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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 充実生活編
165/169

旨いままでいてくれよ


「オレって、すげえ~っ!!!」



無事、空間魔法が使えると分かった男。



「うぉ~っ!!!」


「すげぇ~!!!」


「うぉーっ!!!」



興奮冷めやらず、トマト畑で雄叫びをあげる。

天に向かって、「うぉーうぉー」と何回も。

いつも変わらぬ、ワンパターンな雄叫びだった。

はしゃぐ男、どうやらヒャッハーは知らないらしい。

語彙力の乏しさは雄叫びにも現れるようだ。



俺なら使えると思ってた。

やっぱりできた!

オレってすげえ!



小躍りせんばかりに、全身で喜ぶ男。

手に持った黒玉トマトが危ない。

うっかり力が入り過ぎて、ぐしゃりとつぶれてしまいそうだ。



「おっ・・・やべーやべー」



ガッツポーズをしようとして、トマトの危機に気付く。



「悪い悪い・・・・・・ごゆっくりお過ごしください」



トマトに謝り、そっとしまう。

気持ちの上では最敬礼。

そっと、そぉーっと。

男の手からアイテムボックスへと消えていく。


なんせ、買ったら超お高いに違いない、極上お宝黒玉トマト。

失礼があってはならない。

カラの両手を見つつ、徐々に冷静さが戻る。



「・・・・お次は質だな」



問題は量より質。

質が良ければ、アイテムボックスの時間経過が止まる。

つまり、食材が劣化しない。

業務用冷蔵庫も冷凍庫も買わずにすむ。



「冷やして、凍らせてから入れれば良いだけだしな」



なんでも氷魔法というのもあるらしい。

単純にモノを凍らせる魔法と理解していた。

中級編、上級編で戦闘に使う氷魔法は、そんな単純なモノではないのだが。

凍らせる調理ができる。

男にはそれだけで十分満足だった。



「質は絶対、良いものであってほしいよな」



量は最低限でもかまわない。

少ない人でも大型の馬車一台分。

それなら十分。

見たことはないが、大型というのなら馬は2頭立ての馬車だろう。

馬だってあんなに大きいのだ。

ハコはもっとデカいはず。

押し入れ3つ分程度かと思ったが、もっとデカいだろう。

押し入れなら、5つか6つあるかもしれない。

だったら十分。

食材の保管には困らない。

ついでに皿だってしまっておけそうだ。


だから量よりも質。

絶対に質。

良いモノであってほしい。



「・・・・とは言っても、確認に何日もかかるのはなぁ」



アイテムボックスに入ったトマトの劣化を、毎日確認するのは気が長い。

いや、食材管理は毎日するけど。

そうではなくて。

早く知りたい。



「今だろ、今」



今すぐ知りたいのだ。



「・・・・・いったん戻るか」



本を拾い、家に戻ることにした。

実験するには道具が足りない。

駆け付けた勢いとはうってかわって、ゆっくり歩く。



「どうすっかなー・・・」



ペタペタ歩きつつ、方法を考えた。

ホントはこのまま、色んな野菜を収獲し、家でがっつり料理して。

皿にのせたまま、アイテムボックスに保管して様子をみたい。



「でもそれじゃあ、時間がかかるし」



却下だ。

もちろん後でやってはみるけど。

今すぐやるべきことではない。



「・・・・一瞬でわかる方法ってないかねー」



一瞬は望みすぎだとしても。



「5分10分でわかるんなら、いいんだけどなー」



結果は素早く、迅速に。

知りたい。

知るべし。

知りたかろう。



実験とか、検証とか。

昔から好きな作業だった。


料理を極めるには理科必要。

バケ学(化学)、生物学、天文学、気象学、その他モロモロ。

難しい事はわからずとも、かじっただけでも料理につながる知識がもらえる。

高校入学当時より、調理師学校への進学を公言していた当時。

