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22 『女計』

 22 『女計』




 艾老師が初日の5人のチケット番号を選び出すと、1時間ほどで5人の子供が揃った。

 最年長の12歳の少年は、涙ぐんでチケットを幼い弟に譲ったので、特別にソロモンと握手する権利を与えた。

 相当ビビっていたが、何とかソロモンの右手に右手を乗せて、拍手を浴びた。

 マスコミは美談として取り上げ、少年は暫くの間、英雄になった。


 ペイル動物園には、各星系の学校から遠足や修学旅行の申し込みが殺到し、ゲートシップ社やカナホテルグループと、団体客専用の窓口を作らねばならなかった。

 その時点で3年近くの予定が埋まりそうだった。


 俺は既にゲートシップ社とカナホテルグループから人材を呼んでおいたから、艾家の執事長と淡鯨家の第1執事(財政担当。執事長の次席)たちに、もの凄く感謝された。


 その後、オペレッタと電気街をデートした。

 古い回路はあまり見つけられなかったが、真空管なるものをオペレッタが見つけて、はしゃぎ回った。

 何に使えるのかわからなかったが、オペレッタの本体は真空中で過ごしているので、おもちゃにするのだそうだ。

 面白いのだろうか?


 一晩、シバとリリスと過ごして、慣れない環境でささくれ立ってきた彼女たちの心を癒やした。

 活動時間の半分以上を観客に見られて過ごすのは、慣れるまで苦痛のようだった。

 子どもたちの方が先に適応していて、人間の世話が当然のように振る舞っている。

 さぞかしプライドの高い虎に育つことだろう。


 万家というか万一族が、マサイ北大陸監視村(後の知性体研究都市)を設立する母体となることを、艾家の執事(動物園担当)と孔明さんとベアトリスと話し合った。

 万家の一族は、力はなかったが万兄弟を心配してくれていたという。

 そこで、若手の学究肌の者と体力に自信のある者を中心に監視村作りに入ることになった。

 責任者は孔明さんだったが、外交判断もあるので、淡鯨家の血縁から動物学者を呼んで、暫くの間、村長を引き受けて貰った。


 やっと解放されたと思ったら、ワックス医師から『鹿モドキによる治療院』なるものの設立を申し込まれた。

 研究施設ではなく、鹿モドキと触れ合うことによってリハビリ治療をする施設らしい。

 看護師や介護士を地元の少女から採用することを条件に、カリモシ草原(カリモシ村の東方)に設立許可を出した。

 実は、その辺りに鹿モドキが棲んでいるのだ。

 領内では2番目に大きいコロニーだろう。

 一番大きいところはカミナリがいたコロニーで、タルト村から北西方向のブドウ山から、隅田川を渡ってナルメ村があるところまでの広大な未開地の何処かである。

 多分、定住していないのだろう。


 周夫人からは、『シベリアンアイスクリーム』の支店を動物園内に出してくれ、出してくれるまで性奴隷をやめないぞと脅迫されて、レティとアラディン商会に依頼した。


「ねえ、出して、ちゃんと中(動物園)に出して」


 妖艶な周夫人に、一日中こんなお強請ねだりをされたら、誰だって逆らえないだろう?

 おっぱいで洗われてしまうではないか!


 1日最低10万カップと申し送ったら、アラディンは仰天していた。

 工場をホエールに作るようなことを言ってきたので、『絶対に品質グレードを下げるな。ハッサンに相談しろ』と申し送っておいた。

 実は、これで、シベリアンアイスクリームとレティアイスクリームという2つのブランドができてしまう下地ができたのだが、ハッサンのお陰で、両方ともレティが社長なのだから何も問題はなかった。


