エピローグ
深く重ねた唇を離すと、怜央はまだ少し名残惜しそうに、けれど先ほどまでの脆さが嘘のような、いつもの傲慢で不敵な笑みをその唇に浮かべた。
「……言っておくが、紬。俺の呪縛から逃げたいと言っても、もう絶対に離さないからな。お前のその『香り』も、その有能な頭脳も、俺への生意気な口答えも、すべて一期の手元に置いておく」
「はいはい、存じ上げております、独占欲の塊な社長さん。……ですが、まずはこの不備だらけの契約書を盾に、神崎取締役へ完璧な反撃(お返し)の書類を作らなくてはなりませんね?」
紬がドレスのポケットから、先ほどスマートに回収しておいた神崎の契約書の控えをチラつかせると、怜央は声を上げて愛おしそうに笑った。
「最高だな。よし、オフィスへ戻るぞ。今夜は朝まで、お前のタイピングを俺の特等席で見せてもらう」
「ふふ、喜んで。……あ、でもその前に、コンビニでアイスをふたつ、買っていきませんか?」
「……フン、お前がどうしてもと言うなら、付き合ってやらないこともない」
繋いだ手は、もう二度と離れないほど強く結ばれていた。
偽りの婚約から始まった二人の関係は、互いの欠落を埋め合う、世界で唯一無二の本物のマリアージュへとたどり着いたのだった。




