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21 『ハッタリの果て』

 21 『ハッタリの果て』




「何故、私まで?」


 シオンは、シバ柄のブルゾンを羽織りながら質問してきた。

 頬を染め、上目遣いで、ちょっとドキッとした。

 艾小姐は金ちゃん柄で、フェンシィが銀ちゃん柄を着て付いてくる。


「艾小姐、説明してやってくれ」

「何故、私が? ああ、私が雇用主でしたわね。シオン、あなたはもうユウキ閣下とは何の縁もないのです。自覚なさい」

「ええっ、で、でも私は罪人で、ユウキ様のせいど……」

「もうそれはありません。あなたは私の吹き替えの代わりに映画に出演するのです。それで刑罰はおしまいですわ」

「でも、それが終わったら、シオンもエリダヌスに……」

「そんなこと許されるわけないでしょう。あなたは人気女優に登り詰めて、そんな暇はありませんわよ」

「そうでしょうか?」

「そうなのですよ。いい加減、性奴隷は諦めなさい」

「でも、その、時間ができましたら」

「だから、そんな時間はありません!」

「そんなに全力で否定しなくても……」


 シオンが少し拗ねている。

 艾小姐の方が年下だろうに。

 でも、ちょっと可愛いかな。


「あのさあ、艾小姐。本題から外れてるからな」

「閣下のせいでしょ! まったく妻ばかり意識していたら性奴隷だなんて、本当に何てことしてくれるのかしら」

「女の敵だからナ」


 別に、俺が発明したわけじゃないからね。

 しかも、本当に性奴隷にしたわけじゃない。

 ちょっぴり背中を流して貰っただけだ。

 もう、和解したというか、領主と領主預かりになったからね。


 結局、シオンに説明する前にシベリアンタイガー区画に来てしまった。


 扉の向こうはスタッフルームで、そこを抜けていくともう一つの扉があり、それも抜けると、北大陸の森林を再現した広い居住地だった。


 勿論、シベリアンタイガーの居住地だ。

 10キロのテリトリーは流石に無理だが、餌は十分あるのだから小さくても大丈夫だろう。


 一部に人間用の通路があり、そこを更に越えていくと草原になっていて、バッファローが放し飼いにされていた。

 小川や池も用意され、まあ、不自由はないだろう。


 観客席は緩くカーブしたアクリル壁で仕切られた向こう側で、3階まであるようだ。

 今はマスコミでいっぱいだが、明日からは子どもたちでいっぱいになるだろう。

 取りあえず、記者会見前は撮影禁止であるが、シオンを見つけてざわめいている連中もいた。


 今、バッファローたちは、飼育員が用意した餌であるキャベツやハクサイ、サツマイモなどを食べている。

 草原の草より美味しそうだ。

 イケメンたちは、ちゃっかりトマトを貰っている。

 だが、室内気温は5度程度らしい。

 鹿モドキには寒いかもしれない。


「きゃあああ」


 のそりと、森林からシバが出てきて、その姿を見たシオンが悲鳴をあげて俺にしがみついた。


 シバは寝起きのようだ。

 夕方だから、まあ早起きの方だろう。


 初めてシベリアンタイガーの姿を見たマスコミ連中も驚愕の声を上げている。

 まあ、デカいからなあ。


「ユウキ様、怖いです。食べられちゃいますぅ」

「落ち着け、シオン。シベリアンタイガーは知能が高いから人間を襲ったりしないぞ」

「でも、大きくて怖いですぅ」


 シオンは俺の腕の中でブルブル震えている。


「そんな様では、女優は務まらないわよ」

「ユウキが発情するゾ。そっちのが危険ヨ」

「無理です。怖いです。死にます」


 仕方がないので、イケメンを呼んだ。

 あれでも鹿モドキの王なので、体格は300キロを超える巨体なのだ。


 ウマ並みというのは、こういうときに使う表現だろうか?