 アラディンはハッサンから、


「絶対に独立は考えるな! ユウキ代表の保護がなければホエールでは商売などできんぞ」


 などと、脅されたらしい。

 アルーシャ銀行は、賢明にも設備投資にレティの名義以外では貸し出しをしなかった。


 シベリアンアイスクリームは、生産量の都合により動物園以外での販売は暫く先になった。

 だが、それでプレミアのプレミア商品となり、売上げは伸びるばかりだった。


 アラディンは多少不満だったらしいが、これで、ホエール本格進出の際に『青鯨家』の出資額を株式の25%までに抑えることができたのである。

 まあ、周夫人がついていたからでもある。

 アラディンは技術者で、あまり経営に向いていないことを悟ってくれたようだった。

 その後は、商品開発になくてはならない人材となった。


 艾夫人たちは淡鯨本家に行き、結婚の準備に入った。

 約半年後らしいのだが、上流の結婚式は半年の準備期間でも早い方らしい。

 当然、ボディガードのフェンシィはお嬢様方についていった。

 挨拶も何もなかったのが、少し寂しかった。


 シオンは淡鯨家の資本による映画会社で撮影準備に入り、脚本家と一緒に艾小姐の所に通う日々が続いているらしい。


 俺はシベリアンタイガーの未来を孔明さんに託し、帰国の途についた。

 仕事優先と言って、忙しい連中の見送りはお断りした。


 イケメンとヒミコは艾家のメイド数名と、ペイルホエールの草原ツアーに出かけたので、次の旅客便に任せることにした。

 エリダヌスに居着いているマダムたちも、シベリアンタイガー見学ツアーを企画していたので、チャーター便は休む暇もないらしい。

 早くにカルロの豪華客船の就航が望まれる。

 姉妹船もだな。


 しかし、あっという間にエリダヌスの軌道上である。


「オペレッタ、待ってくれ!」

「何?」

「いや、領地にまっすぐ帰るのは拙い」

「何故?」

「その、新婚旅行が終わってないんだ」

「二十日以上処女?」

「それが、色々忙しかっただろう。それでなんだよ」

「まさか、ED?」

「ち、違うからね」

「ユーキ、へたれ」


 そういうことにしとこう。


「それで、領地じゃなくて、ユザワ村に降りてくれ」

「私も初夜したい」

「前にしただろう」

「処女に戻った」


 まあ、オペレッタは一週間で処女に戻るらしいから、いつでも処女なのだろう。


「新婚旅行だから、遠慮しろ」

「やだ。初夜したい」

「駄目だ」

「じゃ、ユウキ邸の前に着陸する」

「脅しか!」

「脅し」


 駄目だ、オペレッタには勝てない。

 だだをこね出すと手に負えないのだ。

 それにしても、『初夜したい』などという言葉があったのか。オペレッタ限定だろうな。


 その後、覗く権利と引き替えにオペレッタは引いてくれた。

 どうせ、覗くんだろうから、本当は権利などないのだが、上手く丸め込んだ。

 しかし、オペレッタとは、ホエール軍との軍事演習の時に初夜することが決まっているのだ。

 そうしないと、ホエール軍に死者が出そうだから、前に約束してしまっている。

 今回しなくても、近いうちにすることになるのだ。


 多分、ジュリエッタもバイオレッタも参加だろうな。


 処女率は(そんな言葉があればだが)、常に右肩上がりである。

 そのうち、毎日『初夜する』ことになりそうだ。

 その前に逃げだそう。

 だが、逃げ出すにしてもオペレッタは必要なんだよなあ。

 どうすれば良いのか、男友達に相談しようか。



 ユザワ・カナホテルは大露天風呂が人気で、処女再生した少女マダムたちが、安定期?までゆったりと過ごしている。

 安定期というのは、要するに生理が順調になるまでだ。

 きちんと子供を産めないと困るからである。

 一応、医療行為なのだ。

 治療かどうかはよくわからない。


 多くは、安定すると七湖で恋人と楽しく過ごす。 

 まあ、相手がお金持ちの場合だろう。

 初恋をやり直す人たちは、ホエールに帰る場合が多い。

 帰ってから、大体今までの人生で出会った中から、これというのを何人か選んでおいて、再び出会いにいくのだ。

 中には、その、息子とか、孫とか言う猛者もいる。

 勿論、夫が一番良かったという人もいる。

 まあ、自分の人生なのだから、好きにすれば良いのだ。


「いらっしゃいませー」


 と、3人のモミジが出迎えてくれた。


「カエデ。仕事はどうした。ツバキもだぞ」

「残念、私がカエデでした」

「私がモミジです」

「私はツバキですよ」


 どうして処女再生すると、この3姉妹はこんなに似てくるんだろう。

 大人ヴァージョンだと、あんなに違うのに。


「あら、モミジは処女再生してませんよ」

「ええっ?」

「だって、モミジは実は処女でしたから」

「あら、私だって処女よ」

「カエデは子持ちでしょ」

「私も処女よ」

「ツバキはバツイチでしょ」

「でも、今は処女だもん」

「はいはい」


 いつも通り、キャーキャーやり始めた。


 やかましい!

 俺たちは一応客だぞ!


