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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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05:『 5 』トール、黒平原を越える。


「確かに、真っ黒だな」


どうしてこうも禍々しくなってしまったのか。

と思う程、その平たい大地は真っ黒だった。

草木が黒い。また、空も淀んでいて、禍々しい。黒平原と呼ばれるのもムリはない。


「わあああ……た、たっかーい……」


「おい、なんか顔が青いぞ」


マキの声が震えていた。


「私、ドラゴンに乗るのって初めてだから」


「……しっかり捕まっていろよ。何があるか分からないんだから」


「落ちちゃったら嫌よ。安全運転でね?」


マキが俺の腰に手を回して、ぎゅっとしがみつく。案外臆病だな。

俺たちは今、黒平原の上空に居た。


目を凝らすと、アリスリーンの言っていた通り、向こう側に黒い山が一つだけ、ぽっかりと見える。

カルディア・マウンテンと、そのままのネーミングらしい。

山頂にはドーナツ型の黒い雲が浮かんでいて、いかにも“悪の巣窟”と言った感じだ。


「なんか悪魔が出るとか言っていたけれど、このまま空を進んでいたら、何事も無くあの山にたどり着きそうね」


「……そう言う事言ってると、何かあったりするんだよな」


「フラグ立てちゃうって奴ね」


「そうそう」


わはは。

なんて会話をしながら笑う余裕はあったが、気がつくと前方から、黒い粒のようなものが空を飛んで来ているのが分かった。


「あれ……何かしら」


「……魔獣だな……グリフォーン族か」


「あ、背中になんか乗ってる」


「敵兵か」


わらわらとこちらにやって来たのは、やはりカルディアの兵だった。

きっと俺たちを見つけて、出撃して来たのだ。


「……あれ、なんか点々がこっちに向かって……って、あれ、矢よ、矢!! あああ、射殺されちゃう!!」


本気で恐れているようでも無いのに、騒ぎ立てるマキ。

だけど何もする気がないな、こいつ


「仕方ないな」


俺は人差し指を突き出し、それを真横に流す。

すると、俺たちの前方に“天鏡スカイミラー”が張られ、全ての矢を一斉に跳ね返した。

返り討ちにされた兵士達は、ぼろぼろと地面に落ちて行く。


「あらら、案外容赦ないのね」


「……俺は身内には厳しいタイプだ」


「へえ」


ただ、異変に気がつかずにはいられない。

大地から生えるようにして現れた黒い“何か”が、俺たちの騒ぎを聞きつけたかのように現れた。

大きな大きな、人型の濃い霧のような。

それが、落ちて行く兵士を捕まえては、食らっていたのだ。


「う、うわあ」


マキも、声を漏らした。

流石に、この光景を前に驚かないわけにはいかない。


「あれが、黒平原の“悪魔”か……?」


その人型の濃い霧は、地面に落ちて、逃げる兵士を数人食らったら、また大地に戻って行った。

なんともまあ、おぞましいものを見た。


「トール!! 前、前!!」


マキが俺を揺さぶって声を上げた。

というのも、これを機に敵兵が数体、すでにこちらに近づき、大柄のオウガ族の男が大剣を振り上げていたのだ。


「おっと」


俺はグリメルに指示を出し、それを避けた。敵兵の隊に突っ込んで行く形となったが、グリメルの速度と反応に対応できる者は居ない。

それもそのはず。

グリメルは俺の作った魔道要塞のようなもの。言葉にせずとも、脳内で指示するだけで、自在に敵を避けてくれるのだ。


「きゃあああああっ!! あああああああ!!」


右へ左へ、行ったり来たり、回転した降下したり上昇したり、めまぐるしいジェットコースターみたいな体験に、マキは悲鳴を上げていた。

こいつ案外、絶叫系は苦手なタイプか……?