 まあ、大型動物に慣れるには丁度良いだろう。


「ほら、シオン。鹿モドキの王イケメン1世だ。草食動物だから怖くないだろう?」


 シオンが恐る恐るイケメンを見る。

 イケメンは『キヒヒ』と笑い、口の脇からトマトの果汁を垂らした。

 歯も真っ赤である。

 それが血のようで、ちょっとしたホラーだかスプラッタみたいに見えた。


「きゃー!」


 シオンは早とちりであるから、これは怖かったかもしれない。

 もう恥も外聞もなく、俺に縋り付く。


「こわいこわいこわい」


 本格的に大泣きを始めてしまった。


 シオンが一頻り泣いている間に、イケメンは飼育員によって歯磨きをされ、顔も綺麗に拭かれた。


「シオン、すまなかった。だが、もう大丈夫だ」

「本当?」


 シオンは恐怖で少し幼児退行してしまったようだった。

 俺の胸に押しつけていた顔を少し上げて、俺の顔を上目遣いで伺うだけだ。

 表情まで幼く見えてとても可愛いが、肩や背中がすべすべでもっちりして柔らかい。

 少女と大人の境目にあるような感触は、きっと期間限定だと思うと、このままずっと味わっていたいような気にさせる。

 ちょっぴりと抱いている腕に力が入ってしまった。


「お、俺がついているから、怖がることないぞ。イケメンもちゃんと綺麗にしたから、少しだけ見てごらん」

「怖くない?」

「怖くないよ。ほら、こうして撫でても全然平気だよ」


 シオンは少しだけ俺の手先を見て、一度胸の中に戻り、それから少しだけ様子を伺った。


「ほら、怖くないぞ。大丈夫だから触ってごらん」

「ちゃんと守ってくれる?」

「勿論だよ」

「うん、じゃあ、シオン頑張る」


 シオンは恐る恐る片手を伸ばして、イケメンの鼻面をちょんと触った。

 左手は俺をしっかりと掴んでいる、というか抱き合ったままである。

 少し、安心したのか、今度はしっかりとイケメンの鼻面を撫でる。


「イケメンさん。怖くない」

「良かったな」

「うん、良かった」


 シオンの身体の硬直が少しだけ解けていく。

 だが、次の展開は読めていた。


「あああああ」


 シオンは突然正気に戻ると、抱きしめて抱きしめられている己の状況を理解し、壁一面にへばりついたマスコミ取材陣の好奇な視線に気づき、俺の顔を見て顔を真っ赤に染めた。

 これは、イケメンが得意のテレパシーみたいな能力を使って正気に戻したからだ。


「ももも、申し訳ありませんでした! きゃ!」


 正気に戻ったシオンは、慌てて二歩後ろに下がって俺に謝りながら、今度は尻もちをついた。

 俺からはちょっぴりと見えたが、マスコミ陣はイケメンの陰になっているから見えなかっただろう。

 少しぐらい見えても、まさか、ノーパンとは思うまい。

 しかしだ。何故に全裸の時よりも、チラリと見えた太股の方が色っぽいのだろうか?


「ほら、大丈夫か」

「重ね重ね、申し訳ありません」


 シオンの手を引いて立ち上がらせ、お尻についた草を軽く叩いて落としてやった。

 そのまま手を引いて、シバの所まで連れて行く。

 ヒールが高い靴ではなかったのだが、流石に草原は歩きにくいだろう。


「ああ、あの、その、すみません」


 シオンは赤くなったまま俯いて、お尻を撫でながらもちゃんとついてきた。

 俺も撫でたかったが、きっと遠慮した方が良いだろう。

 変態、スケベ親父と同列にされるからだ。

 既に、一部の人からは同列扱いされているけどね。

 触ったもの勝ちの心境に至るまで、何年かかるのだろうか?

 もう、なっている?

 手遅れ?

 違うからね。


 ヘルもんじゃないとか言う人がいるけれど、地獄ヘルは存在します。


 ヘルもんじゃ、って地獄のように熱いもんじゃ焼きみたいだなあ。

 そう言えば昔一度、サクラコのお尻を撫でて悲鳴をあげられ、カオルコにお好み焼きを投げつけられたことがあるけれど、あれは熱かった。

 もんじゃ焼きも熱いんだろうな。

 顔面は地獄です。


 丁度、前方から銀ちゃんが転がるように走ってきたので、抱き上げてシオンに見せてやる。


「うわぁー」


 シオンは今までのことをすべて忘れたかのように夢中になった。


「だ、抱いて良いですか?」

「ああ、落とすなよ」

「落としたりしません!」


 シオンは気づいていないが、銀ちゃんを抱いている姿は、マスコミ陣にとっては本日のベストショットだと思われる。

 俺にとっても凄く魅力的で、人気があるのが後れ馳せながら理解できた。


 この嬉しそうな自然な笑顔は、男を魅了するものである。


 おっぱいや下半身も魅了するが、アダルトものではなく、彼女は女優なのだ。

 顔や演技の方が、それは重要なのだろう。

 俺には甘酸っぱい匂いも重要なのだが、それは個人的な意見であろうから、内緒にしておく。

 