 そう言いたかったが、このメンバーに逆らっては仕返しの方が怖いのでやめておく。


「それより、ユウキ。早く新しい妻を紹介してよ」


 正確には妻でないものもいるのだが、ここでは別に言わなくて良いだろう。

 全員、シャネルスーツのような訪問着を着ていて、名前はわからないが殆どつばのない帽子にパンプス姿である。

 セルジュとクララが選んだもので、かなり大人の感じである。


「ああ、ナミとナリは知ってるよな」

「うん、うん」

「こっちがパリーだ」

「よろしくお願いします」


 パリーが頭を下げた所までは良かったのだが、突然、カエデとモミジが頭を抱えた。


「ああ、もう外したあ!」

「私もー」

「ふふふ、あなたたち甘いわね」


 こいつら!


 そうなのだ。彼女たちは3人当てクイズというか賭をしていたのだ。

 3連単ではなく、ボックスである。

 それで、ここで遊んでいるのだ。

 何故、ここに来ることがわかったのだろう?


 俺が3人組を同時に引き抜く癖があるから、3人枠で予想していたらしい。


 カエデは、レティ、エリザベス、フェンシィ。

 モミジは、レイラー、艾小姐、エリザベス。

 ツバキは、パリー、エリザベス、サーラー。


 悪いが3人ともハズレだ。

 いや、サーラーは後から来るなあ。

 黙っておこう。


 ちなみに領地では単勝が流行っていて、一番人気はレティ、2番目が艾小姐、3番目がエリザベスで、4番目がサーラーらしい。

 パリーは6番目で、巨乳が人気を半分にしたという。

 何故か。


 それは俺がロリコンだというのと、巨乳好きだというのに意見が割れたからだ。


 両方なんだが。

 いや、違うぞ。そんな理由で妻を選ぶものか。


 艾小姐はここでみんなに見られたから、実績を買われたらしい。15で、せいぜいBだし。

 14歳以下のレティ、サーラー、エリザベスが人気だった。

 16歳でEカップは、微妙らしい。

 確かに14歳と16歳というのは、僅か2歳しか違わないのにずいぶんと印象が異なる。

 駄目絶対と、子持ちぐらい違う。


 いや、そうではない。

 エリダヌスでは、子供を産むのが12歳から14歳ぐらいなので、16歳と言えば二人ぐらい子供がいるのが普通なのである。


 しかし、情報が中途半端に伝わっているようだ。

 ジュリエッタがちょっと見ただけの情報を伝えたからだろう。

 殆ど、名前と年齢とバストサイズしか伝わっていなかった。

 カリーナとセリーナはロシア人なのだが、マサイにロシア人いても不思議ではないようだった。

 フィラーとベアトリスだとか言えば、信じそうである。


「レイラーが一番の美人でしたよ。次がベアトリスかポリーンです」


 パリーは苦労人だから、そんなことを言う。

 いや、パリーも負けてないからね。

 俺の嫁だし。

 いいえ、補正はありません。


 レティは可愛いタイプだったし、可愛いと言えばシーリーンも可愛かった。

 エリザベスは美形である。


 おっほん。

 とにかく、帰ったら領地の全員に強制畑仕事じゅうろうどうをやらせよう。

 冬小麦の収穫と二期作の稲刈りがあるはずだ。


「エリザベスは11歳になったの」

「カリーナ、24です」

「セリーナ、23です」

「チアキ、に、にじゅうとゴニョゴニョです」

「オペレッタ。永遠の14歳」


 オペレッタは張り合わなくても、みんな知ってるからね。


「ユウキ代表!」

「おお、ユザワ村長」

「お久しぶりです」


 オペレッタの着陸艇を見て走ってきたのだろう。


「何だか、ずいぶんと逞しくなってないか?」

「ええ、タルト村に相撲で負けて以来、村では全員が機械を使わない農業をしていますから、腕も足腰も鍛えられています」


 身長では、タルト村は小学生、ユザワ村が大人である。

 それでも、前回の相撲大会で負けたから、相当悔しかったのだろう。

 もっとも、優勝はサク村で、あそこには元相撲部が二人もいて、俺もエキシビション参加だったが成績は1勝3敗である。


「一休みしたら、村を視察したい」

「はい、公民館でお待ちしています」


 それで、モミジに案内されて離れの一部屋に落ち着いた。

 従業員がいる和風建築の二階の部屋で、8畳間が襖で仕切られて並んでいる。

 端っこの部屋とは言え、落ち着かない感じだ。

 日本人は障子や襖一枚でも、プライバシーを尊重したのだろうか。

 江戸時代の奥方は、襖越しに旦那が女中とやっていても、知らないふりをしていたのだろうか。


 いや、襖越しに確認するってあったから、そんなわけないな。


「なあ、モミジ。隣で襖越しに、なんてやるつもりじゃないよな?」

「何のことでしょう、お客様?」


 惚けているのを、隠す気もない感じである。

 七湖荘にすれば良かったんだろうか?