魔族の敵兵を抜けると、それは目の前に迫っていた。

カルディア・マウンテン……

連なる黒い峰の集合で、一つの大きな山に見えるようだった。中心の、一番大きな山の頂上は、黒い雲に覆われていて見えない。


さて、ここからどう降りて行ったら良いものか。

きっと、あちこちから敵が俺たちを見ているはず……


「仕方が無いか」


山のどの部分に降り立つか目星を付ける。

そして俺は、マキを抱えて、グリメルの上に立った。


「へ?」


「おい、今から凄くひやっとするだろうから、覚悟しろ」


「え、え、え」


ニヤリと口角を上げると、マキがさらに真っ青になった。

そのまま、グリメルという空間を解除。


俺たちは落下。


「い、いやあああああああああ!!!!」


マキの悲鳴は痛い程耳を貫いた。

彼女は俺にしがみついたまま。


やはり落下の途中、山のどこからか矢が放たれ俺たちを狙ったが、それが俺に到達する直前、転移魔法を展開し、先ほど目星を付けた場所に移動したのだった。

敵は、俺たちを見失った形になる。







「ああ、ああ……死んだかと思ったわ」


「お前がああいう、スリリングなものを苦手としているとは思わなかった」


「ちょっとなら好きなのよ。だけど、あんまり酷いとムリよムリ。子供用のジェットコースターとかなら好きなんだけど、さっきのはそれの比じゃなかったじゃない!!」


「あはは」


「なに笑ってんのよ。自分が得意だからって……」


山の途中の岩場に降り立つも、少しの間ふらふらとしていたマキ。

俺は脇に収納空間を出して、水の入った小瓶を取り出し、彼女に手渡した。


「あ、ありがとう……」


「まあ少し様子を見るから、休んどけ」


彼女が回復するまで、俺は岩場に身を隠しつつ、そこから見渡せる黒平原を見つめていた。


さっきの黒い霧の固まりのようなのは、はいったい何だったんだろう……


ここは、“時空王の権威”が作り出した大規模空間。

確かに、あれには単体で空間を生み出す程の力があった。

だって、2000年前も、黒魔王の作ったアイズモアを本当の意味で維持していたのは“時空王の権威”だからだ。

あれを見つけた山には、空間を維持しやすい土台ができていた。


ここもそうなんだろうか。

爆発でどことも知れぬ場所に眠った“時空王の権威”が、じわりじわりと時間をかけて、空間を生み出したのだろうか。


「ふう、トール。もう平気よ……まあ、まだ少し心臓がばくばくしているけど」


「それは良かった。そろそろ、“中”へ入ってみようか」


「なんだか、冒険みたいねえ」


「……」


岩場の隙間から移動し、どこか、中へ入れる入り口や、奴らの営みの跡は無いだろうかと探った。

ただやはり、そう簡単に中に入れるようにはなっておらず、俺たちはしばらく足場の安定しない岩場を歩いていただけだった。


「あ、トール。見て……」


突然、マキが目ざとく見つけたのは、“亀裂”だ。


「……」


その亀裂は、とても小さな隙間であったが、辿って歩いて行くと、やがて大きな大きな亀裂になっていった。


「こ、ここから中に入れると思う?」


「無茶苦茶な……いや、でも可能か? ……いや、何も見えない」


覗いて見ても、真っ暗な亀裂。轟々と、下から吹き上げる風の唸る音。

降りて行く手段はいくらでもあるが、慎重になってしまう。


「ここにユリシスが居たらな。あいつの光の精霊の力で、奥の方まで照らしてもらえたかもしれないのに……」


言っても仕方が無い。

マキは「ふーん」とだけ。


ただ、その時だ。

あまりに、表の見える部分に居すぎたせいか、空を飛ぶグリフォーン兵数人に見つかった。

しかも奴ら、今度は古典的な弓矢じゃなくて、呪文を唱えてやがる。

しかも、複数人による融合大規模魔法。


「おいマキ! ぼさっとしてるな、逃げるぞ!!」


俺が彼女に声をかけた時、マキは「地上ならこっちのものよ」と、いつの間にやら手に槍を持っていた。

真っ赤な、彼女の背丈より長い槍。

マキの周囲には赤い魔力が漲っている……


「大規模魔法には、大規模“破壊”魔法で、お返しするだけの事!!」


「大雑把だな!!」


言った先から、彼女はその槍を構え、敵の魔法より早く一振り。

ただそれだけで、その槍の先からは言葉にできない程巨大なエネルギーが放たれ、敵の魔法ごとぶっ飛ばした。


「力こそ正義!!」


「うるせえ、早く逃げるぞ」


俺はマキを引っ張って、岩場に逃げようとした。

あまりに大騒ぎになると、隠れ辛いからだ。


だがその時。

黙々と、先ほどのマキの攻撃によって立ち上った煙の中から、俺とマキの間に、降って来た黒い何か。


そう、黒い人型の霧。……悪魔だ!!


「き、きゃあああっ」


その衝撃で、俺とマキは分たれた。

すぐ脇にあった岩場の亀裂から、ふらついたマキはコロンと落ちてしまったのだ。

なんてこった!!


「マ、マキ!!」


「トーーールーーーーー……」


彼女の、俺を呼ぶ声が小さくなって行くのが分かった。

だが、俺はすぐに側に行く事ができない。


なぜならば行く手を阻むように、その“悪魔”が俺を見下ろしていたからだ。


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