 マスコミ陣は、早く記者会見の時間にならないかと、相当焦れていた。

 だが、撮影許可は記者会見からである。


 すぐ側で、艾小姐は金ちゃんを抱き上げ、フェンシィはその隣で、飼育員たちが朝食の準備をするのを監督しているようだった。


「妻と性奴隷なんて、まったく」

「他に愛人と現地妻なんてのがいるそうネ」


 いや、監督はしていなかった。

 そんなの、いないからね。




 やがて、ソロモンとリリスが目覚めて来て、リリスの子どもたちが駆け回り始めると、マスコミの響めきが大きくなり始めた。


 俺はシオンに、ソロモン、シバ、リリスと紹介して様子を見たが、シオンは最初の取っかかりが上手くないだけで、後はきちんとできることがわかった。


 要するに『あわてんぼさん』なのだ。

 可愛いけどさ。


 その後、京太郎氏がベッドと医師団を引き連れてやってきた。

 そこで、俺は艾小姐が営業スマイルに切り替える瞬間を見ていた。

 凄く自然で、僅かな違いであるが、俺にはもうわかるようになった。

 女ならではのハッタリなのかもしれない。


 ハッタリとは強がってみせることだ。

 本来は威圧であり、できないことをできるようにように見せかける男たちの駆け引きや示威行動だが、当然女だって良く見せようとするのはハッタリの一種だろう。

 ポーカーフェイス、かまとと、化けるような化粧なんかも類似品と言って良いだろう。

 己を必要以上にと言うか、必要なだけ強く見せたり、美しく見せる行為は、別に悪いことではないと思う。

 アピールでもあるからだ。

 見せかけというのは、大事なのだ。

 生まれついてのイケメン顔が、どれだけ有利か考えればわかるだろう。


 彼女はそういう世界で生まれ育ったのだ。

 ちゃんと計算はできるのだろう。

 きっと、選択を間違えることはない。


 そして、俺もここで間違えるわけにはいかないのだった。


 ずっと、誰に対するハッタリかわからないが、かまし続けてここまで来たのだ。

 ハッタリにも根性が必要だとは思わなかったが、まあ駆け引きのようなものだから仕方がないのだろう。


 その元凶たる京太郎氏は、艾老師にシベリアンタイガーたちを見せていたが、艾老師の記憶は戻らないようだった。

 シベリアンタイガーを見て、驚いて喜ぶ艾老師だったが、京太郎氏は少し落ち込んでいるようだった。

 ワックス医師もお手上げというポーズをしている。


「おい、祐介。お前はこんな凄い虎を見たことないだろう」

「艾のじーちゃん、俺は孫のユウキですよ」

「嘘をつけ。確かに若く見えるが、どうせつまらない小細工をして驚かそうって言うのだろう。お前は昔からそうだった。そんな手に乗るもんか」


 確かに、見た目よりも精神が若い感じがする。

 記憶は残ってるんだよな。


 艾小姐が、祖父の言動に驚いている。

 若い頃に、親友と気さくに話をしているような感じに見えたからだろう。 


 うーん、つまりは脳内のバイパスみたいなものを治せばいいわけだ。


「イケメン。ちょっと手伝ってくれ」

「ヒンヒン」

「何だ、祐介。こいつは、馬か鹿か」

「じーちゃん、ちょっと大人しくしてくれ」


 俺は艾老師の額に左手をあて、右手をイケメンの鼻面にあてていた。


「何をする、祐介」

「祐貴君」

「君は」

「ユウキ!」

「ユウキ様」


 だが、すぐに俺の頭の中を走馬燈が駆け巡り、すぐに去って行った。

 ただ、ひとつだけハッキリと見えた。



 遠い昔の若かりし頃、二人の少年はブロンド美人を見つけて夢中になった。

 彼女は上流の子女が集まるサマーキャンプに来ていたのだ。

 当然、少年たちは近寄ることもできなかった。

 だが、ある晩決心して、二人は彼女のテントに夜這いをかけた。

 途中で警備員に見つかり、こってりと絞られただけであったが、彼らの青春の1ページになった。

 翌日、帰りがけの彼女の姿は、遠目からだが、確かにナタリーに似ていた。

 少年たちは、将来の夢を見るようになった。

 宇宙に行って、成功するのだと。


 美女を集めてウハウハだと。


 ごん!


 最後のは俺の願望?

 イケメンの意地悪ぅ。



「ああ。祐介、祐介ではないのか」

「祐介祖父ちゃんは、とっくに星になってますよ。俺は孫の祐貴です。艾老師」

「そうか。あいつにもこの虎を見せてやりたかったなあ」

「老師が見たなら十分ですよ。悔しがらせた方が良いんです」

「そうか。そうかもしれん」

「それより、捕まえたのは老師のお孫さん夫婦ですよ」


 俺は、いつの間にか離れて、遠巻きにしている連中に声をかけた。


「京太郎さん」

「おぉ」

玲玉リンユェさん!」

「は、はい」


 二人とも顔を見合わせると、ギクシャクしながら老師の元に来た。


「老師、彼女の腕の中を見てください」

「ほう、虎の子か。素晴らしい、吉兆か瑞祥か」

「艾家の未来は、輝かしいものになるでしょう」

「そうかそうか。二人で捕まえてきたのか」


 二人は、我が子を紹介する夫婦のように金ちゃんを見せると、艾老師と楽しそうに話を始めた。

 俺は喜ぶ艾老師の元をそっと離れて、何か言いたそうなフェンシィを引き摺って部屋に戻った。

 シオンは銀ちゃんに夢中だから大丈夫だろう。


 不満そうなフェンシィをソファに座らせ、ディスプレイを点けると、もう記者会見は始まっていて、京太郎氏と艾小姐が二人で主役になっていた。

 妻たちも部屋で大人しくこれを見ているだろう。


 マスコミにとって、ヒーローとヒロインである。

 金ちゃん銀ちゃんもシバも大絶賛されていた。


 怒っていたフェンシィのテンションも徐々に下がり、段々むくれ始めていた。


「良いのカ、ユウキ。本当は全部あんたの手柄じゃないのカ」

「それで、艾小姐は幸せになれるのか? 京太郎氏はどうだ?」

「でも、でも、ひどくないカ」

「最初から、俺は京太郎氏に頼まれただけだよ。シェルパ(ポーター)とか下請けの苦力クーリーに手柄を渡す上流階級の旦那様は、昔からいないさ」


 フェンシィは初めて涙をこぼした。

 一粒の宝石のようだった。

 物事の道理をよくわきまえた優しい女の子だった。

 イケメン顔でなければ、抱きしめたかった。

 殴られるだろうが。


「そんなのひどいヨ。納得できないヨ……」

「良いんだ。これで、この陰気な首都も開放されるかもしれないだろ。それにあんな華やかな場所は、俺みたいな農民には似合わないよ」


 部屋の扉が開いて、セルジュとクララが入ってきた。


「その通りよ、祐貴ちゃんは大人ね」

「そうそう」

「セルジュ。クララ」

「でも、腹立ったから、そのブルゾンは1着180G(90万円)で買い取らせたわよ、前金でね」

「そうそう」

「スタッフ全員で300枚追加よ。シーリーンに頼んでおくわね」

「そうそう」


 180Gの300枚は、2億7千万円だ。

 ナナ&サラサ・マサイは、初年度から凄い利益が出る。


「それから、合成毛皮で子供用も販売させるわよ」

「そうそう」


 流石はセルジュだ。

 俺の考えなどお見通しだった。


「安くできるんですよね」

「駄目よ。安くしたら価値が下がるわ」

「そうそう」

「でも、子供服なんですよ」

「これは一種のお祭りなの。ホエール中の子どもたちが毎日沢山来るのよ。その思い出として安物は駄目なのよ」

「そうそう」

「しかし、親の負担も考えないと」

「そうねえ、1・36Gでいいでしょ」

「そうそう」


 1・36Gは136リナ(約6800円)である。

 子供を3人も連れてくると、ちょっと負担かも?