 だが、あそこは客の半分は男だから、何となく気が進まなかった。

 湘南リゾートなんか行ったら、更に妻が増えてしまうし、やはりここしかなかったような気がする。


 俺は妻たちに風呂に入るように言いつけて、ユザワ村長の所へ逃げ出した。

 先送りは日本人の美点である。


(個人の感想です)


 ユザワ村では、懐かしい新潟娘たちが待っていた。

 だが、みな子供の手を引いたり、抱いていたり、お腹が大きかったりした。

 相変わらずなのは、黒髪と白い肌、それに碧や灰色の瞳だった。


「領主様、うう」

「領主様。お久しぶりです」

「領主様、お目にかかりたかったです」

「領主様、うちの子を抱いてやってください」


「みんな、幸せか?」


「勿論です」

「当たり前です」

「頑張ってます」


 新潟娘たちは、皆大丈夫そうだ。

 俺は次々と子どもたちを抱き上げ、頭を撫で、お腹をさすり、満足して引き上げるまで繰り返した。


 ユザワは『鮭節』の開発に成功していて、その製造現場を見せてくれた。

 ユザワ村では鮭は捕れず、毎年利根川の遡上の時に捕りに出かけて、村で加工していた。

 ある時、氷室を設置してある山陰やまかげで塩鮭が腐りにくいのを発見し、何処も失敗している鮭節の実験を始めたところ上手くいったという。

 まだ、年に2千といったところだが、元が鮭なので何処の村長も欲しがった。

 山が多いトオカ村やサク村でも実験を開始しているが、上手くいっていないので独占市場である。


「これが最高級の鮭節です。1年半かけて作りました。湿気さえ気をつければ、何年でもちますよ」


 水分がないからか、ずいぶんと小さく感じる。

 カラカラの木片みたいだが、香りは確かに鮭だった。


「鰹節と比べて味の方はどうなんだ」

「我々は鰹節も美味いと思いますが、この星の住民は鮭派が圧倒的です。鮭の骨を出汁に使い、鮭節を入れた味噌汁に鮭フレークなんかをかけて喜んで飲んでますから」


 ユザワ村長は苦笑いである。

 とは言え、薄味で満足する住民たちが、鮭だけは濃くても喜ぶのは事実である。

 これが土着の文化なのかもしれない。


「今、ユウキ様の領地をまねして、鮭節を使った佃煮を作っています。サンヤ肉に鮭節の出汁が意外と合うことがわかりました」

「それは、うちでも欲しがるかもしれないな」

「お嬢様方のお口に合いますかどうか」


 確かにユウキ領はお嬢様が多いのだが、米文化のせいか佃煮は欠かせない。

 海苔や昆布まで日本から輸入している。


「まあ、米作りが主体の、トオカ村やウオヌマ村が一番喜ぶだろうな」

「それが、実はうちの妻たちが一番喜びまして、まだ売り物にするほどは作れません」


 確かに、自給自足が村の原則であり、余剰で物々交換を行うのである。

 つまり、まだ妻たちが食べる分しか作れないのか。

 本業は農業だから仕方がない。


「のろけか、ご馳走様」

「いやあ、それほどでも」


 美人の奥さんたちが喜ぶのが、一番嬉しいのか。

 俺もできたら、今夜こそナミとナリと過ごしたい。


「だが、おかしいな」

「何がでしょう?」

「鮭好きなんだからサンヤ肉の佃煮の前に、鮭節のなまりか何かを使って佃煮を作った方が、奥さんたちは喜ぶんじゃないか」


「あああああ」


 ユザワが奇声を発し、近くで作業中の男たちが蒼くなって頭を抱え込んだ。


「どうしたんだ?」

「何故、そんな簡単なことに気づかなかったのでしょう! 村民全員で佃煮の材料について話し合ったのに! 高級品志向で気づかなかったのか。アホか俺たちは」

「灯台下暗しと言うじゃないか。岡目八目かな」 

「それにしたって、あんまりです」


 ユザワは泣き笑いしていた。


 その後、緊急村民会議が開かれ、鮭の佃煮が研究されることとなり、俺は新潟娘、いや、元新潟娘か? たちにもみくちゃにされた。

 ドサクサに紛れて何人かには触られてしまった。

 もう、エッチねえ。


 駄目だ、セルジュに毒されてきたみたいだ。

 そう言えば、セルジュというのは昔のコードネームらしい。

 カリーナとセリーナが、そんな名前のスパイ伝説があったような気がすると言っていた。

 きっと、そうなのだろう。


