第1話 朝の畑
朝、窓から差し込んだ光が、リオ・フェルナーの顔を照らしていた。
「……んぅ」
リオは布団の中でもぞもぞと動いた。
もう少し寝ていたい。
そう思って目を閉じたところで、階下から声が聞こえてきた。
「リオ、起きなさい」
母のミーナだ。
「……起きてる」
「なら、降りてきなさい」
「……うん」
返事はした。
けれど体は動かない。
「リオ?」
「今行く!」
少し大きな声で返してから、リオはようやく布団から出た。
顔を洗って階段を下りると、食卓には父のガイルと二人の兄が座っていた。
「遅いぞ」
長男のアルドが言う。
「まだ朝だよ」
「だから朝に起きるんだろ」
十一歳のアルドは、最近では父と一緒に畑へ行くことも多い。真面目で、家族の中では一番父の手伝いをしている。
その隣では、九歳の次男ノアがパンを頬張っていた。
「リオ、今日は畑行くんだろ?」
「うん」
「じゃあ俺も行く」
「ノアは昨日も途中で休んでたじゃない」
ミーナが笑う。
「今日は休まない!」
そう言ったノアの口元にはパンくずがついていた。
リオは笑った。
いつもの朝だった。
父がいて、母がいて、兄たちがいて。
少し離れた椅子では、二歳の妹リナがまだ眠そうにしている。
朝食を終えると、父が立ち上がった。
「リオ、行くか?」
「うん!」
リオは急いで靴を履いた。
家の外へ出る。
ルーベン村の朝は静かだった。
小さな家がいくつも並び、その向こうには畑が広がっている。さらに遠くには低い山と森が見える。
リオにとっては、ずっと見てきた景色だ。
「今日は何するの?」
「昨日植えた豆を見る。それから水やりだな」
「もう大きくなってるかな?」
「一日でそんなに変わらん」
「でも、少しは変わってるかもしれないよ」
「そうだな」
父は笑った。
畑に着くと、ガイルはしゃがんで土を手で触った。
「少し乾いてるな」
「分かるの?」
「ああ。毎日触ってれば分かるようになる」
そう言って、父は小さなじょうろをリオに渡した。
「じゃあ、これを頼む」
「任せて!」
リオは両手でじょうろを持った。
畑の中をゆっくり歩く。
そして、昨日植えたばかりの場所へ近づいた。
「あっ!」
「どうした?」
「父さん、見て!」
土の隙間から、小さな緑色の芽が顔を出していた。
「出てきた!」
「そうだな」
「昨日はなかったよね?」
「ああ」
リオはしゃがみ込み、じっと芽を見る。
こんな小さなものが、これから大きくなる。
そして、いつか豆をつける。
「水をあげたら、もっと大きくなる?」
「ちゃんと世話をすればな」
「じゃあ、いっぱいあげる!」
「待て待て。水はいっぱいあげればいいってもんじゃない」
父に止められて、リオはじょうろを持ったまま首を傾げた。
「じゃあ、どのくらい?」
「それを覚えるのも農家の仕事だ」
父の言葉を聞いて、リオは少しだけ真剣な顔になった。
水を撒く。
土が少しずつ濡れていく。
小さな芽は、何も言わずにそこに立っている。
「父さん」
「ん?」
「僕も農家になれるかな?」
ガイルは少し驚いた顔をした。
それから、リオの頭に手を置いた。
「まだ六歳だ。これから覚えればいい」
「うん」
リオは笑った。
その日の朝、リオは初めて、自分が畑の仕事を手伝った。
ほんの小さな仕事だった。
けれど、その小さな芽を見たことを、リオはずっと覚えていた。