 だが、結構安い。

 領内のスカートが400リナなのだ。

 本革だけど。

 うちと、ホエールでは、物価も収入も違うからな。


 それでも、子どもたちの一生ものの思い出になるんなら、大事にしてくれるかもしれない。


小鯨うちが5%、ナナ&サラサが5%、ナナ&サラサ・マサイが5%、動物園が5%で、後は運送料や保管料が別にかかるわね」

「そうそう」

「細かいところは専門家にお任せしますが、どれくらい売れるんですか?」

「初年度、1億着ね。ラインいっぱいよ」

「そうそう」

「1億って、動物園が観客が1日20万人としても年に7千3百万人ですよ!」

「お土産、親戚の子供用、予備、プレミア、色々あるけど一番の要素は金と銀があることよ」

「そうそう」


 そうか。どっちが売れるか予想できないけど、両方売れるってこともあるのか。

 2枚ともあると嬉しいのかもしれない。

 さらに、リリスの子どもたちの黒混じりも作れる。


 しかし、6800円の5%って340円だよな。

 それが1億着って、340億円じゃないか!

 ナナ&サラサ・マサイは、なんにもしないでも6億8千万リナが入ってくる。

 シーリーンはマサイで一番の投資家決定だな。

 いや、マサイの女王かも。

 ヒモになりたいくらいだが、ヒモ稼業は俺が禁止したのだった。

 取り消そうかな。


『動物園の開園は、明日からお昼の12時、閉園は夜の9時に変更します。なお、シベリアンタイガーは夜行性ですが、午後4時からなら必ず会えます』


 ディスプレイでは、園長代理の艾亜維氏がマスコミに宣言している。

 何故かシオンと銀ちゃんも映し出され、映画の宣伝をしていた。


『リリスの「3人」の子どもたちは、ご来園の方々から名前を募集します』


 マスコミ陣から盛大な拍手があった。


『また、チケットナンバーから当たりを引き当てた方には、シベリアンタイガーの子どもたちを「抱っこ」する権利が与えられます。勿論、12歳以下のお子様に限りますが、1日に5人程度は幸運をつかめると思います』


 再び、マスコミ陣から盛大な拍手が上がった。


 効果は俺の予想を1桁2桁上回るようだ。

 交通、通信、飲食、宿泊などあらゆる分野が毎日何十万の見物客の対応に回るのだ。

 そんなのが何年も続けば、この閉鎖された都市も民衆の力に押し流されていくだろう。


 警官もマスコミもホテルも、毎日毎日民衆の落としていくお金には逆らえないと思う。

 チアキじゃないが、ホエールには400億人もいるのだ。


 逆らう奴は馬鹿にされ、淘汰されてしまうだろう。

 元々のアイデアは、セルジュが考えたものである。

 俺は、それに踊らされただけなのだろう。


「グッズの製造は艾家に譲ったわ。とても手が回らないものね。きっと、京太郎から豊作に依頼することになると思うわ。園内での販売になるから、艾家もだいぶ儲かるでしょう」

「そうそう」


 金ちゃんぬいぐるみとか、領地に持ち帰れたら良かったのになあ。


「成功すると思ってたんですか?」

「思うと言うよりは、祈るというのかしら。友達が成功するかって時は、そんなものでしょう」

「そうそう」


 まったく、この人はなんて人なのだろうか。

 いや、人たちか。

 クララも考えたんだろうな。

 京太郎氏も艾小姐も、どれだけの思いが下に隠れているかわかって欲しいものだ。


「フェンシィちゃん。悪いけど、今夜あなたの力を借りたいわ。この星と艾家と淡鯨家の将来がかかっているの。協力してくれるかしら?」

「そうそう」


 それは、俺がこれから頼もうとしていたことだ。


「何のことですカ」

「玲玉は不安定でしょう?」

「そうそう」

「でも、淡鯨家との結婚を望んでることは確かですヨ」

「家の問題としては、そうね。本人も政略結婚だと割り切っていたわ。マサイに行ったのも、半分はドキュメンタリー制作でしょうが、残りの半分は京太郎に協力して結婚を確実にしようとしていたのだと思うわ。最初はね」

「なら、ちゃんと結婚すると思うネ」

「でもね、今フェンシィちゃんが泣いてるのと同じぐらい、玲玉も罪悪感を感じてると思うの。マスコミに賞賛されるほど、心の中では祐貴ちゃんに申し訳ない気持ちが大きくなっているのよ。現実をその目で見てきたのだから。それとも、あのお嬢様は惨いことを平気でできる性格かしら」

「そうそう」


 フェンシィは暫く考えていた。

 アルーシャの空港でも一度阻止しようとしてくれたのだから、もう一度協力してくれるかもしれない。


 二度と御免だと、お断りかもしれないが。


「何をするんですカ?」

「祐貴ちゃんとエッチなことよ」

「そうそう」

「ええっ?」

「予防するだけだろ!」

「でも、かなりエッチなことでしょう?」

「そうそう」


 そうなんだけど、フェンシィも処女だし、俺を嫌ってるし、まあだからこそお願いするんだけれど、何となく居心地が悪い。


「どうして、私なんテすカ?」


 何だかフェンシィまで緊張してきたようだ。


「それはね。妻も性奴隷も愛人も現地妻も、お嬢様の思いは断ち切れないけど、苦労を分かち合った部下や使用人の恋愛は邪魔できないからよ。張り合えないわね、一種のご褒美だから。お嬢様には譲るとか認める度量が必要なのよ」

