191 公爵令嬢は変われない 〔終〕
メリーローズたちは、皆がいる広場へと出てきた。
それを見つけた生徒会メンバーが駆け寄ってくる。
「アルフレッド様、おめでとうございます!」
「ありがとう、ミュリエル」
「俺たちの仲間から、国王陛下が誕生するなんてな」
「気が早いぞ、フィルバート。国王就任は二年後だ」
「アルフレッド様、先ほどのキスシーン、殿方同士ではないけど、ドキドキしました」
ヘザーに答えにくいことを言われて、素に戻ったアルフレッドが「いやあ……」と照れた。
「きゃー!」
女子は歓声を上げ、男子はヒューヒューと口笛を吹く。
興奮したアデレイドは、メリーローズに尋ねた。
「メ、メリーローズ様、アルフレッド様にキスされたとき、どんな感じでしたかあ?」
「きゃー!」
女子は再び歓声を上げ、男子はやはりヒューヒューと口笛を吹く。
見つめあい、照れるアルフレッドとメリーローズ。
「……どう、だった?」
つい感情にまかせて深いキスをしてしまったアルフレッドは、メリーローズが嫌だったのではないかと、気にしていた。
メリーローズは潤んだ瞳でアルフレッドを見つめた後、恥じらいながら目を伏せる。
「アルフレッド様のその唇に宿る熱……わたくし、目を閉じて受け止めて、心に刻みつけました。そして、愛の深さを理解しました」
「メリーローズ……」
「そう、あなたとキスする度に、あなたと離れられなくなるお兄様の気持ちとか、お兄様にキスされて力が抜けてしまうアルフレッド様の感覚とか……」
一瞬、その場にいた全員の動きが止まった。
「はあ……?」
メルヴィンがあわてて否定する。
「俺はアルフレッドとキスなんて、したことないぞ!」
「あら、うふふ。正しくはわたくしの著書の中の『アルバート』と『エドウィン』ですわ」
うっとりと夢見るようにメリーローズは微笑む。
「あの唇と舌の感触、しかと覚えて、次回作に是非、活かしたいと存じます」
「……舌? おいアルフレッド、まさか……」
「えへへ」
「えへへじゃない!」
しかしメルヴィンとアルフレッドは、キスのことで揉めている場合ではなかったのだ。
「次回作……?」
「リックナウ先生の?」
「やっと、やっと新作が読めるのですね!」
「しかもなんだか、生々しそうなものが……」
周辺一帯から、この世のものとも思えない野太い声が一斉に聞こえてきた。
「デ ュ フ ゥ ッ」
その声の大きさに、アーネストたち男性陣は恐れ慄く。
「なんだ、今の声は!」
「なんて不気味な。まさか、魔物?」
しかしアルフレッドとメルヴィンは、別の意味で戦慄した。
「え? 今の声、女性たちから聞こえた? ということは、いつかの『魔物』の声、あれも……」
「まさか……メリーの声……?」
そんな二人の焦りをよそに、メリーローズはガバッと勢いよく拳を振り上げる。
「わたくし、これからもBLを、書いて、書いて、書きまくりますわー!」
その言葉に興奮した女性たちが、歓喜のあまり声をあげた。
「頑張ってーーーー!」
近くに来ていたミルドレッドも拳を上げる。
「あなたが書くというのなら、わたくしだって負けられませんわー!」
「負けないでーーーー!」
メリーローズたちは、ファンに囲まれて楽しそうだ。
だがその横でアルフレッドは頭を抱えてしゃがみ込み、それをメルヴィンが支える。
「……大丈夫か? アルフレッド」
「あ、ああ。……いや、大丈夫じゃない、かも」
深い溜め息をついて、メルヴィンが尋ねた。
「なあ、もう一度聞くけど、本当にメリーと結婚して後悔しないか?」
アルフレッドはメルヴィンに手を引かれながら立ち上がり、答えた。
「ああ、しない。……彼女がどうこうじゃなくて、僕が彼女を愛しているかどうかが肝心なんだ」
それから長い沈黙ののち、アルフレッドは苦笑いしながら、一言つけ加える。
「…………多分」
その小さな声は、大精霊が祝福する明るい青空に吸い込まれ消えていった。
【END】




