23 野鳥病院てんてこまい
新浜だより
日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年8月号掲載
23 野鳥病院てんてこまい
「舞浜の東急ホテルです。鳥が入口から歩いて入ってきて、首を背中の羽に入れて寝ちゃったんですよ。どうしましょう、寝てるんですけど」
連れてこられたのは若いカワウだった。体重測定のために秤に乗せると、おびえたり暴れたりするどころか、なんと秤の上で平然と羽づくろいを始めた。いったいこいつは何なんだーっ。
3日もすると餌ねだりがはじまった。寄ってきてズボンにかみつき、「魚よこせ!」かわいいと言えないこともないが、けっこう痛い。衝突して落ちたらしく、右目の上にななめに走るへこみがあり、警戒心の欠如も頭をうったせいだろう。ホテルマンのお兄さんが何度かお見舞いにきてくれたが、べつにうれしそうな顔もせず、いばりくさって「餌よこせ!」を続けている。
例年と同じく野鳥病院はてんてこまいの大さわぎ。わめきたてるムクドリどもを隣の「リハビリ室」-ふだんは「中部屋」と呼ぶ―に追いやり、越冬させたツバメたちを放し、目下スズメの子が何羽もこちゃこちゃとあたりを飛び回っている。足指が曲がって握った形にかたまっている奇形か栄養障害といったものが多く、どの時点で放すか、少々頭が痛い。今年は足を折ったハシボソガラスのヒナが何羽もいて、放す見通しがたたず、これはおおいに頭が痛い。ハシボソガラスは高圧鉄塔の上に巣をかけるものが多く、巣立ちの時にちゃんと飛べないみそっかすヒナが高い鉄塔から飛び下りて骨折してしまうのではないかと思っている。電線衝突で両足を骨折したハトも何羽かいるし、ビルの窓にぶつかって脳内出血を起こし、正常な姿勢を保てないスズメもいる。
こうした正当な「患者さん」のほかに、「誘拐事件」というものもある。
「駐車場でトラックなんかが走るんですよ。すぐ前には犬がつないであるし。何もない地面に卵だけあったんですよ」「これはコチドリの卵。裸の地面に卵を生むんです。きっとチドリなりの考えで、そこは巣をつくるのによさそうだと決めたんでしょうから、あとは運を天にまかせて親に返してやってください。卵が冷えてしまうので、できるだけ早くお願いします」
「草を刈ったあとヒナだけいたんです。巣も親も見つからなくて」「これはヒバリの子ですから、もう巣から出て親に世話されているはず。もとに戻せば親がくると思いますが」「でも、もう拾って3日目になるんです」「・・・・・・・・・」体重が軽いこと、拾われた場所が遠いことから、結局このヒナは引き取って世話することになった。
スズメの巣立ち子で飛び方があやしい「みそっかすヒナ」は、適当な入れものに入れて親の目につく安全な場所に置いてやると、たいてい親が餌を与えにくる。2、3日で親に連れられて飛び去るのがふつうだ。体がうんと小さいうちに巣立つカワラヒワやヒヨドリは、もっともよく「誘拐」される種類。「たっぷりお弁当を食べさせておきますから、拾ったところで木の上に放り上げてやってください。朝早くなら兄弟が鳴いているのが聞こえます。ヒナが枝で鳴くと、親鳥が餌を持ってくるんです。巣立ちしたばかりのヒナですから、あと2、3日は親が必ずすぐ近くにいます。親に世話してもらうのがいちばんいいんです」
善意の誘拐ならまだしも、今年は妙典の区画整理組合の造成現場にできたコアジサシのコロニーで、卵19、ふ化後間もない卵歯がついたままのめちゃくちゃにかわいい綿毛ビナ7がまとめて置き捨てにされるという事件まであった。涙をのんでコロニーにヒナを置いてきたが、親にめぐり会えた確率は限りなくゼロに近い。かんにんして!
冬を越し、5月に放したヒヨドリの「緑ちゃん」が毎日のように観察舎に遊びに来ている。さくらんぼや虫をとっているらしく、餌は少しも欲しがらないが、時々人恋しくなるらしい。まあ、これは退院―放鳥に成功したとみなせるだろう。
部屋を埋めつくした段ボール箱の「病室」が「患者の退院」で減りはじめるのは、まだまだ先だ。




