声が聞こえる。わが家のまん前、ヒナ4羽の第2号家族に違いない。観察舎前に陣取ったヒナ2羽の第1号家族や、芝生前のヒナ1羽の第3号家族は、最初のころほど騒がしくなくなった。6月27日現在、3家族のセイタカシギが丸浜川にいる。保護区中央部の上池―竹内が原の湿地にもたぶん3家族、移動途中でヒナをなくした1組を加え、保護区内で少なくとも7組のヒナがかえった。初繁殖の1980年このかた、最高の成績だ。

 丸浜川から700m以上も離れた下北岬で7つもの巣が見つかったのは5月末。今年はカラスの群れが新浜鴨場に残っているので、いつ卵がとられるかと気が気でなかった。ここは裸地で繁殖する鳥のために砂利を積んだ場所で、除草に手がまわらずアカザが茂ったのがかえってよかったらしい。

 6月13日の朝、遠くで騒ぐセイタカシギの声を聞きつけた。ヒナがいる!無事にふ化したのだ。すぐそばにある竹内が原の湿地に入ると思ったのに、なんで反対側に出てしまったのだろう。やきもきしているうちに親子は鈴が浦の岸に出て、1羽きりの幼いヒナは200mもの海面を泳いで横断し、UFO島に上陸した。親たちはヒナを丸浜川に連れて来ようとしていたのだ。ところが、保護区の水面と丸浜川の間には、高さ2mもの垂直の導流堤があり、飛べないヒナには登攀不可能の障壁になっている。翌14日も行徳高校のあたりで親がしきりに騒いでいたが、15日には姿を消していた。おそらく、ヒナはあえない最期をとげてしまったのだろう。かわいそうなことをした。

 6月19日になって、別の親子が鈴が浦にあらわれた。岸ぞいに歩いて丸浜川をめざしている。まもなく導流堤に親鳥が上がり、鳴き騒ぎはじめた。ヒナはすぐ下にいるに違いない。今ならひなを誘拐できるかもしれない。それっ!

 たも網を持った2人の人間に親たちが必死の攻撃をかけている間、2羽のヒナは干潟にぴったり伏せていたので、簡単につかまった。ヒナを高くさし上げて親に見せながら、小走りに戻る主人の頭すれすれに親たちが舞い下りる。観察舎前の餌場におろされたヒナは、別々の方向に走って逃げた。興奮して鳴きながら飛びまわる親たちと誘拐されたヒナが、ちゃんと合流できるかどうか。気のもめる10分あまりがすぎて、ヒナが2羽とも親鳥に抱かれたのを見た時にはほっとした。

 翌日の台風7号も、親子は無事にしのいだ。危険なカラスやカモメに対しては執拗な攻撃をくりかえす親たちだが、川岸の道路を通る人間のことはほとんど気にしない。すてきなみものである。

 22日の日曜のこと。またしても親子連れが導流堤にやってきて、たも網の出動となった。ヒナ4羽。ふ化後せいぜい1,2日の小さいヒナだ。これも無事に放し終え、親といっしょになったのを見届けてから誘拐部隊が戻って、ほんの30分後。こんどはやや大きめのヒナをつれた親子が正面の干潟にあらわれた。2羽のヒナはためらいもせず海に出て、けんめいに泳ぎはじめた。ところが、岸にいた何百羽ものカワウが水に入って、ヒナを取り囲んだ。足や尾を軽くひっぱるものもいる。あぶない、と思った瞬間、若いカワウが1羽のヒナの首をくわえて振りつけ、放り出した。水に浮かんだヒナは何度かもがいたきり、動かなくなってしまった。カワウの群れはすぐに遠ざかり、もう1羽のヒナは無事にUFO島に上陸した。

 誘拐作戦も3回目には手慣れたもの、と思いきや、導流堤を歩いて下をのぞいていた主人と石川君が、手ぶらのまま引き返してくる。どうしたのか、と心配していると、ずっと手前のほうでたも網をおろしはじめた。予想とは違う場所にいたらしい。丸浜川にはとうとう3組の親子が入った。

 それから1週間。頭ばかりが目立っていたヒナたちはみるみる大きく育ち、嘴や足もたくましくなった。10年前にはユスリカすらいない「死の川」だった丸浜川がりっぱな餌場になったと思うと、ふしぎな気持になる。親鳥にかけよって抱いてもらうヒナの姿のかわいいこと。飛べるまであと2~3週間。無事に育ってくれるとよいが。


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