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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 充実生活編
161/169

ツラくないと言うのなら

ようこそ。


めくるめくマホーの世界へ。



へー。ほー・・・。

へー。へー。

ほー・・・。



本が誘うままに、男は得体の知れない世界へのめり込んだ。

へーとほーが止まらない。

素直に驚き、感心しながら本を読み進めた。

得体の知れないから、ちょっと知れてるへ。

そしてだいぶ知れるまで。

夜が更けるほどに、理解も深まっていく。



へー・・・。



もしも検索が使えるならば。

まず知りたいのは地理、地名だった。

国の名前や街の在りか。

どこに行ったら、客がいるのか。

店を構える場所は、どこがふさわしいか。

漁港が近くにあれば有難い。

海の魚が恋しいものだ。


歴史だって知りたかった。

食べることは生きる事。

歴史を学べば、食がわかる。

まだ会った事もない、この惑星の人々は何を食って育ったのだろうか。


文明の程度はどうか。

メードインジャパンの高性能な冷蔵庫は無理だとしても、やっぱり厨房機器にはこだわりたい。

業務用の食洗器だって、静音仕様のいいのが欲しい。

先進国なみのモノがお安く買える国はどこなのか。


気候だって興味津々。

春夏秋冬、四季が欲しい。

種類豊富であってほしいのが、旬の食材。

季節がなければ、数も減る。



無一文の自覚がない男。

先立つものがなくたって、レストランのオーナー目線。

ピンポイントで知りたい知識は決まっている。

料理優先、最優先。

本来であればそういう人だった。


だがしかし。

たまたま手始めとして手に取った本に、あのツラい記憶を呼び起された。

そしてそのまま魔法の本に没頭することになる。



「・・・・・」



思い出されるイタイ記憶。

体が圧力鍋になったかのように、爆発しそうなあの熱さ。

この惑星で死ぬかと思ったあの1日。

時計が身代わりとなったあの日。



オーバーヒート。



ぺらりとめくった一ページで紹介されていたのは、作者曰く、初級のマホー。

その名を身体強化というらしい。

読んでそのまま、身体の力が異常なほどに強化され。

誰だってヒーローになれる。

夢の魔法。


しかしそこには、大事な注意事項。

注意というより警告が、オーバーヒートの症状とぴったり一緒だった。

この魔法を使いすぎて、ヤバい状態になった時に起こる現象。

カラダが爆発しそうに熱を持つ。

そうなったら、非常に危ない。

心臓が止まることもあるんだと。

命に関わるから。

体がちょっとでも熱くなってきたら、身体強化を解除しましょうねと。

作者は優しく諭していた。



やっぱ死ぬとこだったじゃねーか。

あぶねー・・・・・。



身体強化とは云々・・・と読みつつも、流れる冷や汗を感じる。

初級の魔法とされる簡単な魔法。

適性があれば、わりとすぐに使えるらしい。

適性とは何ぞやと思うが、才能のようなものかもしれない。

とりあえず、使えたからには男には身体強化への適性があるのだろう。

だからといって、もう使いたくはない。

普通で十分、普通が一番。

ヒーローなんて、なりたくはない。

普通の人に、俺はなる。


そんな男の本音を置き去りに、説明は方法論へとうつった。



魔法を使うのに大事なのはイメージだそうだ。

ぶつぶつ呪文を唱える必要など全くない。

何を言っても、言わなくともご自由に。

要はどれだけリアルにイメージできるか。

それが重要。


自分の体が強くなる。

それをイメージするだけ。


作者は力説する。

だからこそ、身体強化はイメージしやすく使いやすいのだと。

コツを掴むには、訓練あるのみ。

難しい訓練じゃないから。

使ってみること。

毎日続けること。

とにもかくにも訓練、訓練。

繰り返されていた。


なかなかにアツい解説だ。

魔法への情熱を感じる。

愛だろ、愛。

嫌いじゃない。

だがしかし。

いやしかし。

ツラいのはもう勘弁。

あの日の記憶が男を縛る。

訓練する気はさらさらないが、作者のアツさにつられて読み進めた。


慣れれば無意識で発動できるらしい。

柔道家が、意識もせずに受け身をとるようなものなのか。

自分なりに解釈し、読み進めた。


訓練と言っても、何もツラいことはないと言う。

大事なのは時間。

使いすぎない事。

筋肉や骨、内臓だって身体強化に慣らす必要がある。

これらがついてこないからこそ、オーバーヒートが起こる。

いわばカラダの中のショック症状。

筋肉痛を通り越した凄まじい体の痛みに襲われるなら軽い方で。

悪ければ何本も骨折したり。

内臓破裂。

死に至る。



「・・・・・へー」



冷や汗が止まらない。

やべぇ。



怖がる男をなだめるように解説が続く。

訓練すれば大丈夫。


10歳程度の子供ならば、毎日5分。

それより幼い子供はやってはいけない。

成人したての大人ならば、毎日10分。

15歳の成人時なら、体はまだまだ成長期。

だから10分、それで十分。

成長しきった通常の大人は、毎日30分。

これを半年。

半年たったら、さらに倍のお時間で。

大人は1年。

子供は3年。


続ければ。

半日使い続けても、問題ない程度まで育つらしい。

慣らし運転を続ければ、体の全てが慣れてくる。

筋肉、骨、内臓に至るまで、長時間の身体強化に耐えられる体が創られる。

その後は日常的に使うことで、個人差はあれども1日~数日は耐えられるようになる。

それが身体強化。



「・・・・ほー」



何もツラいことはない。

簡単でしょ。

できそうでしょ。

さっそくやりましょうね。

応援してるわ、頑張って。

今日からね。


本は男にアツく語りかける。

若干暑苦しく感じるほどの魔法への情熱。



「えー・・・・」



無視できない。



「・・・・・マジかー」



ツラいのはカンベンだけど。



男は長く、とても長く考えた。



「・・・・・」



ツラくないと言うのなら。



「・・・・・」



ホントのホントにツラくないと言うのなら。



「・・・・・・やるかぁ」



気付くと冷や汗は止まっていた。


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