 カナホテルに戻ると、風呂は貸し切りだからとモミジに言われて、疑いながら入ると、本当に大浴場には誰もいなかった。

 マダムや元マダムが最低でも100人はいるはずだったが、流石に処女に戻ると恥ずかしいのかもしれない。

 再生処女でも、男の前で裸になれるやつはなかなかいるもんじゃないし、ファーストキスだってドッキドキという連中ばかりである。


 俺は安心して大浴場から露天風呂へ抜けていく。

 高い塀に囲まれているが、これは風よけのためである。

 冬場は流石に寒い時が多いからだ。

 だが、このプールみたいにデカい露天風呂の見事さはどうだ。

 今までの風呂が全部家庭用に見えるじゃないか。


 俺は温度をみるために手桶ですくって軽く身体を流し、一度湯船に身体を沈めてから、中央のお湯が出ている岩の周りを泳ぎ回った。


 貸し切りなんだから、マナーなど関係無いよね。


 プールは湘南リゾートにあるだけだ。

 あそこは、妻候補が押し寄せるから行けないのである。

 時間外に行っても、従業員がアマゾネスだから何されるかわからないのだ。


 俺は嬉しくて何周も泳いでしまった。


 だが、ここは風呂である。

 大体、風呂場では、十中八九というか九分九厘アクシデントがある。

 今回だけ、例外と言うことがあるのだろうか。


 俺はちょっぴりと反省して露天風呂から上がろうとしたのだが、目の前に3人娘がいた。

 全裸でスポンジを持っている。


「お前がモミジだな」

「し、下を見ながら言わないでよ!」


 当てずっぽうだが、当たったようだ。

 モミジが慌てて隠すがもう遅い。


「お前たち、恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいわよ」(カエデだろう)

「恥ずかしいに決まってるでしょ」(ツバキだな)

「わ、私なんか、生まれて初めてなんだからね」(薄いのはモミジ)


 しかし、あれだけ似ていても濃さは違うものなのだろうか。


 ふーむ、とやっていると、カエデが手を引っ張ってきた。


「下で区別しようとしないの。ほら、ちょっとこっちに来て」


 実はカエデも真っ赤である。


「一体、何が目的なんだよ」

「何よ、私の身体じゃ不満だとでも言うの!」


 そんな、全裸で下半身を突き出すようにされても困ります。

 本当に15歳に見えますから。

 でも、娘のサクラコの恥じらいも良いよね。

 見比べられたら……


 ごちん!


「顔がスケベ顔になってるわよ」

「3人の全裸美少女に囲まれて、スケベ顔するなと言う方が間違ってます!」


「そんな、美少女なんて……」

「ちょっと、キュンとしちゃった」

「わ、私は、未経験だから、それほど、うん、でも」


 何だか、騒がしい連中が恥じらうところもギャップがあっていいかも。

 急に内股になって、モジモジされると男としてはポイントを高く点けてしまいたくなる。


 いや、そんな場合じゃないぞ。


「カエデ、何かあるんでしょ?」

「まあまあ、座ってからね」


 俺は露天風呂用の洗い場の椅子に座らせられた。

 壁に鏡もあり、棚にはシャンプーなども置かれている。

 何故か椅子は全部『スケベ椅子』である。

 スケベ椅子は、何故、スケベ椅子なのだろう。

 俺にはよくわからないが、そういう名称だと言うことはわかっている。


 カエデは棚から変なものを持ち出してきた。

 予め、置いておいたのだろう。

 だが、アニメの魔法少女が使うようなステッキにしか見えない。

 ピンクの棒の先端がハンマーみたいになっていて、左右には天使の羽みたいなものが広がっている。


 今更、変身でもないだろう。

 30歳も若返っているのだから。


「これは、女計おんなけいよ」

「な、何です、女計って?」

「あなたが、センの下半……」

「ああー、そうでした、そうでした」

「何、せんのかはんって」(モミジ)

「ああ、だから、千の過半数は501だからなあと思って、うへへへ」

「気持ち悪いわねえ」(ツバキ)


 女計って、ネーミングセンス悪すぎるだろう。

 ウーマンメーターとか、フェミニンスカウターとか、もっと何かなかったのか?

