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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 充実生活編
160/169

魔法の世界の扉を開く


♪♪



オレっこそ、天才料理人~。

これっぞ、プっロの料理人~。


すっんごい。

うっんまい。

めっしつっくる~。



さっすがはてっんさっい。

りょっおりにん~。


♪♪



自画自賛、大絶賛の夕食を終え、男はご機嫌で厨房の片付けを行っていた。

あまりのご機嫌っぷりに、今日もオリジナルソングが止まらない。

ノリノリだ。

本人はカッコよくラップをしているつもりである。

自画自賛の脳内無限ループで悦に入っていた。



だって韻をふんでるし。

言葉数も同じくらい。

完璧なラップだな。

俺って音楽の才能もあるんじゃねーか。

すげーな俺。

強いぞオレ。



しかしながら、男はいつも通りの音痴だった。

調子にのっても音にはのれない。

ラップだか歌だか、どんなつもりか知らないが。

訂正。

ノリノリではなく、ノリノリなつもり。

結局、いつも通りの妙な呪文なだけである。

歌い上げているなんて言えない。

唱えあげている。

そんなご機嫌な男がいるのは薄暗い室内だ。


ぼっちで呪文。


絵面が怖い。

誰か。

現実を教えてやってくれる人はいないのか。

だが、現実を教えてくれる人はおらず。


男は独り。

今日も幸せそうだ。



「・・・・よっしゃ終わった~」



ご機嫌なまま厨房の片付けに続いて、清掃を終わらせた。

使い始めたばかりの厨房だって、慣れたもの。

厨房は清潔第一。

安全第一。

腹の安全は清潔な厨房から生まれると言っても過言ではない。



「さーって、今日は寝るかな~」



ぐぃーっと。

両手を上げて伸びをする。

今日も朝から良く動いたと満足げに思い出した。

ブランチには利き塩3本勝負を行い。

夢の裸足生活をかなえる草履を作り。

新たな食材を求め、畑に入り。

こっちに来てからお初の料理。

本格的なイタリアンを作った。

もちろん旨くて、ワンダホー。

大満足の1日だった。



「シャワーでも浴びるか~?」



外は暗いからもういい時間だろう。

だが、もう少し起きていたかった。

だって腹いっぱい食べたばかり。

このまま寝ると、朝が怖い。

消化不良の胃を抱えこんだら、旨い朝食が食えないじゃないか。

そんなん絶対やなこった。

明らかに突き出た腹をなでつつ、時間つぶしを考える。

ぐるりと室内を見回した。



「・・・・・ちょうどいいな」



ちょいとばかり読書でもしようかと、灯り花を手に本棚に近寄った。

灯り花を本棚の空いた所に置き、人差し指に指輪をはめる。

すると、なんということでしょう。

本のごにょごにょが、文字として読めるようになるのです。

名付けて通訳指輪。

すんばらしい指輪じゃねーか。

置き場所は使う場所が一番だと、本棚が所定の位置だった。



「魔女とか、マホーとか。こっちの常識がわかんねーんだよなー」



この想像を超えるファンタジーな世界。

映画くらいでしか見ないだろう景色。

男の常識では有り得ない。

異文化の常識を教えてくれる本はないだろうか。

地図があれば有難い。

パラパラと手書きで描かれたいくつかの本をめくりつつ、物色する。

食材やハーブに関する知識欲がある程度満たされた今。

ようやく知らない土地で生きる上での、一般知識に興味がわいていた。

料理優先、何より優先、最優先。

男はどこに行ったって、ブレることがない。

全てはその次、二の次だった。



・・・・・なんかいい。

食後の読書とは、いかにも文明人の生活っぽい。

いやいや、文化人って言うのかなあ。

高尚な生活を送っているってカンジ。

いいねえ。



本を選びつつ、悦に入った男の機嫌な時間はまだまだ続く。


地図は見つからなかったが、目星をつけた本と灯り花を手にテーブルに近寄った。

椅子を引いて座る。

たった10本の灯り花では、暗い室内を十分に照らしきれなかった。

だが読書をする程度なら十分。

男は夜の静けさの中、読書に没頭した。


知りたい事はたくさんあった。

だが検索なんて便利さの使えない今、狙った情報がピンポイントで手に入るわけでもない。

手当たり次第に本を読み進めるしかなかった。


それでも知らない事がわかっていくのはおもしろい。



「おっ・・・・マジでっ??」



中でも一番の収獲に思わず声も出てしまった。

なんてったって、この惑星に来てから一番の苦い記憶に関わる記述なのだ。

リアクションも大きくなるだろう。

声だって出て当然。

本から目線をそっと外した。

目を細め、遠くを見つめる。

その瞳にうつるのは暗い室内ではない。

天国と地獄。

特に地獄の日。



ツラかった記憶ほど、リアルに思い出せるのはなぜだろうか。



ヒーロー気取りで調子にのった代償。

死ぬかと思ったオーバーヒート。

起き上がれなかったその後の1日。

もうツラいのは勘弁。

過ちは繰り返さない。


奇人変人びっくり人間の自覚が芽生えた男。

エアーなお水にお湯、なんちゃってガス火は使い放題にするものの、「へーんしんっ!」というヒーローごっこをやることはなかった。

異常なまでの体の強さに、走りの速さがあったとしても。

どんなにすんごい力を持てるにしても、あのツラさはもう味わえない。

死んじゃうから。

ヒーローごっこ、ダメ、絶対。

己の心にかたく誓っていた。



「・・・・・フッ」



かっこをつけて、苦く笑う。



「・・・・・涙が出るぜ・・・」



セリフっぽい独り言。

関西人の素のキャラでなんて語れないあの記憶。

ダイレクトなツラさに襲われる気がする。

自分の言葉で自分にダメージ。

痛い、痛かろう、痛すぎるだろう。

あの時のオレと今の俺は別人。

だってしゃべる言葉が違うもの。

自己防衛の標準語。

無駄にカッコをつけたかった。


涙をこらえ、気を取り直して、本に向かい直す。

椅子に深く座り直した。

背筋を伸ばし、イイ姿勢でまた読み進める。


己の不思議がわかりはじめていた。



「・・・・・・・・身体強化ってか」



ぽつりとつぶやく。

もう涙は出なかった。

手書きの本は男を優しく誘う。



ようこそ。


魔法の世界へ。


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