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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 充実生活編
164/169

魔男デビュー




『 魔法とは

  イメージ大事

  実践あるのみ

  訓練あるのみ 』



初級本の最初のお言葉。

アツい情熱でもって、作者は語る。

暑苦しいなんて言ってはいけない。

愛だろ、愛。

そういうことだ。



同じくアツい、暑苦しい料理愛を持つ男。

この本の作者に好感を持っていた。

ジャンルは違えど、自分と似た匂いがする。

仲良くなれるに違いない。

アツい作者が語るままに、ウッドデッキの丸テーブルに本を持ち出した。

昨夜は旨いメシを食べ、ぐっすり寝たことで冷蔵庫ショックから立ち直っている。

今日もすっきり、空気が旨い。

さっそくやってみるのだ。



「マオトコデビューだなっ」



しかし、魔女ならぬ魔男。

別の呼び名はないものか。

そこはちょっと不満だった。


ちなみに魔法使いという単語は、男の頭にチラリとも浮かんでいない。

魔女の男バージョンは、魔男。

残念ながら語彙力は乏しいようだ。



「いっちょやってみるかーっ、実践あるのみっ」



やる気満々。

どっかり椅子に座り、ふんぞりかえった。

既に人差し指には通訳指輪を装着済み。

飲み物だって準備した。

エアーな水ジョッキだ。


準備万端。

いそいそと本を開いた。

初級本の最初のページは、身体強化の訓練だ。

テンションがちょっと下がる。

どうしてもツラい記憶が蘇ってしまう。



大人は1日、1回。30分。

訓練あるのみ、半年間。

半年たったら、1時間を1年間。



「んー・・・・・・」



オーバーヒートの記憶は男を躊躇わせた。



「・・・・・・」



ツラくないと言うけれど。



「・・・・・・」



30分だけなら、いつでもできるし。

今日もまだ始まったばかり。



「・・・・後回しだな」



そのままペラペラと本をめくる。

別に本の並び通りにやらなきゃいけないルールもないし。

やりたいのから、やってみるか。


そして見つけたのが空間魔法のページだった。



「・・・・・・すごくね?」



空間魔法。

昨日は完全に見落としていた。

なんとなく理解するだけでせいいっぱいで、わかったつもりになっていた。

自分がどう使うのか。

どう使えるのか。

よくわかっていなかった。



「・・・・・冷蔵庫、いらないかもしんねーぞ」



アイテムボックス。

改めてわかるその凄さ。

体が震えた。


最低でも大きめの馬車1台の量というのはピンとこないのだが。

馬って結構デカい生き物。

馬車っていったら押し入れ1つか、2つ分にはなるんじゃないか。

いやいや、大きめの馬車って言うぐらいだから押し入れ3つ分かもしれない。

夢は広がった。

それだけあれば、ありとあらゆる食材の仕入れの荷物持ちには困らない。



そしてそして。

男にとって大事なのは質の話。

時間経過がないとは、これ如何に。



「・・・おぉ~?」



夢、いや幻の保存方法。



「食材が腐らないってことじゃね?」



発酵させたい時には困るだろうが。

それどころか。



「出来立てアツアツが、いつまでたっても熱々ってか!!」



こりゃすげえ!



思わずガッツポーズで立ち上がった。

座ってなんていられない。

今すぐ、行かなければ。

椅子がガタンと後ろに倒れたのにも気が付かないほどに大興奮。

頭に血が昇ったのか、顔が赤くなっている。

立ち上がった勢いのままに、本を片手に駆けだした。


向かうは畑。

目指すは新鮮、お宝食材。

採れたて野菜を確保すべく、男まっしぐら。

お手製草履の走りづらさをものともせず、気が急くままに走った。


ちなみに男は楽天的な人間である。

物事のプラス面を都合よくとらえ、マイナス面はあまり気にしない性質。

空間魔法の冒頭に書かれている所は、もちろん読んでいた。

読んだけど、わかっていなかった。



『 あまり授かることが少ないレアな属性魔法 』



皆が使える魔法じゃない。

それどころか、使える人の少ない魔法。

レアとはつまり、そういうこと。

冒頭で、作者はそう断りを入れていた。

普通に考えると、使えない魔法という可能性があるだろう。


だがしかし。

そんな不安は微塵もなかった。

考えもしていない。

妙な自信。

使えると疑うこともなく。

男は駆ける。

こと料理に関する限り。

ちょっとでも、かすりでも関係する限り。

不可能はない。

男は自らの才能を信じていた。

才能におごることなく、努力怠るベカラズ。

これぞ天才が天才たる所以。

常日頃より、自分に言い聞かせる言葉だった。



「着いたっ・・・」



魔女の家の敷地は広い。

畑も広い。

息を切らした男がたどり着いたのは、色とりどりのトマト畑。

支柱もないのに、重い実をいくつもつけた蔓性の植物が、ちゃんと天に向かって自立している不思議なゾーン。

息を整えつつ、物色する。



まずは絶対コレだろう。



真っ黒いトマト。

味は極上、初めて食べた高級トマトだ。

息が整うまでじっくり観察する。

相変わらず、見た目は悪かった。

緑が濃すぎて、緑というより黒っぽく見える長めのヘタが、黒光りする丸い実にからみついている。

触手を操る生き物みたい。

なんかグロイ。



「これが旨いって、トンデモ野菜はわからんよなー」



見た目にも旨そうな、つやっつやの朱色のトマトを横目につぶやく。

地球であれば、ピンク種に分類されるもの。

日本のスーパーに出回る、一般的な赤いトマト。

よく見るものだ。

だがしかし。

もう騙されない。

ひと口、キケン。

痛いくらいの激辛トマトに泣かされたのは、まだまだ記憶に新しかった。


本を開いたままそっと地面に置き、黒トマトを両手いっぱいに収獲する。

その数、5個。

大変立派な、大玉ばかり。



「ザル、持ってくればよかったな」



もう持ちきれない。

持つだけなら、あと2個はいけるが持ったままの収獲ができない。

仕方ない。



「やるか」



本のそばにしゃがみ込む。

開いたままのページでおさらいする。



作者曰く、大事なのはイメージ。

イメージ・・・・。

収納するイメージ。



「トマトの収納ってったら、アレだろ」



男は店で使っている業務用冷蔵庫を思い浮かべた。

頭の中で、銀色のデカい扉を開く。

トマトの定位置、籠の中に、無造作にトマトをしまう・・・・。



「おっ!」



両手のトマトが消えた。



「しまえたっ!!・・・・すげーっ!!!」



大興奮。

カラの両手を見つめる。

なんとも不思議だった。



「じゃあ、取り出しだな」



銀色のデカい扉を開く。

籠の中のトマトを一つ、手に取った。



「・・・・おっ」



お手テの中にはトマトが1つ。



「・・・・すげえ」



声がかすれた。



もう一つ、取り出してみる。

お手テの中にはトマトが2つ。



「ほんとにすげえ」



記念すべき魔男デビューの日。

この日もいつも通り。

テンションはぐんぐんとあがっていく。

ご機嫌だ。

わかりやすく調子にのった。

通常運転、自画自賛。



「オレって、すげえ~っ!!!」


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