セレスタの魔術 とある大国の臣下
馬車を急かしながら男は昨日の光景を思い出す。
セレスタの王宮で見せられた魔術は圧巻だった。
最初に見せられた魔術もさることながら、双翼の魔術師が見せたあの魔術――。
空に魔法陣が浮かび上がったときは冷や汗が背を伝った。
あんな魔術は聞いたことがない。
歓声を上げる人々に降る花の欠片。
心を掴まれる感覚というのはああいったものなのだろう。
思わず手を伸ばしてしまいそうだった。
どうにか思い止まったがあれは危険だ。問答無用に心を揺さぶる力を持つもの。
近づきたいと思うと同時に強い危機感が湧く。
美しいだけではない――。あれは国を滅ぼすこともできる魔術だ。
セレスタ国内の貴族たちはもとより、自分たちのように他国から招かれた者たちも感嘆し、賞賛していた。
危機感が麻痺しているとしか思えない。
あのような大魔術で国ごと滅ぼされたらどうするのか。
仮にあの魔法陣がはったりで実際は幻しか作り出せないのだとしても、やりようでいくらでも脅威になる。
花びらの代わりに火の粉を降らせ、恐慌を作り出すこともできる。
同時に火矢などで火を放てばさらに効果的で、恐慌をきたした民は簡単に騙され街から逃げ出すだろう。
セレスタは危険だ。何より単身あの魔術を使って見せた双翼の魔女。
募る危機感は帰還の足を速めた。
帰る道中にも聞こえてくる魔術の話題がそれを煽る。
王子の結婚式の日に花びらが降った、花びらを掴むと幸せになる、などと噂に過ぎないことも混在している。
こんな場所にまで魔術が届くわけがない。理性ではそう考える。
しかしセレスタであれば、と思ってしまうのも事実だった。
他の魔術師を潜ませておいて一人で魔術を使ったように見せかける。
演出としては単純だが、人を驚かすとても有効な手だ。
複数の魔術師が関わっているのであれば一人ではあの規模の魔術を保てないのだと、そう考えることもできる。
願望で予想を立てるのは非常によろしくないことだとは分かっている。しかし……。
そうであればいいと思わずにはいられなかった。




