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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 充実生活編
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出でよ、スターッ!


右手に握った出来立て、熱々キノコ串が消えた。



「旨いままでいてくれよ・・・・」



カラになった右手を見つめ、小さな声でつぶやく。

心から、スターなキノコ様の無事を願った。



「どれぐらい待ったらいいか・・・・」



待機時間を考える。

5分、いや10分待てばいいだろうか。

15分も経ったならば、熱々だった串モノはすっかり冷めてしまうだろう。



「・・・・・・」



串モノは出来立て、熱々でかぶりつくのが絶対的な正義だと信じている男。

すぐに食べずに、ほったらかして台無しにするなんてダメ、絶対。

ギルティ。

重い罪だ。



「・・・・15分待とう」



今回ばかりは仕方ない。

苦渋の決断だった

唸るように口にする。

魔法の実験と言えども。

大事な検証と言えども。

どうしたって、罪悪感が否めなかった。

キノコ様の無事を改めて願う。



「その時間にサクッと何か・・・・」



できる事はないか。

答えを求めて、キョロキョロと首を動かす。

だが見渡す限りの畑は広い。

移動して、収獲を始めた所で中途半端に時間切れになるだろう。

新しいトンデモ野菜だって、本を片手にじっくりゆっくり探したい。

後のお楽しみにとっておくことにした。



「うーん、と・・・・・・・あ、そっか」



ピンときた。

試してみたい水魔法に氷魔法があったのだ。



「ブロックが欲しかったんだよなー」



男が使える氷は、今の所ファーストフードでよくある機械のクラッシュアイス。

便利な機械を重い浮かべ、エアーなボタンを押すと空中からザラザラ出てきて大活躍。

イメージしやすいのが、良かったのだろう。

かなり早い段階で使えるようになっていた。

ウサギ肉の保存に大活躍した氷魔法だ。


そんなクラッシュ型も良いのだが。

選べるならば、業務用のブロックタイプも作れるようになりたかった。

そんなに大きなものでなくともいい。

大き過ぎると扱いづらい。

レンガと同じ大きさのタイプが欲しい。



「なんたって長持ちするもんな」



食材の保存にちょうどいい大きさ。

クラッシュタイプの氷は、すぐに溶けて水になってしまうから困る。

ウサギ肉の保存に氷を使っていた時は、こまめに氷を取り換える必要があった。

だがこのしっかりとした大きさなら、長時間にわたって取り換え不要。



「いやー・・・懐かしい」



出張料理の忙しない準備作業を思い出す。

店の皆が憧れていた出張選抜チームはエリート揃いだった。

料理人だって、サービスマンだって。

センバツに入ると、給料が都度の歩合でぐんと上がる。

現場でチップをもらう事だって多い。

そんな出世の花道では、事前準備も片付けも、チーム内で全て行うのが通常運転だ。



「重かったよなー・・・」



食材の現地調達をしない場合、クーラーボックスなどで店からそれらを持ち込む必要があった。

2人がかりで行う車への積み込み作業は、地味にキツイ。

そんなキツイ作業は、メンバーの中でも下っ端の仕事だった。

センバツ常連、店なら中堅どころの男も、エリートに混ざれば下から数えた方が早いポジション。

何度も重いクーラーボックスを運んでいた。

肉や魚と共にたっぷり詰め込まれたブロック氷、あの時ばかりはうらめしかったものだ。



「・・・・・やるか」



気持ちを切り替え、集中する。

まずは水。

男が今まで使えた水魔法は、井戸や浄水器など形は違えど蛇口から流すタイプ。

今度はそれを四角いレンガの形に整え、空中に浮かせたい。



「・・・・・よし」



空中に浮かぶレンガならぬ水の塊。

よくできたマジックショーみたいだ。

いやいや、透明な水だから客席から見えづらいか。

マジックショーとしては減点だ。


そんな感想を抱きつつ、さらに集中する。



「・・・・・・」



イメージ。

空中に浮かぶ、ブロック氷を作る。

レンガの形の水の塊をこのまま凍らせる。

集中、集中。



「・・・・・おけっ」



短くOKと口にすると、近づいて固さを確かめ入念にチェックする。



「ちゃんと氷になってるな」



ずっと触っていると手が冷える。

手を離しつつ、イメージした。

今度はちょっと難しい。

手を使わず、氷を収納するイメージ。


トマト収納に比べると、一拍の間があった。

だが、無事にアイテムボックスに入っていったようだ。

空中には、今は何も浮かんでいない。



「手で触らずにしまえるのは便利だなー」



まだ体感で5分程度。

時間はある。

レンガ氷はまだ足りない。

男は空中に氷を次々と浮かせていった。



手で触れずに、どれぐらい離れた所から収納できるだろうか。



1つ収納しては、一歩下がる。

それを繰り返した。



「だいたい2メートルちょっとか」



すばらしい。

2メートルほど離れた所からでも、収納できることがわかった。

これで氷も溶けずに保存できたらいいのだが。

アイテムボックス、質大事。

何より大事。

後で取り出した際、デロンデロンに氷が溶けていないことを期待する。


そうこうしている内に、10分以上は確実に経過していた。

15分は、いったかどうか。

どうだろう、まだ15分は経ってないかもしれない。

時計がないから、体感ではかるしかなかった。

けれども。

15分経ってなくとも。

10分以上はたった今。



「・・・・・・」



待ちきれない。

結果が知りたい。

早く、知りたい。



「・・・・・やるぞ」



緊張する。

おもむろに口を開いた。



「出でよ、スターッ!」



シャキーン。

効果音が聞こえそうなほどに。

威風堂々、仁王立ち。

右手を空に向かって高く掲げつつ、叫ぶ。


次の瞬間。


その手に星型キノコの串焼きが現れた。


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