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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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06:『 5 』マキ、大鬼と出会う。



私はマキ。

何と、暗い山の亀裂の間に落ちてしまったの。


「い、いたたたた……これはもう、私が“異世界からやってきた救世主”じゃなかったら死んでたわね」


落ちた後に冗談を言って、自分で笑うくらいには元気。

立ち上がれるくらいにも元気。

まあ、一応紅魔女だった女ですから。落ちた後に指を噛み切って、赤い蔦でクッションを作ったの。


「動くな!!」


だけど、落ちた後に気がついた。

私がすでに、彼らの住処に入っていて、魔族兵に囲まれちゃっている事に。


「お前……ユートピアからの刺客か!」


熱り立った大きな声を上げ、甲冑をガシャガシャと音ならしこちらにずかずかとやってくるのは、オウガ族の大男。

実のところ、私はそいつを知っていたのだけど、久々に見てもそいつはでかいなと思う。

鬼神と呼ばれた男、ライズである。


「なんだこの人間の小娘は!」


私を見下ろし、なぜか憤慨。


「こんな奴が、我がグリフォーン隊を蹴散らしたというのか!」


「いえ、確かもう一人居たと思うのですが、黒髪の男です。奴も人間であるとの報告が」


「ユートピアは人間と手を組んだというのか!」


相変わらず、声がでかくて、態度もでかい。

おそらく本人は普通の声で話しているつもりなんでしょうけど。


「そいつを拘束しろ!」


命令して、私を囲っていたオウガ族の兵士達が私を捕らえようとする。

だけど私を受け止めたクッション蔦が、自動でそいつらを蹴散らしてしまったから大変。


「き、貴様!」


ライズは何を察したのか、肩に背負う大剣を抜いて、私を睨む。


「嫌な予感のする魔法だな……なんだか、こういう魔法を使う“魔女”が居た気がするな」


「……」


脳筋だけど、勘だけは良いのよねこいつ。

私はにやりと微笑んで、指にはめている指輪を槍の姿に変えた。

ライズはそれに驚き、いっそう眉を寄せた。


「確かに、私はユートピアからやって来た者よ。だけど、私は特別あんたたちに用は無いっていうか。用があるのはあいつっていうか」


「……貴様、何を言っている」


「要するに私はとんずらこきたいのよね」


「そんな事はさせるか。貴様には聞きたい事がある!」


ライズは大剣を迷わず振り落とし、おそらく私の槍を払い落とそうとした。

だけど、奴の攻撃の重みはすでに知っている。

槍を一瞬で赤い盾に変え、重い一撃を受ける。

流石にライズの力というのは魔法すら砕くと言われていたけれど、“戦女王の盟約”は攻守両方をかねる神器。


衝撃で岩穴が揺れ、ぱらぱらと小石が降って来たけれど、盾は崩れない。


「何……っ、変化自在の武具だと!」


「“ライズ”、あんたの攻撃は立派だけど、柔軟じゃないのよね。それは、あんたの性格もそうだけど」


くすくす笑って、盾を再び槍に戻す。そして、彼の背中にトンと飛び乗って、踏み台にするようにして敵兵を越えた。


そのまま猛ダッシュ、逃走。


「な、なにいいいい!!」


追え、追えと背後で命令が飛び交う。

私は岩穴を宛も無く走り、出会う敵兵をことごとく蹴散らして進んだのだった。







走って走って、どれだけ蹴散らしたかは分からないけど容赦しない。

ごめんなさい。

2000年前の頃から、オウガ族は蹴散らしても良いという感覚があるのよ。

だってあんたたち頑丈だもの……


ただ、入り組んだアリの巣のような山中。

今自分がどこに居るのかも分からない。トールと再び出会えるには、どうしたら良いものかしら。


「それにしてもトール、大丈夫かしら。私、一瞬で落ちちゃったからちょっと分かんないけど、あれ……“悪魔”って奴だったわよね」


山の亀裂のすぐ側で、私とトールの間に割って入ったあれ。

流石に、自らの剣の作り出した悪魔なんかにやられちゃうトールではないと思うけれど。


「……あら」


しばらく奥へ奥へと進むと、なんだか、重そうな扉の前にやって来た。

今までの細い通路が開け、巨大な空間となっていたのだ。


「まあ、流石にこんな魔族の国にお宝があるなんて思っちゃいないけど、扉があると開けたくなるのが、人間というものよ」


独り言を呟き、その前に立つ。

冗談を言ったものの、何だろう。

とても妙な感じがするのだ。体が急に重くなったような、圧力を感じる。


重い扉をこんこんと叩いてもびくともしない。

だったらもう、ぶちぬくしかないわよね!