「そうそう」

「確かにお嬢様は今夜、『最後に』とか言ってやらかしそうネ。私にはどうしても、そういう役回りが来てしまうノカ」

「エッチなことのふりぐらいはしないと、玲玉はともかく京太郎が納得しないのよ。まあ、ひどいハッタリかもしれないけど、祐貴ちゃんが愛してるのはフェンシィちゃんだし、玲玉は京太郎のために苦労したのだと言っておいたわ。本人はそれを信用したいのよ」

「そうそう」


 フェンシィは絶句して、俯いてしまった。

 確かに、俺の評判からすれば、艾小姐と何かがあったと言った方が信用される。


「それとも、本当は玲玉と何かした。しちゃった? しまくり?」

「そうそう」

「何にもありませんよ」


 本当だろうか。

 酔った時とか何もしてないよね。


「なら、これから被害を出すわけにいかないの。一緒に旅したフェンシィちゃんが、ラブラブのふりをすれば大丈夫なはずよ。祐貴ちゃんと殴り合ってわかり合ってることだし」

「そうそう」

「べ、別にわかり合ってなんかいないネ」

「股間を嘗めさしたりね」

「そうそう」

「股間ではなく太股ですヨ!」


 わかってるんじゃないか!


「太股も上の方は大体エッチな部分よ。変質者ね、祐貴ちゃんは」

「そうそう」


 上の方って、どの辺からだろう?

 どちらかと言えば、上と下ではなく内側と外側じゃないだろうか?

 いや、そうじゃないな。


 そもそも、握ろうとした、あんたには言われたくないよ。


「テも、私なんかでいいのかナ」

「シオンがぎりぎり部下みたいなものだけど、今日の今日じゃ納得できないでしょう」

「そうそう」

「テも、男みたいな私がユウキに気に入られ……」

「おい、フェンシィ。演技ハッタリだからな」


 ばき!


 フェンシィの右フックは容赦のないものだった。


「わかってるヨ!」

「それからフェンシィちゃん。これのご褒美は祐貴ちゃんが何だってかなえてくれるわよ」

「そうそう」


 落ち込んでいたフェンシィの目が輝き始めた。

 俺に出せるご褒美なら良いのだが。


 何にせよ、これは最後のハッタリだ。


 俺はフェンシィが好きだから、艾小姐は諦めてくれ。

 俺にはフェンシィがいるから、艾小姐には手を出していませんよ。


 という、やつである。




 その後の、草原での立食パーティーには、カリーナとセリーナに頼んで妻たちを連れて行って貰った。

 あの二人なら、粗相がないようにしてくれるだろう。

 いや、粗相をされないようにかもしれない。

 オペレッタも、虎に群がる名士や有名人を見に行った。

 何か、覗きに行くテンションだった。


 俺はフェンシィを手放さず、傍らに置いたまま仕事を続けた。

 セルジュとクララ、淡鯨家第1執事のひとり(財政担当)、艾家執事長と打ち合わせを続けながら、パーティーを中座してくるホエール新聞社の幹部やホテルグループ幹部、輸送会社連合会などの幹部たちや外食産業の幹部たちと会って、綿密な打ち合わせを行った。


 俺はシベリアンタイガーの人権問題担当だったが、色々と経済上の相談まで受けていた。


 京太郎氏の代理だけではなく、豊作氏や、ゲートシップ社(前のホエールゲートトレイン社)やカナホテルの代理任務まで引き受けねばならなかった。


 まあ、セルジュとクララがいてくれたから、何とかなった。

 セルジュがドンで、俺がコンシリエーリといった感じか。それとも逆か。

 ペイル市長や惑星警察幹部まで来た。


 明日から押し寄せるだろう観光客に対して、不満が起きない対応を望んだが、対応に慣れるのも、キャパが追いつくのも、3ヶ月ぐらいはかかりそうだった。


 取りあえず、民衆を見下す尊大な馬鹿はひとりもいないのが救いだった。

 ビジネスチャンスを理解しているのだ。

 市長はホテルが取れない観光客を、一時的に公民館や総合体育館などに収容することも視野に入れていた。


 やっと一息ついた頃、クララがフェンシィを連れて行き、入れ替わるように京太郎氏と艾家の幹部たちが戻ってきて、関係者だけの軽いパーティーになった。


 パーティー会場はクラブかダンスホールのようだった。


 コの字型のボックス席に妻たちが来て、軽いアルコールを頼み、1曲ずつワルツを踊った。


 ナミ。

 ナリ。

 パリー。

 エリザベス。

 カリーナ。

 セリーナ。

 オペレッタ。

 それから、チアキだった。

 まあ、それぐらいじゃ疲れないが、注目度は高くて少しつらかった。

 多分、皆ノーパンだからだろう。


 その後、周夫人とシオンが参加してきた。


 特に周夫人は、艾小姐を徴発するかのようにべったりとくっついて踊り、ボックス席まで妻たちと混ざって過ごして、チアキとシオンまで徴発していた。


 艾小姐の視線が頻繁に来る頃、何とフェンシィがドレス姿で現れた。

 多少、ぎこちなかったが、俺には十分すぎるほどパートナーらしかった。


 クララの腕なのだろうか。


 ハンサムなフェンシィの顔だが、見慣れた俺には女らしい魅力を放っている。

 短い髪がそのままだが、髪飾りを1つだけつけていることで、より女っぽくなっている。

 南国の海の浅瀬を思わせる瞳は、恥ずかしそうに少し潤んで魅力的だった。


 京太郎氏と艾小姐が、様子を窺っているのがよくわかった。


 驚いたことにフェンシィはダンスが上手く、ワルツの後でフォックストロットも踊れたので、バーテンに曲をリクエストしてサルサを教えたが、アドリブまでちゃんとついてきた。

