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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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47 セイタカシギのヒナがかえった

新浜(しんはま)だより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1996年8月号掲載


47 セイタカシギのヒナがかえった


 背丈ほどにのびた草の間からそっと双眼鏡を向けると、池のへり近くにたたずむセイタカシギの成鳥が、翼をこころもち開きかげんにしているのが見えた。ヒナを抱いているのだろうか。しかし、水面から腹までほんの3,4㎝しかない。20㎝もある足がほとんど見えないような水の深さでは、小さいヒナは背が立たないのではないか。

 親鳥から視野をずらして、池のへりをずっとたどっていくと、いた!セイタカシギのヒナ1羽。2日前にふ化したというニュースを聞いてほっとしていたのだ。ここ数年来、保護区ではセイタカシギは一羽もふ化していない。一昨年までは毎年のように産卵、抱卵にこぎつけているのだが、カラスに卵をやられてぜんぶ繁殖に失敗している。昨年はとうとうひと組も巣を作らなかった。ただでさえ繁殖期の保護区は鳥が少ない。ごくごくふつうの繁殖種であるバンやオオヨシキリさえ減っているのに、頼みのセイタカシギにまで見放され、いよいよいけません、と頭を抱えるこのごろ。おまけに今年はカラスが大増加して、ハシブトガラスを中心にハシボソガラスをまじえ、50羽から100羽もの群れがごろごろしている。この連中の目をかいくぐって卵を抱くのは容易なことではない

 多いときは5つがいほどが見られたセイタカシギのうち、1組はなんと、この冬に作られたばかりの新しい池、それもまんまん中の新しい島で卵を産んだ。どこから見てもまる見えの場所だ。夕方など、カラスがずらっと土手に並んでいることもあって、うまく行くはずがないと思っていた。それでもカラスやカモメのたぐいが1羽でも上空を飛ぶと、親鳥はけたたましい声を上げてむかえうち、せっせとなわばりから追い払っていた。時にはどこからか他のセイタカシギが飛んできて、防衛に加わることもあった。

 5月27日に3卵が見られているのだから、通常はもうひとつ生み足すはず、そして抱卵期間は24~25日。ふ化予定日は6月20日から22日ころ、と考えていた。どうやら3卵のまま暖めはじめていたようで、ヒナが見られたのは19日だった。こんな条件下でよくもまあ……運がよかったとしか言いようがない。ふ化してしまえばヒナは逃げることもできるのだから、卵の時期よりはいくらか安全なはずだ。しかし、この池には雨水が溜まっているだけで、栄養分に乏しく、十分な餌があるとは思えない。土手をふたつ越えれば、親鳥がふだん餌場にしているはずの北池に出られるので、いずれ引越しの運びになるのだろう。

 ヒナはまだかえって2日しかたっていないはずなのに、親からたっぷり20mも離れたところで、浅い水の中や草の間をちょこちょこと歩き回っては何かをついばんでいる。親の方も、とりたててヒナを気遣う様子ではなかったが、双眼鏡を向けている私に気づいたらしく、鋭い警戒声を上げながら立ち上がった。それまで水の中に中腰で半分すわるような姿勢をとっていたのがその時にわかった。そして、翼の間からヒナがもう1羽出てきて、先輩のヒナと同じようなしぐさで餌を探し始めた。少なくとも2羽がふ化。よかった。

 繁殖場所整備のかいあって、5月にはコアジサシの営巣が見られ、20年ぶりの快挙、と喜んだ。しかし、期待もむなしく、たぶんカラスのせいであっけなく卵が消えてしまった。6月2日には初夏の青潮が保護区を直撃し、10トン近く、数万尾と推定されるコノシロの大量死が起きた。保護区での魚の大量死は1982年、1992年、今年といずれも5月末から6月初めに起きている。ちょうど産卵期にあたるコノシロが集まること、また、おそらく酸欠水に追われ、袋小路になっている保護区の海面に逃げ込んできたところで一斉に死ぬ、というためだろうが、わが保護区では夏から秋の青潮よりも、初夏の方が被害が大きくなるのだ。

落ち込みがちの気分をひきたててくれるようなセイタカシギのヒナの姿だった。大空を飛べるようになるまで無事に育つことを祈っている。




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