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新浜だより 1992年~2000年  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
21/95

21 泥んこ遊び

新浜しんはまだより

日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)支部報「ユリカモメ」 1994年6月号掲載

 

21 泥んこ遊び


 「日曜日に島作りをやるんですよね? スコップを持って来たんですが、置いといてもらえますか」

 明日とあさっては保護区に造成した池の手入れの日。こうした作業は何年も続けると飽きがくるが、わいわいとりかかるのはけっこう楽しい。今年は東京支部報に案内が出たので、常連以外の参加者もあるはず。ひとりでも新人が参加されると、がぜん作業に活気が出るものだ。新品のスコップをお預かりしながら、ほくほくしてしまった。

 仕事には下準備と後始末がつきもの。幸い、4月のこの時期はわが観察舎および野鳥病院の農閑期で、ヒナ鳥ラッシュがまだ始まらず、草刈りシーズンにも心持ち間がある。優秀なアルバイト生で、4月からアメリカの国際ツル財団に半年間の研修に行っている石川君が、ひまをみて草刈り機の替刃を何枚も研いでおいてくれた。後をつぐバイト生の佐藤君と主人が二人して、作業日の一週間前から池の水路を掘りなおし、水を落とした。私も何度か水路掘りに通ったが、これは泥んこ遊びの中でもいちばんおもしろいものだ。低い方から掘りはじめ、差後に池との境を切って水を流す瞬間の爽快感がたまらない。本当は誰かにお任せして、やみつきにしてしまいたかったところ。

 後始末の方は概してあまりおもしろいものではなく、長靴、スコップ、一輪車やリヤカー、それに洗い場などの泥をすべて洗って片づけることから始まり、ミーティングや打ち上げ後の図書室片づけ、ビールの空缶の始末、灰皿洗い、作業服や軍手の洗濯、更に水路ふさぎ、水管理、水の調査等々。まあ、大半は常連さんがこなしてくださるし、住み込みの私たちにとっても大して苦にはならないが、ボランティア活動の成否はこの前後処理の如何によると思う。ちなみに東京支部の幹事さん方、行事の前後処理にいつも頭が下がります。

 午後5時半。野鳥病院の世話がひと区切りしたところで、一輪車にスコップを積んでみなと新池に向かった。水位低下とアシの新芽掘りが目的。明日の午後、江戸川放水路のトビハゼ護岸でアシの移植作業がある。これは高水敷(干潟より高くしてある土盛りのところ)の車の侵入や土の流出の防止のため。国分高校と市川学園の生物部のみなさんが、建設省の江戸川工事事務所河口出張所との協力で行うものだ。先週の作業で掘ったアシの地下茎を大きなポリ袋3つにストックしてあるが、新鮮なのを少し足すつもり。

 若葉の緑がしたたるように美しい。松の新梢がずいぶんのびて、つぶつぶした雄花がはちきれそうになり、てっぺんの雌花も先週とは見違えるようにふくらんでいる。日が落ちて、タンポポはもう花を閉じていた。みなと新池には、市川南ロータリークラブの皆さんが植えたばかりの睡蓮の芽先がほんの少し見えていた。カルガモやコガモが何羽か飛び立ったが、お目当てのセイタカシギはまだ1羽も入っていない。1時間ほどの作業を終え、池の水でスコップを洗って帰路につく。

 越生の塩田さんにいただいた黒米と赤米の種もみが、トロ箱で発芽を待っている。ロータリークラブでは、茨城のほうから蓮の苗を取り寄せるかもしれないとのこと。6月には仲間うちが泊りがけで沼津の埋立予定地の沼にメダカや水草を取りにゆくはず。この春の作業は忙しい。もっとずっと先の話になるだろうが、妙典の区画整理組合に、昔の蓮田の土を埋立前にいただきたいと無心した。

 気の遠くなるような仕事だな、と思う。私たちは、スコップ一丁で昔の新浜を再現しようとしている。間に合うのか……ヒクイナやタマシギやヨシゴイやオオバンが完全に姿を消す前に湿地ができるのか。日没後の鴨場の竹藪は黒く静かで、サギ山の喧騒はない。アシ原は白々と枯れている。

 ま、いいか。間に合うかどうかなどと心配してもしかたがない。今できること、するべきことをなす。それしかない。枯野の足元には新芽が勢いよくのびている。私たちの夢だって、運がよければのびてひろがるかもしれないのだから。



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