 まあ、俺には言われたくないよな。


 それはともかく、俺はセンさんの匂いに敏感で弱いので、何か対策はないかとカエデに頼んでおいたのである。

 きっと、科学的に何か突き止められるのではないかと思い付いたのだ。


 原因がわかれば対策もできる。


 そうなれば、リーナさんが何か思い付くより先に、対策を練ることができるだろうと思ったのだ。

 恐ろしいのは、センさんの匂い物質で香水なんか作られたら、領内がそれで充満して、俺が常に異常性欲に悩まされる、などということが起こる可能性である。


 しかし、その研究結果が、この『女計』なのだろうか。

 あんまり、頼りになりそうもないな。


「要するに、女はフェロモンを出すのよ。それの強弱で男がメロメロになるのかと思って研究したんだけど」


 けど?


「フェロモンは個人個人まったく違うものだと言うことがわかったわ」

「つまり、遺伝子みたいなものでしょうか?」

「そうねえ、基本となるフェロモンは同じなんだけど、個人的なアミノ酸配列を持つコアと繋がって、ひとりひとり違う匂いに感じられるのよ。フェロモン自体には匂いはないのだけれども、そのコアのアミノ酸によって、微妙な匂いとして感じられるみたいだわ」

「百人いれば、百通りのアミノ酸配列があると?」

「確率的に、数万はあるでしょうね」

「すると、男の好むものは、数万分の一ということになるのでしょうか?」

「本当にピッタリと好み、という意味ではそうなるのでしょうけど、百種類の料理でどれが一番美味しいかなんて決められないでしょう。しかも、味は別なんだから!」


 何だか、少し怒っているようだ。


「聞いてる? 味は別なんだからね!」


 つまり、匂いで引かれて食べても不味いものはあるし、逆に匂いが好みじゃなくても美味しいものはあると言うことか。


「大体、男なんて誰とでもやりたがるんだからね。ご馳走なら何でも食べるし、キャビアやフォアグラの横にカレーやラーメンがあると、そっちを選ぶ者だっていっぱいいるでしょ」

「いや、カエデは極上のキャビアの方ですからね」

「そ、そうかしら、そんないいものでもないわよ」


 今度はクネクネし始めた。

 天才、遺伝子学者というのも、変わり者なのだろうか?


「それで、女計って何するものなの?」

「私たちまで付き合わせたんだから、良いものなんでしょうね」


 確かに、普通ならこのシチュエーションに姉妹は誘わないだろう。


「実は、これで個人のフェロモンを測定できるようにしたの。今のところ、特定と量を計るだけだけど、どれぐらい女なのかわかるわ」

「その、女の基準は何なのでしょう?」

「勿論、フェロモン量よ。これが多いほど、子供が欲しいと言うことだから、男のそばで計れば切実さがわかるのよ」

「しかし、量だけなんじゃ?」

「失礼ね、特定もできるって言ったでしょ」

「違いがわからないんですが」

「例えば、女が10人いた部屋にユウキが入って発情しても、それは総フェロモン量であって、個人は特定できないでしょう?」

「まあ、フェロモンが10倍とかなんでしょうけど」

「でも、この女計は、個人のフェロモン量を特定して検出できるのよ。画期的なんだからね」


 うーん、いまいちよくわからない。


「とにかく、試してみればわかるわ。まずは私が実験台になるから」


 そう言われて、俺は魔法のステッキみたいなのを渡された。

 先端のハンマーみたいな部分は、デジタル表示計が幾つかあり、今はブルーだ。


「はい、先を私に向けてみて」


 俺は言われるままに先端をカエデのおっぱいに向けた。


「違うわよ、もっと下の方よ」


 どうやら、股の方に向けるらしい。

 ちょっと、変態みたいな構図になったが、先端部は触れるほど近くに持っていかなくて良いらしい。

 15センチぐらい離れた所か。


 ピー。

 表示がレッドに変わり、デジタルメーターが『000』から上がり始めた。

 大体、30秒で085になった。

 ピー。


「はい、初期状態は85女ね」

「単位は女じゃなくても良いのでは?」

「じゃあ、85Fにするわ。フィメールの略」

「それで、これが何を表すんでしょう?」

「本番はこれからよ。ユウキ、キスして」

「ええっ、何でデスカ?」

「だから、実験よ。早くして」


 うーん、良いのだろうか?

 ツバキもモミジも疑わしそうだ。

 いかがわしいのは、俺じゃなくて機械にしておこう。

 ちゅ、とするとしがみつかれてベロチューされてしまった。


「ちょっと」

「カエデ!」


 だが、カエデは満足そうで、勝ちー、とか言っている。


「さあ、もう一度、計り直して」


 女計はレッドのまま、000に戻っていたので、再びカエデの下半身に向け直すと、あっという間に435Fになった。


「ほら、85から435と、5倍も女になってるわ」


 そうなのか?