「戦女神の盟約……」


私は槍を扉の方に向け、一度大きく構えると、そのままただ扉をひと突き。

すると、扉は綺麗な丸を描き穴を開ける。


「わあ、思ったよりずっと分厚い扉だったのね」


80センチから1メートルくらいの分厚さだったんじゃないかしら。

そんな扉を、まるでクッキーでもくり抜くみたいに調理しちゃう私の神器はカッコいい。


「さて、失礼しまーす、と」


あらよっと、という具合に穴を抜けて、中に入る。

流石にこの部屋に魔族は居ないようだったけれど、淡く煌々と光る何かがあったのには、すぐ気がついた。


黒い光、なんて言うのはこういった光の事を言うんじゃないかと思ったくらい。

黒いのに、輝いている。

私の目の前にあったのは、大岩に刺さる黒い剣の刃。

その周囲に時空のゆがみを作ったり消したりして、そう、黒い光を散らしている。


「……」


懐かしいわね、と素直に思う。

だって私は、あの剣と共に過ごした時期があるもの。


「久しぶりね、時空王の権威。……私の事覚えているかしら。あんたには色々と、大変な目に遭わせちゃったわね。こんな所で、刃だけになっているなんて。不格好だわ。不安定にもなるわよ」


大岩をよじ上って、いったいどうなっているのか確かめたいけれど、その刃に触れる事はできない。

刃は周囲の空間を歪める事で、自らを守っていた。

まるで、主以外には触れさせないと、彼の帰還を待ち望んでいるかのように。


「……ああ、なんでここにトールが居ないのかしら」


私がこれに辿り着いたって仕方が無いじゃないのよ。

だって、こいつは私を完全に拒否してるんだもの。そりゃそうでしょうけど。


主でもない紅魔女に振り回されたあげく、まっ二つにさせられたんだもの。


「うーん、トールだったらこの場所をしっかり覚えておけるんでしょうけど、私はあまり方向感覚が良くないから、ここを離れてトールを探しに行っても、また戻って来れるかしら。何にせよ、トールよ……」


よいしょよいしょと大岩を降りていた時だった。

後ろからグンと引っ張られ、私は宙に浮く。


「見つけたぞ小娘」


「え」


ライズだった。

うかつにも、時空王の権威の空間の歪みに気を取られ、背後からライズが近寄って来ていた事にすら気がつかなかったのだった。


「は、離して離して、セーラー服の上着はすぐに脱げちゃうのよ!!」


襟元を掴まれ、宙ぶらりん状態。

おへそ丸見え。

私はばたばたと暴れたけれど、ライズは「ここで何をしていた」と、私の顔を自分の方に向けて圧倒的迫力の表情で問いただす。鼻息が荒い。


「別に何もしちゃいないわよ」


「嘘だ。あの似非聖女に言われて、“また”この刃を奪いに来たのだろう。許せん……許せんぞあのばばあ……っ」


「ばばあって」


ライズは私を睨みつけ、宙ぶらりんの惨めな姿のままの私を、この間から連れて行った。

でも、分かった事がある。

アリスリーンとライズは、結局の所、この剣を巡って争っているのね。








「お腹がすいたわ」


「捕虜のくせに厚かましいやつめ」


「うるさい筋肉だるま。私は動き回ってお腹がすいたのよ。捕虜が餓死したら、“もう一人の男”も来ないわよ!」


「……」


ユートピアの王の間とは打って変わって、暗い岩穴の岩の王座に座るライズ。

私はその王座に見下ろされる場所で、小さな檻に入れられた。

まあ、自力で脱出する事もできるけれど、なんだかここに居た方がトールと早く会える気がするのよね。


ライズは額に筋を作りながらも、側の兵士を呼んで「鳥でも食わしておけ」と命令。


「わあ、ここにはお肉があるのね!」


「カルディアのグリフォーンは大陸の空を飛ぶ鳥を捕えてくるからな」


「へええ、凄いわねえ」


なんて、世間話をしていたら、私のご飯はやって来た。

持ってこられた串焼きの肉はワイルドだけど、とても美味しそう……

まるまる一匹なんて、気前が良いじゃない。


檻の前に置かれた皿に手を伸ばす様は、なんだか滑稽な気がしたけれど、気にせず引き寄せる。

皮はぱりっとしていてカリカリに焼けている。中身はジューシー。

ああ、お肉って焼いて食べるだけでも美味しいから最高よね。


「おい女、もう一人の男はどういった奴だ。我々の攻撃を跳ね返したらしいが、そういった魔術師なのか」


「……」


肉を頬張りながら、少しだけ考える。

ぺろりと唇を舐め、私はニヤアと笑った。


「さあ、どうせもうすぐここへ来るだろうし、その時に聞けば?」


「ふざけおって。貴様のような小娘など、俺がはたくだけでつぶれて死ぬという事を忘れるな」


「言うわねえ」


恐れもせず、ぺろぺろと指を舐めてポケットからハンカチを取り出し、口を拭う私に対し、頭に血を上らせていたライズ。

彼が王座から立ち上がった、その時だ。


王座の間の外が騒がしくなり、「敵襲敵襲!」と叫ぶ声が聞こえた。

ああ、やっと来たのねと思った私と、「やっと来たか」と声に出し、表情を更に引き締めるライズ。


ライズは手を挙げて、この部屋に居る兵士達に攻撃の準備をさせた。



キイ……



岩戸が開いて、一歩一歩この部屋に入って来た、黒衣の男。

攻撃のために手を振り下ろそうとしたライズは、その男を見た瞬間目を見開き、その勢いのついた腕を無理矢理に止めた。


それだけ、彼の“瞳”に宿る黒魔王の色は、変わらなかったと言う事でしょう。


彼ら、魔族にとって。



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