番外編:いつもと違う真人様?
続編が、まだまだ先になりそうなので、番外編をどうぞ!!
(※少しだけBL表現があります。少しだけ。)
「フィリップ。俺は本当に、お前の役に立つことを教えられているのだろうか?」
ガシャンッ
私は真人様の口から発せられた言葉を聞いた瞬間、手の力が抜けて持っていたティーポットを床に落としてしまった。
ティーポットは派手に割れ、砕けた破片が床に散らばった。中に入っていた紅茶も飛び散り、絨毯のあちこちに染みを作った。……が、今はそんな事はどうでもいい。
私は物思いにふける様な真人様の姿を、まじまじと見つめた。
今日は恒例である、週に一度の真人様による授業の日。
いつもの様にフィリップ王子の部屋へやって来た真人様は、何やら思い詰めたような表情をしていた。
椅子に座り、いつまで経っても授業を始める様子は無く、口元で手を組んでなにやら考え込んでいる様だった。
フィリップ王子は、全く動かない真人様を気にしながらも、自席で積まれている書類の処理作業を始めた。
そして唐突に……この発言。
真人様。ついに……ついに御自分の教えが何一つ、フィリップ王子の役に立っていない事に気付いて下さったのですね!?
あなたの教えがいかにどうでもいい事かと! くだらない事かと!! 余計な事かと!!!
やっっっっと気付いて下さったのですね!!
私が感動のあまり震えていると、突然フィリップ王子が立ち上がった。
「何を言ってるんだ真人!! 君が教えてくれた事で役に立たない事なんてあったか!?」
フィリップ王子は焦った様子で真人様に励ましの声をかけた。
いや、逆に聞きたい。
今まで教えてくれた事で、役に立った事なんてありました?
真人様の授業の内容だが、最近は特に酷い。
カン蹴りやポッキーゲーム、めっちゃよく飛ぶ紙ヒコーキの作り方とか、明らかに遊んでいるだけにしか見えない。
恐らく、ネタ切れなのだろう。ネタ切れという程、何も教わっていないけど。
「ああ、フィリップならそう言ってくれると思ったよ。だが俺の中ではどうしても納得出来ないんだ」
私の中でも納得出来ていない。
「だから俺はずっと考えていたんだ。何とか、お前の利益になる知識を教えれないかと」
「真人……」
フィリップ王子は感動した様に震える瞳で真人様を見つめた後、静かに椅子に座った。
真人様……。
ここ数日で、いったいあなたに何があったのだろうか?
自分はこの国でも、稀少な異世界人の1人であるという事を、やっと自覚してくれたのだろう。
最近は異世界人の知識を元に、開発された商品の市場競争が激化している。
私はスカートのポケットの中に入れていた物を取り出した。
手のひらサイズの箱型の物で、真ん中にガラスレンズが付いている。
これも他国の異世界人の知識によって作られた『ヒデオカメラ』という物だ。このレンズ越しに見える光景を保存し再生する事が可能だとか。
詳しい仕組みは分からないけれど、とにかく物凄い品で、この国にはまだ一つだけしか存在しない。
そんなものを何故私が持っているのかというと、以前に真人様が教えた『ポッキーゲーム』がきっかけだった。
ポッキーという細長いおやつを、二人が両側から咥えて食べ進め、先に口を離した方が負けとかいう、全くやる意味がわからない遊びだった。
結局、勝負は真人様の勝ちだったのだが……その事をソフィア王妃に話した時……予想外の事態となった。
「それは真人様のポッキーがフィリップの中に入っていったの!? それともフィリップのポッキーが真人様の中に入ったの!? どっちだったの!?」
普段は穏やかなソフィア王妃が突然、物凄い形相で訳の分からない事を問い詰めてきた。
正直、物凄く怖かった。
「わ……分かりません」
「なんで分からないのよ!!? そこ凄く重要でしょ!? あなたはどっちだと思うの!?」
「ど、どっちといいますと……?」
「真人様のポッキーがフィリップの中になのか、フィリップのポッキーが真人様の中になのか、どっちだと思うのかと聞いているのよ!!」
「えっと……よく見てなかったのでわかりま」
「事実じゃなくて、あなたの考えを聞いてるの!!」
「えええ?……えっと……真人様のポッキーが……フィリップ王子に……ですかね?」
もう全く意味が分からないのだけど、なんとなく泣きそうになった。
「……やっぱりそうよね!! そうでなくちゃ!!」
どうやら私の回答は正解だったらしく、王妃様はやけにご機嫌で私にこのヒデオカメラを渡してきた。
「これからは、二人の様子をこれでちゃんと記録してきてね。またポッキーゲームする時はぜっっったい忘れちゃダメよ?」
そんなわけで、この国にたった一つしかない貴重な物を、二人のくだらない授業を記録するためだけに渡された訳だ。
もっと他に使うべき所があると思うのだけど……。
だけどもうあんな思いは二度としたくない。
とにかく記録さえしておけば大丈夫のはず。
今日はなんだか真人様もいつもと違うし、この国のためになる事を教えてもらえそうな気がする。
私はスイッチボタンを押し、真人様の姿を記録し始めた。
「そして俺は考えたんだ。フィリップのために。女の人の胸をワンチャン触る事ができる方法を……ワンチャンな」
…………は?