 サルサは基本的に3ステップで4拍目が休みだが、そこに色々なアドリブを入れられる。

 足踏みのような2ステップを追加したり、足を振ったりなどがそうだ。

 見合いながら一、二度やれば、二人で並んで観客に見せるようにもアドリブができる。


 パーティー会場は俺たちの独壇場になった。

 盛大な拍手を貰ってしまった。


 軽く汗をかいて妻たちのいるボックスに戻ると、上気したフェンシィは妻たちに大人気になって、更に顔を赤く染めたが、嬉しそうだった。

 周夫人も混ざっていたが、気にしたら負けだろう。


 特に女学院でダンスを習っているナミとナリは大喜びだった。

 エリダヌス女学院はお嬢様が多いので、社交ダンスは必ず授業でやるのだ。

 湘南リゾートには専門の教室もあり、ボルネオ島のアマゾネスが男役で相手もしてくれる。

 ノーパンでは激しい踊りはできないのだが、まあ女ばかりだから見ないふりをしている。

 フェンシィは、パンツを脱がないタイプだから大丈夫だった。


 こっちが普通なのだが。


 京太郎氏は艾小姐と踊り、ご機嫌だった。


 まあ、ハッタリ一幕目はフェンシィの勝利である。


 一幕目があれば、二幕目もあって、それは風呂場である。

 艾家にはきちんと大浴場があって、男女別ではないが、そこは大体女同士とか家族でとか時間差で入ることが多いのだろう。

 今夜は特別なので、妻たちを先に入らせて、後から俺が入ることにした。

 カリーナに説明しておいたので、妻たちは疲れもあってか素直に従ってくれて、先に寝かせることもできた。

 本当はカリーナとセリーナは妻ではないのだが、妻たち以上? の関係なので、細かいことは気にしないでも何とかなった。

 オペレッタは着陸艇で、今日の収穫の確認と整理である。

 まあ、覗きだろう。


 問題はチアキだな。


 そう思って頭を洗っていると、いきなり背中に軟らかいものを押しつけられた。

 チアキは、口論しても無駄な相手である。


「そうじゃなくて、背中でも流してくれよ」


 俺はシャンプー頭なので、よく見ないで言いつけた。

 チアキは黙って背中を流してくれたが、前回とは違って、きちんと後ろから流してくれている。

 時々、おっぱいで洗っているようだった。

 これぐらいは仕方がないと思っていると、『まあ』とシオンの声がした。

 面倒なので放っておくと、今度はチアキの声の『まあ』が聞こえてきた。


 あれ?

 じゃあ、最初は誰なの?

 これは非常事態である。


 艾小姐が動きそうな時は、フェンシィが覚悟を決めて入ってくる予定であった。

 勿論、お願いであって強制ではないのだが、取りあえずフェンシィなら、何とかしてくれると思っていたのだ。


 ただ、背中に押しつけられた感触では艾小姐ではなく、チアキだと思ったのだが。


 それが油断だったのだ。


 そもそも、艾小姐に押しつけられたことなどなかったのだからわかるわけがないのだ。


 長年の経験で判断してしまった。

 いや、長年おっぱいを押しつけられてきたのではなく、色々なおっぱいを見てきただけだ。

 まあ、それも変な話なのだが、取りあえず今は関係無いだろう。


 俺が慌てて頭を洗い流していると、今度はフェンシィが入ってきて、ざざっと俺の頭にお湯をかけて流すと、腕を引っ張って湯船に一緒に入る。

 更に横からしがみつく。

 Aカップだが、ちゃんと女の子である。


「もう、フェンシィたら強引ねえ」


 何と、最初の一人は周夫人だったのである。


 助かった!


 いや、これはこれで拙いんじゃないのか?

 背中におっぱい判子を押されて、更に使用人のように背中を流させてしまった。

 判子の方はまだ消えてないような気がする、

 しかも、色々な部分が、大人で、色っぽくて……


 妖艶な奥様は、全裸で仁王立ちしてフェンシィを睨んでいらっしゃる。

 いや、チアキもシオンも仁王立ちして睨んでいた。


「慎みが足りませんヨ、奥様」


 俺を横抱きしながらフェンシィが言うと、3人がザブザブと入ってきた。


「性奴隷は、慎みなんて持ち合わせていないの!」


 うーん、慎みのある性奴隷って、撞着語オクシモロンに近い表現のような気がする。

(正確には撞着語法)


 良い悪魔とか優しい強盗とか暗い太陽とか。

 弱い力とか涼しい夏とかの方が近いのかな?


 ケチな太っ腹。

 小さい恐竜。

 正直な大臣。

 非力な軍人。

 豊満なAカップ。

 若い耳年増。

 いや、耳年増は若いのか。


 上手な処女とかか!


 その時、再び『まあ』の声がして、バスタオルを巻き付けただけのアラレもない姿をした艾小姐が立ちすくんでいた。


 いや、全員が全裸の中で、アラレもせんべいも関係なかったか。

 せんべいは、いないか。

 みんな、それなりに大きいのだ。

 フェンシィは筋肉質だったが、男の筋肉と違って柔らかいから、大きさ以上に気持ちいい。


「お母様まで!」


 艾小姐は涙目でそう言うと、飛び出していった。

 フェンシィはちゃんとお仕事してたのね。

 そうでなければ、急に全裸で抱きついたりはしないか。

 ちょっと残念。


 第二幕目は、その後も色々とあったが(主に性奴隷1号、2号、3号の話)、フェンシィの勝ちだろう。


 シオンは、おっぱいで背中を洗うという周夫人の話で驚愕していたが、前から背中を流すという実演をして見せたチアキには仰天していた。


 性奴隷への道は険しいのだ。諦めろ、シオン!


