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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第六章 〜カウントダウン〜
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04:『 5 』トール、話をしよう。

「ねえ」


今まで大人しくしていたマキが、琥珀の結晶を指差して尋ねた。


「なんでこれ、柄しかないの? 柄しか無い剣なんてガラクタじゃない。ヘタしか無いナスビじゃない」


「……」


まあ、確かに。

なぜこんな姿になってしまったんだ、俺の神器。


「おそらく、紅魔女が西の大陸を大爆発に巻き込んだ際、分離したものと思われます。黒魔王様はご存じ無いかもしれませんが、黒魔王様亡き後、“時空王の権威”をかの紅魔女が盗んでしまったのです」


「……」


「……」


アリスリーンの告げる事に驚きはあまり無く、俺は、ちらりとマキを見た。

マキはさも興味無さげな表情を繕い、あさっての方向を向いて口笛を吹いている。


「実を言えば……この西の大陸には、大規模空間がもう一つあります」


「……?」


「その大規模空間にも、私ではない魔族の王が立ち、魔族の国を作っています。名を、魔族の強国“カルディア”。その空間を作り出しているのが、おそらく“時空王の権威”の、刃の部分だと思われます。カルディアの王は……オウガ族の鬼神ライズです」


「な、なにっ!?」


また、懐かしい名前が出て来た。

ライズも、かつてアイズモアで仲間だったオウガ族の族長だ。

アイズモアでは鬼神と呼ばれた、屈強な体を持つ男だ。


アリスリーンは、どこか視線を強めた。


「カルディアの王ライズは、我がユートピアの領土を欲し、たびたび争いを仕掛けてきます。この場所で、静かに暮らしたい我々と違い、あの男は勢力を拡大し、北に捕われた魔族を助けるつもりのようです……あの男の気持ちも分からなくはないのですが、無謀な事と言えるでしょう」


「……あの、ライズが」


確かに、ライズは感情的で気性が荒く、脳みそ筋肉なところがあったが、そんな。

かつての仲間だったライズとアリスリーンが、この西の大陸で戦いを繰り広げていたなんて……


「とりあえず、少しライズとも話がしたい。俺が、そのカルディアへ赴こう。行き方は?」


「……黒平原の向こうにある山の、渓谷の底です」


「は?」


「カルディアとユートピアは、黒平原という黒い平原で繋がり、カルディアは平原の向こう側にある山の、渓谷の底に存在しています」


「……“表”に出る必要は無いのか?」


「ええ。二つの空間は“かろうじて”繋がっております。まるで、柄と刃が再び一つになる事を望むかのように……」


「……」


柄と、刃。

本来それは、一つだったはずのものだ。

いったい何があって、二つに分かれ、それぞれが異空間を作り出したのか……黒魔王の力無くして。


「ですが、黒平原には悪魔が出るのです」


「……は?」


「おそらく、この空間を操作する者の居ない状態での、不安定な空間ですから、黒平原には人間でも魔族でもない、黒くて、恐ろしい……悪魔が出るのです。その正体がなんなのかは、分かりませんが」