大学受験もしないのにと、周りが首をひねるほどに、理科に関する授業は熱心だった。



「・・・・やっぱ、熱が冷めるのを確かめるのが一番早いか」



厨房で木皿に塩、ウサギのツノ、ハンティングナイフをアイテムボックスにしまう。

魔女にもらった白い服にはカーゴパンツのようなポケットがない事に若干不満があったものの、アイテムボックスによってその不満も解消した。

思った時に右手にさっと現れる、抜身のハンティングナイフ。

すばらしい。


またぷらぷらと歩き、畑に戻った。

着いたのは、パッと見が茶畑のような、低い生垣がもっさりしているエリアだ。

当然ながらここも広い。

一面、視界に拡がる茶畑。

しかし採れるのはお茶っ葉ではない。



「一番指名は、スターなアナタでしょう・・・・」



呟きつつも、生垣に手を伸ばす。

ナイフも使わず、素手でぶちっとちぎって、器用にその実を収獲する。

片手に満杯の量6つ。

赤いスターな模様の赤黒いキノコ。

魔女おススメ、これが旨いのだ。


アイテムボックスからウサギのツノを1本、取り出した。

耐熱ばっちり、金串替わりの優れモノ。

もう何本か欲しい。



「サクッとやっちゃうか」



手際よく、串代わりのウサギのツノにキノコを刺していく。

あいかわらずのマッシュルームな弾力。

ちなみのこのスターなキノコ、椎茸のような軸の部分は無いに等しかった。

串にも刺しやすい。

お次に砕いた岩塩をアイテムボックスから取り出し、パラパラと振りかけた。


手始めに根元の二つには黒の岩塩だ。

素材にガツンと塩味を効かせてくれる。

ほんのちょっとの苦みが大人なクセのある味。

スターなキノコにはぴったりだ。


真ん中の2つはピンク。

素材の自然な甘みを存分に引き出す、なんとも不思議な岩塩。

日本で買ったら、100グラムでいくらするのか。

何万か、何十万か、3桁行くのか。

気になるところだろう。


残りの2つは無難な白。

余計な主張をすることもなく、食材にそっと寄り添う塩味の薄い岩塩。

下拵えには欠かせない、ケンカを売らない味。

主役をしっかり引き立ててくれる頼れる脇役である。



「ダイレクトに出し入れできるのはいいんだが・・・・入れ物欲しいな」



砕いた岩塩は、ひとつまみの形にした指へ直接現れた。

収納する際も容器を必要とすることなく、手に取ったままにアイテムボックスに入っている。

便利と言えば、便利なのだが。

できれば、塩コショウ入れのような振り入れられる容器に入れたかった。

塊を砕いてくれる電動ソルトミルなら、なお有難い。

岩塩を砕くのは結構大変な作業なのだ。



「電動・・・って所で、ムリなんだろうけどなー」



この世の無常を嘆きつつ、エアーなガス火をつける。

今回は業務用ガスコンロ型ではなく、アウトドア用のアルコールランプのようなガス火タイプ。

狙った空中に出現した炎で、じっくりとキノコ串を炙った。

遠火の強火。

丁寧に火を通した。

裏側の真っ白な椎茸っぽいヒダの所に、じわっとたまる水分を落とさぬように。

逆さに持ちつつ、炎の向く方向も抜かりなく調節する。



「ん・・・・そろそろいいだろ」



火を消した。

見るからに熱々、それはもう旨そうに焼きあがっている。



「今食ったら、旨いだろうな」



食わずとも、旨いとわかる。

ひと口齧れば、ジュワッと汁があふれるに違いない。

旨味が口の中で大洪水。

想像するだけで、自然と唾がたまる。



「・・・・今すぐ食いてぇー」



コレがお預けなんて、拷問か。

泣く泣くアイテムボックスにしまう。

容器を必要としない塩同様、皿を必要とせず、キノコ串はダイレクトに入っていった。

あの消え方なら、大事な水分を失うことはないだろう。



「旨いままでいてくれよ・・・・」



カラの右手を見つめ、男はスターなキノコ様の無事を願った。


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