表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6章 入居の挨拶

「あんた、202号室に何の用かね」

 わたしが振り向くと灰色の着物を着た老婆が佇んでいる。

「わたしは今日、203号室に引っ越して来た者ですけど、ご近所に挨拶しようと思いまして」

「ここは”開かずの間”だよ。近づいちゃだめじゃないか」

「はあ?ところで......どちらさまで......」

「あたしは浦島カヨ。もう二十年以上、201号室に住んでるよ」

「そうでしたか」

 わたしは簡単に自己紹介した。名前は水原敏子。裏野国際短期大学二年生で専攻は国際コミュニケーション学部。

 カヨと名乗る老婆はおもむろに懐からボロボロになった写真を取り出す。

 二十歳ぐらいの青年の顔がうつっている。

「実はこれ、あたしの孫なんだけど」

「はあ......]

「今、裏野工科大学に通ってるよ。専攻は情報工学科だったかしら。

 小さいころから勉強が大好きな子でねえ。学校でも成績がいつも一番なんで、特待生っていうのかなあ。毎年、ご褒美として大学の学費が免除になるみたいなの。

 大学に入学するときも入試試験は一番で合格したみたいだし......」

「はあ......とても優秀なお孫さんなんですねえ」

 わたしは吐息を漏らす。

 この年になると孫の自慢話しか楽しみがないのかしら。

 おりからの西日でカヨの顔は赤く染まる。

 ふと視線を外に向けるとベランダ越しに真っ赤な夕日が目に入る。

 それはまるで街全体を血の色に染めているような毒々しさだった。




**************


入居者募集


物件 裏野ハイツ 203号室

間取 1LDK(リビングルーム9畳、洋室6畳)

家賃 4.9万円 敷金なし

交通 JR浦野駅まで徒歩7分


住人のみなさまは家族同様のフレンドリーなお付き合いをしていらっしゃいます。

是非、あなたも裏野ハイツにお住まいになりませんか。


裏野ハイツ管理人  裏野魔太郎


(了)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