ガタタッ!
真人様の口から耳を疑いたくなる発言が飛び出したと同時に、フィリップ王子の方で何かが倒れる音がした。
そちらへ振り返ると、机に手をついて目を見開いて立ち上がったままのフィリップ王子の姿。その足元には先程までフィリップ王子が座っていた椅子が倒れていた。
恐らく立ち上がった勢いで後ろに倒れたのだろう。
フィリップ王子は何も言わずに腰を下ろしたが、椅子は倒れたまま。
恐らく、真人様が教えてくれた空気椅子とかいうやつをやっているのだろう。
いや、普通に椅子を戻して座ったら?
「詳しい話を聞こうか」
聞くな。
危うくこの手に持っているヒデオカメラを握りつぶしかけた。
っていうか、何。
この人、女の人の胸を触る方法をずっと考えてたの?
馬鹿なの?いや知ってたけども。
全然いつも通り彼じゃないか。
何も彼の身に起こってはなかったわ。
前フリ長すぎだろ。
「ただ、これには大きな欠点があるんだ」
「いいから話してくれ」
フィリップ王子は真人様を急かすようにうながした。
もう聞きたくてウズウズしちゃってるわこのクソエロ王子は。
「胸を触りたい女の人にこう言うんだ。『俺には触れた物を大きくする力がある。ちょっとその胸を大きくしてみないか』ってな。貧乳に悩む女性なら、ワンチャンあるかもしれん」
吐きそうなほどくだらない内容だった。
「それは……その力があるのは本当なのか?」
「いや、残念ながら嘘だ」
「真人。嘘は良くない」
いや、もっとツッコむべき所があるでしょうが。
そこ今重要か?
「やはり嘘はいけないよな……ならば『俺には触れた物を大きくする力があるかもしれない。ちょっとその胸で試させてくれないか』これでどうだ?」
「ああ、それなら……」
「アウトですよ」
私はフィリップ王子の言葉を遮るようにツッコミを入れた。
「触れた物を大きくする力があるなら、わざわざ女性の胸を触る必要が無いでしょう。そこら辺の石でも触って大きくしたらどうですか?」
「確かに。じゃあ、『俺には女性の胸を大きくする力があるかもしれない。ちょっとその胸で試させてくれないか』これでどうだ?」
「馬鹿ですか? 胸触りたい魂胆が丸見えですよ」
「そうだぞ真人。それにその方法には欠点がある。胸が小さい人にしか使えない」
フィリップ王子はどこか切なげな様子で……っておい。
巨乳に触れないからって急にテンション爆下げしてんなよ。
「そうなんだ。だから、お前の役には立たないんだ……。余計な事だったな……」
「そうだな……」
二人は意気消沈しながらため息をついて沈黙した。
記憶から消したい程無駄な時間だった。
だけど残念なことに、記憶どころかこのカメラに記録までされてしまったわ。
しばらく静かな時間が流れた後、フィリップ王子は何かを思い付いた様に顔を上げた。
「じゃあ、『俺には女性の胸を少しだけ小さくする力があるかもしれない。その胸を少しだけ小さくして肩凝りを直してみないか』は、どうだろう」
おい、引き戻すな。その話はさっきの所で終わらせとけ。
何? 静かになったと思ったらそんな事考えてたわけ?
「奇遇だなフィリップ。俺も同じ事を考えてたぜ!」
お前もかああああぁぁぁ!!
「『小さく』じゃなくて『少しだけ小さく』って言うのがポイントだよな。さすがフィリップだな。一発で正解を導き出すなんてな! 今度機会があったらさっそく試してみるぜ!」
「ああ! ぜひ結果を教えてくれ」
二人は活気を取り戻した様にガシッと握手を交わし、いつもの様子でじゃれ合っている。
結局、最初から最後まで何一つ変わっていなかったわね……。なんだったの。これ。
はぁ……。今日もまた、いつもと同じ余計な授業が始まるのだろう。
とりあえず。
巨乳の方。真人様に会ったら逃げてください。
全力で。
御愛読ありがとうございますm(*_ _)m
久しぶりの三人が書けて楽しかったです(*^^*)
続編は、まだまだ先になりますが、いつか書きたいと思っています!
もしお気に召していただけたら、ブクマ、★評価宜しくお願い致します!