「じゃ、次はツバキね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 リセットボタンを押して、カエデの情報をクリアしてからツバキの下半身に向ける。


 ぴー。

 125Fだ。

 その後、やはりベロチューされて計り直すと、455Fになった。


「倍率は私より低いけど、きっと初期状態が少し興奮気味だったのね。私より20F、ユウキに興奮してるわ」


 そうなのだろうか。

 個人差もあるのではないだろうか。

 だが、疑問を呈する前にモミジがウズウズしているので、リセットして計ることにした。


 ピー。

 430F!(初期状態)

 663F!(マックス)


「あははは、モミジ。あんたどんだけユウキの赤ちゃんが欲しいのよ。600超えたのなんか初めて見たわよ」

「し、仕方がないじゃない。初めてなんだから!」


 これは、女性の成熟度でも数値の上下はあるらしい。

 18歳は初期状態でも高い数字を示すし、マックスも高くなる。

 つまり、18歳ぐらいが切実に子供が欲しいという身体の反応のピークを迎えるのだろう。

 データがあまりないので、詳しい分析はこれからの課題だという。


 だが、これで大きな問題を1つ解決できるかもしれない。

 それは、エリザベス問題である。


 俺はカエデに頼んで、妻たちの数値を計ることにした。

 何しろ、エリザベスはやっと11歳である。

 初夜にはあまりにも抵抗があるのだが、ナミたちは不公平は駄目だと言うのだ。

 部族社会では、初潮が来れば一人前だから、エリザベスにも権利があるという。

 パリーもイスラム系なので、9歳から結婚できるという意見だった。


 しかし、流石にポチッ程度のおっぱいに子供が産めるとは思えない。


 そこで、女計で客観的数値を示せれば、説得の材料になるだろうと考えたのである。



 実験は、女だけで初期数値を計り、それから俺の所に来て、キスしてからマックスを計るという、カエデ案に決められた。


 最初はナミからだった。

 初期数値を計り終え、襖を開けて俺の部屋に入ってくる。

 全裸であるが、仕方がないのか?

 ナミはエリダヌス人だから羞恥心があまりないみたいだが、このところ文明社会に接していた俺はかなり気恥ずかしい。

 妻の裸だというのにである。


 俺は抱きしめてキスしてから、カエデに渡された女計をナミに向ける。

 105Fー588F。

 初期値が105だから、ナミは十分すぎるくらい成熟していた。

 カエデはデータベースを開いて、なにやら統計を作っているようだった。


 次はナリである。

 98Fー557F。

 ナリも凄い数値だという。


 3番目はパリーである。

 58Fー488F。

 これも、カエデの意見では高いという。

 上気した顔は、400を超えるからだという。


 4番目はチアキだった。

 266Fー601F。

 初期値から既に興奮しているのだ。

 瞳が潤んで、色っぽすぎる。


「これは抱いてあげないと、健康を害するかもしれないわねえ」

「これから処女再生するんですよ」

「でも、その前に十分にやってあげた方がいいわよ。500以上は、眠る時に一人だと悶々とするレベルだと思うわ。600以上は眠れないかもしれないわねえ」


 そんなことは、言わないで欲しい。

 そんな気になってしまうじゃないか!

 でも、確かに惜しい気がする。

 成熟した女体とは、チアキみたいなのを言うのだろう。

 太っていないのに、何処を触っても骨などないような素晴らしい感触である。

 いや、何処までもは触ってはいないのだが。


「それに、モミジもね」


 俺は愕然とした。

 この計測は、逆に拒めない状況を作り出す結果に繋がるのではないだろうか。

 段々、悪いアイデアではなかったかと思うようになってきた。


 5番目は何故かカリーナだった。

 133Fー522F。

 つまり、もう準備完了と言うことである。


 続くセリーナも、


 141Fー539F、


 を示したから、カエデの仮説も間違ってはいないのかもしれない。


 そして、問題のエリザベスになった。

 エリザベスは全裸で飛び込んでくると、俺に抱きついてきた。


「え、エリザベス!」

「ユウキ様、エリザベスも妻なの」

「ああ、そうだな」


 相変わらず、寄り目になるような顔の近さである。

 近眼というわけではないらしいのだが、どうにも戸惑うような近さである。


「じゃ、もっと嫌がることをして欲しいの」

「嫌がることは、妻になる前の話だろう?」

「じゃあ、痛いことなの?」


 うーん、確かに痛いことが含まれるかもしれない。

 だが、拙いような気がするのだ。


「ほら、イチャイチャしないで、さっさと進めること」


 カエデさんに怒られて、俺はエリザベスとキスした。

 エリザベスは何処かで教わってきたのだろう。

 以前よりも、ずっと積極的で上手になっていた。


「もっとなの」

「ううっ」


 俺はエリザベスのペースに引き摺り込まれて、カエデに引き剥がされるまで続けてしまった。


 そのせいもあるのだろう。


 3Fー902F。


「きゃー、エリザベスが優勝よ」


 ええっ、そういう流れだったの?


