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5 長老の語る神々

 ジーナの色仕掛けで大口を叩いてしまった俺は、仕方なくそのままとぐろを巻いて村人たちが用意した崖上の台座へと収まった。

 すると村人たちは大慌てで色々な材料を持ち寄り、あった言う間に簡易的な掘立て小屋を建て始める。俺がしなだれ掛かってくるジーナを愛でている間に、小屋は最低限雨風がしのげるだけの様相を現したのだった。


 夢の中から眺めていたことを思い出すと、確か彼らはいまだに原始時代丸出しの竪穴式住居に暮らしていたはずだ。それがあっという間にここまでのものを作り上げるなんて、中々馬鹿にしたものでもないな……。


「お前たちの住んでいる家とは随分と形が違うようだが……?」

「はい。あれは住み心地は良いですし丈夫なのですが、作るのには時間がかかりますから。それに、この場所はあれを作るのには向きません」

「そういうものか……?」


 膝ではなく「とぐろ」の上に座らせたジーナが答えてくれる。確かにこの崖の上は穴を掘るには地面が硬そうだ。時間も掛かるだろうし、崖が崩れてしまっては目も当てられない。彼らも考えているのだな。


「ウェイウーの一族を退けたあかつきには、もっと立派なものを建てさせて頂きますので、今しばらくはこちらでご勘弁を願います」


 ジーナがとぐろの上で丁寧に腰を折ってそう言った。なんだか良いように使われている気がしないでもないが、彼女は一々上目遣いで俺の竜の身体、うろこを撫でながらそう言うのでうんうんと頷いてしまう。

 うーむ……。原始人で身体も貧相な彼女だが、立派に色仕掛けをしてくる。侮ることはできないな……。いや、俺はどうにも女に弱く、どんなに気をつけたとしてもころころっと手の平の上で転がされてしまいそうだが。



「では、改めて説明させて頂きます」


 数日そうやって過ごして、ジーナを愛でたりそれなりの馳走を振る舞われたりしていると、完成した小屋に長老がやって来る。ここはさしずめルオール川の神の神殿といったものになるのだろう。ジーナは巫女か何かにあたるだろうか。


「うむ。ウェイウェイとかいうパリピ集団が攻めてくるのだったな……?」

「恐れながら、ウェイウーの一族にございます、ルオール様」


 俺の大きな身体にもすでに臆さなくなってしまったジーナが、俺の言葉を訂正する。うん、そうだったそうだった。ウェイウーの一族だったな。ちゃんと覚えているぞ。


「はっ! 彼奴らは既に隣の村を攻め滅ぼし、我らの村との境にて仮の拠点を作り上げております。ルオール様とお会いした日の数日前に通達をよこし、次の満月までに返事がない場合、この村を滅ぼすと、そうのたまってございます……」


 次の満月まではあと三日ほどある。それまでに奴らを追い返すなり、逆に攻め滅ぼすなりしなければならんということか……。


「話し合いは……不可能なんだろうな……?」

「はい……。幾度も貢納品を減らすよう嘆願致しましたが、とりつくしまもございませんでしたわい……」

「となると、そやつらはよほど武力に自信があるのか……」


 ウェイウーの一族が求めているのは収穫の八割、毛皮や織物、そして「最も美しく最も清らかな娘」だ。こんな法外な要求、飲めるわけがない。それは当然連中も分かっている。

 それでも要求してくるということは、やつらは最初からこの村の者達を滅ぼすつもりなのだ。そして、そんな横暴を行なっても心配がないくらい、圧倒的な武力を持っている。そう考えた方が良いだろう。