困ったように首を振って、だけど、ちらりと俺たちを見て様子を探るアリスリーン。

俺は何が何だか分からなかったが。


「だったらさっさと行きましょうよ。行かなきゃ、何も分かんないじゃないのよ」


適当な口調でそう言うマキの言葉は、確かに適当だが的確でもあった。

そう。行かねば何も分からないのだ。







ここユートピアは、城と城下町、その周囲に広がる田畑で成り立っている小さな小さな国家だ。

現実世界である、あの巨木の森から水を引いて農耕を行い、生活を維持している。

時にこの空間から大人を出し、海岸で魚や貝を持って帰るらしい。

だからか、ここの食べ物は野菜やキノコ類、魚や貝の干物が多くあった。

肉はあまり無い。


「はん。しけたご飯ね」


「そう言いつつも、がつがつ食ってるじゃないか」


「食べれるときに食べとかないと」


マキは遠慮を知らず、ユートピアの王宮で出された料理を次から次に平らげていた。

明日にはここを出て、黒平原へ向かう。



夜、俺は与えられた一室のベッドに寝転がり、ややこしい状況を整理していた。


そう。

かつての仲間、アリスリーンが、西の大陸に存在する大規模異空間にて、魔族の王国ユートピアを建国していた。

また隣り合わせにしてあるもう一つの空間では、かつての仲間ライズが、魔族の強国カルディアを建国。

隣り合う魔族の国同士は、争いを続けているという。

また、二つの国は、黒魔王の神器である“時空王の権威”の柄と刃を所有して、空間を維持している……


「しかし……紅魔女が持っていったという俺の剣、いったいどうして二つに割れてしまったのか。それだけ、この大陸での爆発が凄まじかったという事か……」


紅魔女。

なぜ、俺の剣を持っていったんだろう……


俺は自分の死に様を思い出せるのに、最後の最後が曖昧だ。

死に際、誰かが側に居てくれた気がするのに。

それが、紅魔女だったんだろうか。


「……マキア」


紅魔女が転生した、少女の名前だ。

柔らかいベッドに身を委ね、目をつむる。

今日も彼女を捜しにいく。俺が失った記憶を、彼女から奪い返すため。


紅魔女……マキア………そして、マキ……


一つの長い長い、赤い糸で繋がっているはずの彼女を、見つけにいく。








「あら、今日も来たのね」


暗い記憶の箱の底。

見つけた扉の前には、やはり“マキア”が居た。

鮮やかなまっ赤な髪をしていて、派手なリボンを頭につけている。


「今日も戦うの?」


「いや……今日は少し話をしよう、マキア」


「話?」


やる気満々だったマキアが、俺の答えにきょとんとした。

そして、急に面白く無さそうな表情をして「やってらんないわ」と言う。


俺はポケットから、棒付きキャンディーを取り出した。


「!?」


「これをやるから、こっちにこい。そ、そうだ……こっちだ」


勝ち気で生意気な表情をしていた、最悪の魔女は、ただの棒キャンディーに心を奪われ、よろよろとこちらにやってくる。


計算通り!

やっぱり中身はマキと変わらないなマキアァ!


「俺と話をしてくれたら、これをやろう。そこに座れ」


「……うん」


いきなり素直になるあたり、やはりマキと似ている。

そうだ。

マキから得た印象、情報が、一番の手掛かりになる。


俺はマキアの座った場所から、ある範囲まで花畑を作った。

真っ暗な世界で会話しても味気無いからな。


「まあっ」


「こういうの、好きか?」


「そうねえ。嫌いじゃないわよ」


「だろうな。お前は“暗い所は苦手”って言ってたもんな」


「そうねえ。魔法で作った暗闇は、昔から苦手で……」


「……」


「……」


マキアはハッとして、口を押さえた。

俺は、魔王らしく余裕の笑みを浮かべ、瞳を細める。


やはり。この情報は正しい。


「あ、あんたなんでそんなこと……っ」


「おっと、キャンディーをあげよう」


「……」


俺は棒付きキャンディーを一つ、マキアに渡した。

その際、手と手が僅かに触れ合う。彼女の手は、俺の手よりよほど温かく感じた。


マキアは大人しくそれを舐めていた。


「本当に、食ってる時だけは大人しいな」


「飴じゃ物足りないわ」


「そりゃそうだろう。お前は“レモンケーキ”が好きだもんな」


「お茶をするならレモンケーキだって、デリアフィールドでは常識だったもの」


「……ほお。やっぱり……お前レモンケーキが好きだったのか」


「あ」


マキアは目を見開いた。


「あ、あんた……」


「はは」


誘導尋問は楽しい。

おそらくマキアは、さほど駆け引きの上手いタイプじゃない。

ひねくれ者だが、割と一直線。

強がって、お高く止まっている風を装っているが、少しつつけば、ボロが出る。


「流石にレモンケーキは持ち合わせていないが、ビスケットをやろう」


「わあ、ありがとう」


フレジールから持って来た、保存用のビスケット缶。

マキアはその缶詰を開けて、ビスケットを食べ始めた。

まるで子供のようだな。


俺は以前、マキアの事を、誰からも好かれる聖女のように勘違いしていた節がある。

だからこそ、うさん臭くいけ好かないなと思っていた。

自分を犠牲にしてルスキア王国を救った、英雄なんて……と。


だが、こうやって目の前で会話してみると、それはただの妄想であり、本当のマキアは、もっと身近で愛嬌のある奴なのだと思い始める。

それはおそらく、“思い出す”事に等しい……


そう。マキと、本当にそっくりな態度だ。

見た目だけが少し違うのだが、中身は……会話している感じは、ほとんど変わらない。


「美味いか?」


「うん! 記憶空間ここって、美味しいものなんか皆無だから嬉しいわ」


「……」


俺の中の、記憶。そこに居座るマキア。

思わず俺は、彼女の頬に触れた。


マキアは俺を見上げて、ビスケットを食べるのをやめる。


「……お前は、温かいな」


「トールは相変わらず、冷たい手をしているのね」


「生まれつきだ」


「私だって、生まれつきよ」


彼女を探るように見つめると、俺の視線に耐えられなくなったのか、彼女は顔を真っ赤にし口をぎゅっとつぐんで、慌ててビスケット缶の蓋を閉めた。


「もう逃げる!!」


「宣言して逃げるのかよ……」


「追いかけちゃダメよ。まだまだ、“お菓子”が足りないんだから」


マキアは俺に指を突きつけ、ふんとそっぽむくと、一目散で逃げて行った。

揺れる赤い髪は、やはりとても懐かしい。


俺は彼女を追いかけなかった。

また、話のネタとお土産を持って、彼女を見つければ良いだけの話だから。



ただ不安な事と言えば、俺の貯蔵空間にあるお菓子のストックが、どこまで持つかという事である。


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