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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
152/169

オチョーっ!飴色玉ねぎへの長い道のり


♪♪


カッチャ  カッチャ


カッチャ  カッチャ


カッチャと~ら~~っ



おれ~はハンタ~~


りょ~しデビュ~~



ウッサギをとっらえた


りょっおりにん~~



カッチャ  カッチャ


カッチャ  カッチャ


カッチャと~ら~~っ



とっくせい、ごっくじょう


トマト味~~


♪♪



厨房に立つ男はご機嫌だった。

ノリノリだ。

気持ちよく歌い上げている。

今日も楽しそうだ。


だがしかし。


調子にのっても、音には乗らない。

何かの呪文。

気持ちよく唱え上げている。

今日も音痴だった。



「すっごく、うまーいっ、カッチャとーらーっ♪}



コレを聞きながら育つ料理は旨くなるのか。

果たして。



調子っぱずれに歌いながらも、男の手は休むことがない。

飴色玉ねぎを作るのだ。

焦がしてはならぬ。

絶対にならぬ。

しっかりと甘みを引き出したい。

木べらを持つ両手は、ちゃっちゃか、ちゃっちゃか動いていた。



男が調子にのる30分ほど前。



気合と共に、デカい鉄板モドキに通玉オチョーが投入された。

日本でいうなら、通年出回る茶色い皮の玉ねぎ。

見た目だけならニンジンのみじん切り。

このオチョー、鉄板に山と盛り上がった。

あふれそうに大量だ。


鉄板モドキの端っこに寄せられた、コスモスの花びらモドキ。

ガーリックの香りを振りまいている。

しかし香りをアピールしつつも、肩身が狭そうに見えた。

オチョーの侵略を警戒しているのか。

オレンジ色に荒らされると思っているのか。

気をつけて混ぜねば、オチョーがコスモス畑に入り込みそうだった。


飴色を目指して炒め始めるも、オチョーは一筋縄ではいかなかった。

ゆっくりと火が通り出すと、オレンジ色が変色し始めた。

暗い緑へ。

オレンジに黒っぽい緑が混ざっていく。

正直、あんまり良い色とは思えなかった。

煮過ぎた長ネギの青い部分が、さらに黒っぽく変色したカンジ。



「・・・・・」



旨そうではなかった。



これは嫌かも・・・・・



この黒い緑はどうだ。

見た目は立派に不合格。

黒なら、すっきり潔く。

真っ黒になればいいのに。

そうしたらまだ使いようがある。

しかし微妙に緑やオレンジが残る、黒っぽい混沌。

旨そうではない。



「えー・・・・」



若干の不安を覚えつつ、混ぜ続けた。

これほど大量のオチョーだって、火が入るとカサが極端に減るだろう。

それまでの長い、長い道のり。

飴色になるかは別として、これだけの量を弱火で炒めあげるのは時間もかかる。

ヘタしたら数時間だ。

飴色玉ねぎへの道は長い。


店によっては、焦がさぬよう面倒をみながら、強火で一気に飴色玉ねぎを作り上げる所もある。

時間がないなら、それもアリだ。

しかし男には時間はたっぷりあった。

そして単純に好みではない。

風情が台無し。

飴色玉ねぎとは、じっくりゆっくり作るものだ。

お時間たっぷりコース。



「・・・とはいっても腹減ってるしな」



今日は大掃除から畑の収獲と、大活躍だったのだ。

そしてトドメは家中、外まで広がるガーリックの香り。

空腹、狙い撃ち。

辛抱たまらん。

旨そうな匂いと共に、何時間も炒めるだけという修行。

拷問ではないか。



「・・・・無理っす」



そんな我慢強さはなかった。

玉ねぎ炒めにも、風情を求める料理バカ。

バカの前に人間であった。

人間、空腹には勝てない。



「時短するか」



ピンクの岩塩が入った小皿を手に取った。

パラパラと振りかける

飴色玉ねぎ作りの時短作戦だ。

細胞に染み込んだ塩分が、水分の排出を促してくれる。

水が早くでるから、仕上がりも早くなる。

さらにはちょっと火を強めても、水分でコーティングされる分、焦げにくい。

男は火力を調整する。

ごくごく弱火から、普通の弱火へ。

気持ち程度の違い。

しかしこの違いが、大違い。

数時間が1時間に短縮されれば十分だった。



そしてまぜまぜを再開。

鉄板モドキを注意深く観察すると、じゅわりとした水分がわかる。



「甘みも増して一石二鳥だな」



今回選んだ岩塩はピンク。

このピンクは食材の甘みを刺激する特性を持っている。

甘ったるく味を変えるのではない。

あくまでも素材の甘みを最大限に引き出す。

利き酒ならぬ、利き岩塩で判明した特性だった。

日本で売ったら、とんでもない値段がつくであろう塩。

ウサギの白身肉といい、このピンクといい。



この食材と出会うために俺はここに来た。



料理バカがそう信じてしまうほどの出会いだった。

ピンクはいい仕事をしてくれるだろう。

通玉オチョーの甘みを存分に引き出してくれるはずだった。



岩塩パラパラ、まぜまぜ再開、その後1、2分。



「ぅんー?」



緑黒い鉄板の上に変化が現れた。

手が止まりそうになる。

かわりにちょっと息が止まった。



「・・・・おお」



灰汁が抜けるかのように、どす黒さが抜けていく。

スーッと緑が浮き上がるかのように。

抜けていく。

さらには緑も薄くなってきた。



「・・・・・やるじゃん、ツー玉オチョー」



なぜに「じゃん」。

関西弁にふさわしくない語尾は、男の動揺を表しているかもしれない。

一瞬、自分を見失っていたようだ。



熱が加わり、どす黒い緑に変色した通玉オチョー。

塩分が加わって、黒と緑が抜けた。

白っぽく変わる。。

先に炒めたアガー(ニンニク)の黄色と絡んで見慣れた色になってきた。、



良かった。

フツーの色だ。

これなら使える。

これなら安心。

旨くなる。



安堵のため息がもれた。

気分も上がる。

そして冒頭、「ああ、カチャトーラ」の自作自演につながるのだった。


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