 戦闘になったらなったで仕方がない、要求に応えてくれるなら面倒がなくてラッキーだ、恐らくその程度にしか思っていない。それが許されると思うほどの武力か……。


「実際、戦ったらどうなる?」

「一瞬で、踏み潰されるかと……」

「人数か? それとも武器か?」


「それが……まったく分からぬのでございます……」

「分からない、だと……?」

「彼奴らの魔の手から逃れてきた者を一人保護致しましたところ、何がなにやら分からぬうちに、攻め滅ぼされてしまったと……」


 分からないときたか……。俺はそんなに詳しい方じゃないが、これくらいの時代なら何かあるんじゃないか? 例えば、性能の良い弓矢を開発したとか、他の集団が使用していない金属の使用法を見つけたとか、戦いに便利な動物を飼育しているとか……あるいは、何者かの力を借りているとか。


 ここまで考えて、ピンとくる。それはそうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()。俺と同じような存在が力を貸している。そう考えれば、人々が増長するのも理解ができる。


「神か……?」

「そ、それは……! し、しかし、それでは……!」


 長老が、大きく目を見開いてこちらを見上げてくる。思い当たってはいたが、そうは考えたくなかった。そんな表情に見えた。


「正直に話してしまうが、我も詳しくは知らん。神というのは、そんなに簡単に顕現するものなのか?」

「ご、ご存知、ないのですか……?」

「知らん。我が知っているのは、我が肉体たるこの川のことのみよ」


 内心ドキドキしながら口にする。だって仕方がない。本当に知らないのだから。俺は他の神と出会ったこともなければ、他の神がどのように振る舞うのかも知らない。

 なぜだかこの村の者達に侮られたり、ガッカリされたくないという思いはあるが、嘘をついても仕方がないだろう。


「そうですか……。そういうことも、あるのでしょうな……」


 長老は深く考え込み、何やらわけ知り顔でそう呟いた。ガッカリしたというよりも、得心がいったという顔で、俺は少しだけホッとする。俺が見限られたわけではなさそうだ。いや、俺はなぜこんなにも長老の顔色を伺っているのだ……?


「では、お話しいたします。我々と、神々との交流を……」

「うむ、手間をかけるな……」


「いえ……。といっても、私もそこまで詳しいわけではございません。全ては伝え聞いた話です。私が聞くところによると、神々の皆様方は、ルオール様のように、ある日突然我々の前に姿を現されます。

 それは我々のように外敵によって窮地に立たされたとき、戦場に突如として顕現なされることもあれば、何か大きな災害となってお姿を見せられることもあります。

 あるいは、何が起こらずとも何処かよりおこしになられ、我々に素晴らしい技術や食糧を与えてくださることもあります。

 決まっているのは皆様、我々では届くことのない、いと高きお力や智慧をお待ちだということです。そして、現れたのと同じように、突如として我々の前から去って行かれる……。

 神々の皆様はそういう方々だと、私は聞き及んでございます」


 ふむ。長老の話は、俺が知っている神とほとんど同じだ。違うのは、恐らく彼がいう神は本当に存在したのだろうということか……。

 俺がまだ人間だったころ、神というのは実在しない、人間が想像力で作り上げたものだった。だが、長老の話す神々は、きっと俺のように実在する神だった。

 自分の存在も手伝って、俺はそんな風にすんなりと理解することができた。


「しかし……しかし、もしもウェイウーの一族に、ウェイウー川の神様が協力しているのだとすれば……それはもしや、神々はかの一族に我々全ての人間を統べさせようとしているのではありませんか……?」


 長老が、俺の顔色を伺うように問いかけてくる。申し訳ないが、聞かれても分からんよ……。いや、それとももしや、これは確認をとっているのか……? あなたはどうなのですかと、他の神々と戦い、私たちを守って下さるのですかと……。


 大人しく俺と長老の話を聞いていたジーナが、不安そうな顔でこちらを見上げてくる。さりげなく「とぐろ」の上で薄いお尻を動かし、縋り付くように。


 わかったよ! やります、やれば良いんでしょう! くそ、ウェイウーの一族に力を貸しているウェイウェイくんとやら、絶対に許さんぞ!

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