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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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56 コアホウドリが飛んだ

新浜(しんはま)だより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1997年5月号掲載


56 コアホウドリが飛んだ


「今、フェリーから電話があったよ。飛んだって」

 2月22日の朝のことだ。ついに、わが野鳥病院初のコアホウドリ放鳥例ができた

 ここ数年来、ほとんど毎年のように秋から冬にかけてコアホウドリが保護されてきている。外房からのものもあるが、浦安や船橋といった東京湾内が大半だ。昨年秋の台風で翼を折った1羽以外は、これといった外傷はなく、2、3日でけっこう元気になる。ところが、ある日突然ばったりと死んでしまうのだ。最長不倒記録はまだ28日。解剖等を行っていないため、死因は不明である。

 昨年初めて入院したクロアシアホウドリは無事に放すことができた。富津岬に持って行き、箱を開けたところ、風に向かってとっとと走り出し、そのまま飛び立って行ったとのこと。

 1月22日に浦安で保護されたコアホウドリ。6羽目である。これまでの失敗を繰り返すまいと、まず最初に板とビニールシートで急ごしらえの暖房室を作った。餌に塩水を足す他、今年は肝油も少量加え、また餌の量を無理にふやさないよう心がけた。一昨年来た鳥は、アジをやりすぎて消化不良を起こしたのが死因だと思う。この秋から床にはオガクズを敷いており、干し草よりは足への負担が若干少ないかもしれない。海鳥を地上で飼うと、みずかきにすぐ床ずれのような腫れ物ができて、これが死因になることも多いそうだ。

 これまででいちばん小柄な上、あまり元気もよくなかったこの鳥は、どうやらちゃんと生き延びた。暖房室は大正解だったようだ。さて、体重がしっかり増えたあとは、いつ放すか、どこで、どうやって、ということになる。

「釧路航路の探鳥に行くけど、放してこようか」

 東京支部若手リーダーの鈴木氏は中学生のころからの常連。奥さんはわが後輩で、二人の出会いも観察舎、というきわめつけ。頼んでしまおうかなあ……でも、もし飛ばなかったらどうしよう? どうしようもないか。フェリーははやいから、みんなが見ている前で溺れ死ぬことはないよねえ。

 寒風吹きすさぶ釧路航路。金曜の夜に出発し、日曜の朝に釧路について、夕方の便でそのまま帰り、月曜帰着という強行軍。でも、海鳥がたっぷり見られるし、旅費はフェリーの往復料金ですむのだから、いつか時間ができたら行ってみたいところだ。結局、晴海埠頭まで主人が観察舎組の東夫妻と鈴木氏、それにコアホウドリを車で送り、翌朝放してもらうという手はずになった。

「ペット、名前は“コアホウドリ”って書きこんできた。探鳥グループは10人くらい。見たいと言われて箱をあけたら出ちゃってさ、大騒ぎ」

 翌朝7時半、犬吠埼沖の強い向かい風の中、箱から出して放されたコアホウドリは、すぐさま風にさらわれて、ちょっとの間は翼を開きかねていたらしい。しかし、落ちて海水につく前にばっと2mもある細長い翼を開いた。そして、みごとに滑空をはじめたという。目路のかぎりはずっと飛びつづけていたとのこと。よかった。わが野鳥病院で、死亡率100%の鳥が1つ減った。遅々たる歩みだが、1つぶんだけ、ほっとした。

3月の日本野鳥の会の評議員会では、石川県を中心とした日本海の重油汚染の海鳥の救護が大きな話題になった。「暖めること。食器洗い用の中性洗剤がもっとも確実。すすぎが肝心。最初は流動食で。洗い方さえよければ、羽毛の撥水性はとりもどせる」

ウミスズメ類やアビ類の飼育も、ここではうまく行っていないものだ。いつか、きちんと飼育指導を受けてこなくては。

 再整備工事はほぼ終了。広大な棚田や4ヵ所の観察壁等の全貌が見えるようになった。工事期間中、ユンボー(パワーショベル)くんがいてくれたおかげで、棚田の天地返しばかりか、堤、水路、暗渠等々、人力では気が遠くなるような力仕事が次々に片づいて、ほくほくしている。ただし、乱暴でせっかちで仕上げが荒い、というわが仕事ぶり。仕上がりに性格がもろに出るのがこわい。

 さて、肝心な管理作業というソフトウェア改革。どうなるか。こちらの仕上がりは、もっとこわい。


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