 何故かわからないが、エリザベスが主賓で大宴会が始まり、妻たちは全員、宿泊客や女中や、宴会に駆り出された新潟娘たちの祝福を受け、カエデは誰彼構わず女計を使いまくり、宴会場は浴衣姿からトップレスまでもが、ドンドン全裸化していった。


 全裸率が100%になっていく。

 カエデのデータベースが充実していくようだった。


 時々、サンプルとして色々な少女とキスさせられたが、俺も途中から酔っ払っていて、データベースの充実のためだと言われると、何となく逆らえなかった。

 それで、気を大きくして、カエデに言われるままに、宿泊客だけではなく、女中として働いている者や、既婚の新潟娘たちともキスしまくった。

 その度に全裸の妻たちがキスで上書きして、もう、何が何だかわからなくなっていた。


 やがて、全員が殆ど酔い潰れて、残ったのは飲み足りなさそうに酒を探すツバキと、データベースの方が大事だと言うようなカエデと、べったりとくっついて離れないモミジとチアキだけだった。

 後は、もう全裸で転がっている。

 

「さあ、ご馳走が百、並びましたよ。食べたい放題ですねえ、へへへ」


 カエデがそんなことを言うが、まともに見えたカエデも、実はかなり酔っ払っているのだった。

 どうも、データベースも当てになりそうもなかった。


「カエデ、しっかりしてくれぇ。一体、何のために協力したと思ってるんら」

「ああ、やっぱり私が一番のご馳走らのねぇ」


 ピー。

 611F。


 カエデもかなり高かった。

 モミジがカエデに張り合ってもめだしたので、俺はチアキを連れて寝室を探した。

 布団部屋を見つけると、そこがパラダイスに思えた。


 俺は布団にダイビングして、この世の天国を味わった。


 だが、チアキが上に跨がって来ると、更に天国があった。


「あん、あああっ」


 チアキはホテル中に響き渡るような乱れ方をしたが、誰も気にする者はいなかった。


 勿論、俺も気にならなかった。


 女たちのむせ返るような世界から、チアキが解放してくれたかのようだった。

 俺はチアキのすべてを堪能して、記憶を途切れさせた。

 完全燃焼するような夜となった。


 翌日、ナミとナリによるニオイ判定で有罪となり、チアキは正式に妻にされ、俺はナミとナリとの一晩を約束させられた。


 チアキはとても嬉しそうであった。

 肌つやが一段上がったように見えた。


 女計は、単なる発情メーターではないかと疑われたが、カエデは更なる研究、改良をしていくようだった。


 その日は、全員が二日酔いで動くのもつらそうだった。

 カナホテルは事実上、開店休業状態だった。

 ユザワ村の男たちが、朝昼晩と食事を用意してくれたから、何とかなったようなものだった。

 夕方には、新潟娘たちは夫と共に家に帰っていった。


 その夜に、俺はナミとナリと一緒に露天風呂を満喫し、奇跡的に静かな初夜を迎えた。


「うっ、いったーい」


 ナミは一言だけ漏らしたが、その後はしがみついたまま最後まで我慢して、涙を流したのは終わってからだった。

 なんて可愛いのだろうか。


 ナリは慣れているからか冷静で、ナミを丁寧に綺麗にしてから横に寝かし、俺を綺麗にしてから抱きついてきた。


「ひっ」


 ナリは、本当にその一言以外は漏らさず最後までいった。

 涙を流したのは、3人で並んで寝てからだった。


「大丈夫か?」

「やっと、妻にしていただけました」

「本当に、長かった」


 二人とも涙を流したが、うれし涙だと言ってくれた。


 俺はこの可愛い妻たちを手に入れ、不平不満だらけだった新婚旅行を、初めて楽しいものだと感じた。

 それはもう、文句を言ったらバチが当たるような素晴らしい夜となった。


 だが、結局の所、エリザベス問題は何も解決していなかった。



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