33 ゴールデンウィーク
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1995年6月号掲載
33 ゴールデンウィーク
ポィピピピピ……
遠くでチュウシャクシギの声がする。いいなあ。保護区の管理者としての特権はいろいろあるけれど、保護区に接して住むということは何といっても最大のものではないだろうか。24時間いつ何時でも生きものに接することができるからだ。どんなに落ち込んでいても、げんなりしていても、夜気にのって漂ってくるスイカズラの香りをかいだり、ふわっと舞い上がるコサギを見たりしたとたんに、ふっと心がなごむ。
新緑のエノキの中でアオジがさえずっている。前を人が通りかかったので鳴き止んだ。そういえば、さえずるアオジの姿をちゃんと見たことはまだないような気がする。枝の中で動く姿はちらっと見えたが、やはり歌っているところは見られなかった。渡去の日はもうすぐだ。
実生のころから知っているこのエノキももう5メートルほどになって、ゴイサギがとまってもあぶなげがなくなった。遠くでオオヨシキリが鳴いている。こちらは渡来して間がなく、まだあまり数が多くないので、思わず耳をそばだてる。
今年は例年にもまして鳥が少ない。ほんとうに少ない。「今日は少ないね。こういう日もあるんだから仕方ないよね」 お客さんどうしで話している声を聞きながら、身が縮む思いをしている。セグロカモメが渡去し、コガモやユリカモメも日を追って少なくなるこのゴールデンウィーク。わずかでもシギ・チドリがいてくれれば、いちおう見ていただけるのだけれど。「あ、ダイゼンが1羽いた。よかった」うーん。
頼みのセイタカシギも5月に入って完全に姿を消した。今年は葛西にコロニーができているので、みんなそちらに合流したらしい。三番瀬の干潟の状態がずいぶんよいらしく、4月29日には各種とりまぜてシギ・チドリ2500羽を数えたとのこと。夕方になると、そちらからの流れでハマシギやチュウシャクシギ、キアシシギなどが小群で入ってくるのが唯一の救い。
鳥はさみしいかぎりでしょんぼりしているけれど、保護区の中はそれなりにおもしろい。藤の花盛りで、立ち木に巻き付いたつるから豪華な花房が垂れ下がっている。ノイバラも開きはじめた。来週になればスイカズラやトベラが咲いて、初夏の香りが出そろう。クロマツの新梢の先にかわいらしい雌花が出てきた。雌花は赤く、小さな松ぼっくりの形をしている。茶色の雄花はもっと下にごちゃごちゃとかたまって、風が吹くと黄色い花粉を散らす。ただし、松の花粉は杉とは異なり、花粉症の原因にはならないそうだ。
みなと新池では、あちこちからヒシの芽が出てきた。昨年の夏、館山の近くのため池からポリ袋につめて持ち帰り、池に入れたのだが、いつの間にか消えてしまって、定着しそうもないと思っていたところだった。水面にひし形の葉を浮かせているところしかイメージがなくて、なんとなくウキクサのように水面でいきなり発芽するような気がしていたのだが、しっかりと池の底から芽を出し、じわじわのびて水面に達するということがわかった。
南房総のため池はどこでもヒシがぎっしり生えて水面をおおおいつくしており、ああ、これが「ひしめく」なんだ、と妙に感心したものだ。10日ほど前に、水面から30㎝ほどの深さのところに小さなヒシの芽が出ているのを見つけた時には大感激したのだが、池全体で百株以上あるのを見て、「ひしめいたら」どうしようかと少々心配になってしまった。
同じく昨年導入し、夏には水面のかなりの部分に広がっていたトチカガミが秋の半月ほどの間にきれいに消え、痕跡すら残さなかった時にもびっくりしたけれど、こちらも水底から小さい丸い葉をけなげにのばしはじめた。ガマ、コガマ、マコモ、ミクリ。もとからあるヒメガマとアシに加えて、昨年入れた連中が概して元気にのびている。水草のいっぱいある池になりそうでうれしい。
いつかは水鳥もふえるんじゃないかな。いや、ふやさなくてはね。未来に希望をつなごう。