 いや違うぞ! 性奴隷なんていないからね。


 ちょっとだけ、欲しいと思ってしまったけれど、それは内緒である。

 建前は大事だからだ。


 勿論、その後、真っ赤な顔したフェンシィに殴られた。

 右フックを躱したのに、左のアッパーなんて反則だろう。


 第三幕目は、むずがるチアキとシオンを説得するのに骨が折れたが、何とかワイシャツ一枚の姿であるフェンシィと一部屋になれた。

 何故、シオンまで宥めなければならなかったのだろう? 家に帰らないでも良いのか?


 ハッタリとセルジュは言っていたが、俺はもう誰が誰に対してハッタリをかませているのかわからなくなってきていた。


 だが、京太郎氏が艾老師にかましたハッタリで、俺がこんなに苦労しているのかと思うと泣けてくる。


「私にお任せいただければ、すぐにでも捕まえてきましょう」


 などと、調子の良いことを言ったのだ。

 あの引き籠もり親父がである。

 そもそもの原因である。


 しかし、引き籠もりの原因を作ったのは間接的にとは言え俺だから、仕方がないのだろうか。

 引き籠もりと言うよりは、ふて腐れていただけだったのかもしれない。


 きっと、熙子さんとカオルコが報酬なんだろうな。

 京太郎氏の頭の中では。

 だけど、俺の中では不良債権だからね。


 勿論、常に第1夫人候補であるカオルコは、自分が報酬だなんて絶対に認めないだろう。

 熙子さんの第1はテレビ局だから、あまり他のことは気にしていない。

 うちの領民はニュースと相撲以外はあんまり見ないが、ロシア大陸と中国大陸では結構人気ある番組を放送している。


 まあ、虎を捕まえるのなんて簡単だろうと思っていた、京太郎氏の読みが甘かったのだろう。

 それに乗っかったジョアンも、お手上げだったしなあ。

 思えばこの旅は、ハッタリに続くハッタリで、もうどうしようもない所にまで来ているのかもしれない。

 一度、ハッタリをつくと、次々にハッタリをつかなければならないのだ。

 そこに男の意地ハッタリや女の意地ハッタリが錯綜してくる。

 そして、ハッタリは、危険ハタリなのだ。


 しかし、頭を下げて頼まれたとは言え、やっぱり尻ぬぐいのような気がする。


「なあ、フェンシィ。もう寝ても良いか?」

「あんたネ、誰のためにこんな苦労していると思うカ」


 そうなんだよな。誰のためなんだろう?


 俺たちは仲良くひとつのベッドで寝ている。

 俺は、だいぶ眠い。

 艾小姐のこともどうでも良くなってきた。


「油断大敵ネ。一番危ない時ヨ。大体、隣に女が寝ているのに眠いとは失礼ヨ」

「そうなのか」

「当たり前ネ。あんたがこのままグースカ寝ていたら、私は何のためにここまでしているのかわからなくなるヨ」

「仲良く一緒に寝てるのを見れば、誰も邪魔はしないだろう?」

「その考えが甘すぎるネ。寝室の雰囲気というのは処女でもわかるはずヨ」

「そうかなぁ、俺にはよくわからないぞ」

「あんたの頭は特別製ネ、だから…… いや、警戒態勢ヨ」


 フェンシィはワイシャツのボタンを外し、俺に抱きついてきた。


「フェンシィ!」

「ユウキ、もっと強く抱いてヨ」


 どうやら、フェンシィの警戒網? に誰かが引っかかったらしい。


 もっと強く、と言うのは予め設定していた符丁である。

 これからフェンシィがOKを出すまで演技をし続けなくてはならない。


 馬鹿らしいと頭の半分では考えているのだが、淡鯨家と艾家の将来がかかっている。

 艾小姐が大人しく嫁いでくれれば解決なのだが、どうも決定打が足りないらしい。


 簡単にフラれるような下手な手は打ってこないだろうと言うのが、セルジュとクララとフェンシィの読みである。

 俺がいざという時に拒否できないというのも、賛成多数だった。


 俺は不満だったが、艾小姐の下半身を思い出して、黙っていた。

 『一度くらいは』が、絶対に頭をよぎらないと誓えるか、というセルジュの問いにも答えられなかった。

 フェンシィこそ、最高のカードらしいのだ。


 だが、フェンシィとキスして思ったことがある。

 フェンシィとなら、しても良いのだろうか?

 これはこれで、とても馬鹿な対応なのではないだろうか?


 だが、フェンシィにもっと強くと言われると止められなくなった。

 俺はおっぱいに吸い付き、太股を撫で始めた。


「ああっ、ユウキ。タめ、タめヨ」

「フェンシィ、フェンシィ」


 俺は演技なのかよくわからない状態になっていた。

 本当に、艾小姐がいるのだろうか。

 だが、ドアの方を見張るのは、フェンシィの役割だった。

 俺は、本気に見えるようにしなければならないのだ。


「あああっ、ユウキ、もっとヨ」


 俺の手は、フェンシィの太股の付け根まで来てしまった。


「うっ、そ、そこは、あっ!! ひぁあ、あああー」


 思うに、フェンシィは感じやすい体質なのだろう。

 ピクリと動く感じは絶対にそうだ。

 演技で、ここまでできる処女などいないだろう。


「ひぁぁ、そこはっ、うん、もっとは、タめヨ、ああん」


 これが符丁だかどうだかわからなかったが、取りあえず続けることにした。

 可愛く縋りついてきていて、俺からは拒絶できない感じだった。

 俺はフェンシィ自身のアシストがあったので、こすり続けた。


「あっあっ、あぁーん、あっ! あっ! あっあんっ、ああまた、駄目ヨ、あぁぁ、またぁ、どうしてっ、あっ! あっ! いぃ、いい、あああっぁ」


 フェンシィは僅かの間に二度も達して、それでもOKを出してこなかったので、左右のおっぱいを交互に吸いながら、更に責め立てた。


 フェンシィは首を左右に振りながら三度目を迎えて、ぐったりとなった。

 見張りも演技も、既に放棄しているようだった。


「ひどいヨ、ユウキ。私、もう誰のお嫁にもなれないネ」


 暫くして、涙を流しながら、フェンシィはか細い声でそう言った。


 俺もそんな気がした。


 何も言わずに抱き寄せて、じっくりとキスしておいた。


「ユウキ、あなた……」

「フェンシィ」


 とろんとして、フェンシィの方が先に寝てしまった。

 考えてみれば、フェンシィとキスするのも今日が初めてではなかっただろうか?

 眠いから、明日にしよう。

 俺はフェンシィを抱きしめて眠りについた。

 心地よかった。


 翌朝、ナミとナリによるニオイ判定が終わってから、セルジュとクララと共に朝食となった。


 昨夜の件で大笑いされたが、指示したのはセルジュたちだろう!


 フェンシィはずっと俯いて赤くなっていた。

 処女には酷な体験だった。

 申し訳ないと思っている。


 だが、確かに艾小姐は廊下で伺っていたらしい。

 セルジュが言うのだから、間違いないだろう。

 無駄ではなかったのだ。

 あまり、慰めにはならないか。


 艾家の関係者は、警備用アンドロイドまで根こそぎいなくなっていた。


 ニュース映像では、30万人以上の人たちが、入り口で開園を待っていた。

 子供が多いから、スタッフが必要以上に必要で、医師たちも動物園に借り出されていた。


 艾老師は大丈夫なのだろうか?

 

 だが、予定より1時間も早くチケットの販売が始まると、押し寄せる人は更に多くなった。

 警察官や看護師などが急遽集められていた。


 シベリアンタイガーが起き出す4時まで、どうするんだろうと心配したのだが、お客さんの多くはゆっくりと動物園を回り、昼食などを取り始めた。

 焦ったのは動物園側だった。


 夕食をメインターゲットにしていたからだ。


 急いでファーストフード店などが許可されて販売を始め、飲料水メーカーは予定数の3倍以上の飲み物を輸送し始めた。

 昨夜の話し合いで、危機対策チームを作っていたから助かったようだ。


 売店にはまだシベリアンタイガー関係のグッズはなかったが、暇つぶしの客が多く、他のものが売れまくった。

 記念なのだろうと思う。

 日付入りのものは、特に売上げが伸びていった。


 セルジュとクララは昼過ぎに出立していった。

 大成功間違いなしと確認したからだろう。

 製造ラインの確認も、しなければならないらしい。


 出来が良ければ、明日には出荷が始まるという。


 貧乏ではないが、暇なしというのは本当だった。

 オペレッタが、散歩ついでに見送りに行った。

 何か思い付いたのか、それとも内緒の話があるのか。

 だが、今更気にしても遅いだろう。


 俺は、この友達思いの変人たちに最大の敬意と感謝を伝えた。


「お仕事、増やさないでね」

「そうそう」


 いつも通りの返事だった。

 俺は、ホエールと上手く付き合っていけるだろうと思った。


 午後3時に俺たちは、スタッフ用通路からシベリアンタイガー区画に入った。

 シバ柄のスタッフ専用ブルゾンだったが、フェンシィだけは銀ちゃん柄だった。


 そう言えばフェンシィは朝から少し変で、ずっと赤くなって俯いてばかりだ。

 うるさいことは何も言わないし、殴っても来ない。

 何を言っても『はい』と答えるだけで、まるで怯えていた頃の艾小姐みたいだ。

 ただ、俺の側にいて色々と頼めば食事を作ったり、飲み物を出したりしてくれる。

 目を合わせず、恥ずかしそうにだが。


 まあ、まだある種のショック状態なのだろう。


 シベリアンタイガー区画で最初に目に入ったのは、金ちゃん柄を着込んだ艾小姐の営業スマイルだった。

 他人行儀な気もするが、こちらは完全に正常に戻ったのかもしれない。

 少し、フェンシィがつらそうだったが、肩を叩いて励ました。


 ソロモン柄の京太郎氏は上機嫌でベッドの艾老師と話をしていたが、俺に気づくと手招きしてきた。

 

「大成功ですね」

「祐貴君、君は嫌な奴だと思っていたし、絶対に許すものかと思っていたが、艾老師の恩人で親友の孫だし、私にとっても恩人になった。少なくとも豊作よりは付き合いやすそうだ。妻に手を出さないと誓うなら、親友になってやろう」

「妻ですか?」

「ああ、紹介しよう。玲玉リンユェ芳玉ファンユェ稀玉シーユェだよ」


 艾小姐と妹たちは、似たような営業スマイルを見せてくれた。


 このロリコンおやじめ!

 妹たちはエリザベスとどっこいじゃないか!


 だが、俺が艾小姐に手を出していたら、もれなくついてきたのかもしれない。


 ハッタリでも何でも、やり遂げといて良かったよ。

 俺は冷や汗を流しながら、京太郎氏の新妻たちにご挨拶をした。


「よろしく。艾夫人、艾夫人、それに艾夫人」


「ブヒヒヒ」


 イケメンが笑っているような気がした。



     22へ

早速のご評価ありがとうございます。

次を書いても良いのだ、という気になります。

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