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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
151/169

厨房はガーリック祭り



ジュジュー!!

ジュッジュ―――ッ!!!



男が肉を鉄板モドキに押さえつける度、賑やかになる肉の焼ける音。

素晴らしい。

録音したい音シリーズを存分に楽しみながら、男は両手の木べらを忙しなく動かした。


本日目指すはイタリアン。

ただし、オリーブオイル抜き。

そしてワイン抜き。

ワインはまあ仕方なくとも、油がないのはツラい。

イタリアンだったら本来、タップリのオリーブオイルにニンニクの香りを移したいところ。

このオイルが、飴色玉ねぎを旨くしてくれるのだ。

しかし無い袖は振れぬ。

ないモノはない。

ウサギ肉の動物性アブラに頼るしかなった。



「アブラ・・・カタブラ・・・あぶら~~っ!!」



たくさん脂が出ますように。



祈りというより、妙な呪文に力が入る。

しかしながら、ウサギはそもそも脂が少ない肉質だ。

男は火力を落とした。

本来、強火で表面だけパリッと薄く焦げ目をつければいい。

だから肉の焼き目としては、もう十分。

だがまだちょっと、脂が欲しい。

ギブミーアブラ。

肉汁お代わり。

鉄板全体にウサギからにじみ出る脂が回るよう、肉を移動させ続ける。


木べらを持つ両手は熟練の者のそれだった。

これ以上アブラが期待できない胸肉などは、鉄板から順次引き上げていく。

引き上げる先は、新玉アチョーの角切りの山の上。

肉汁だって、脂だって。

一滴たりとも無駄にしたくない。

こうしておけば、イイ感じに吸ってくれるだろう。

アチョーの包容力に期待したい。



「しっかし、多いな」



肉を移動させるのも一苦労だった。

今まで食べて減っているとはいえども、元は二匹の赤身肉。

まだまだ大量にあった。

既に長い硬直期間が終わり、熟成もすんだ食べ頃を迎えている。

つまりは、もう日持ちしない。

今回で使い切ってしまうつもりだ。


鉄板モドキに拡げたのは、背肉に腹肉、胸肉に骨付きのモモ肉。

モモ肉2本を除いて、他は全て大きめのひと口大に切っていた。

デカい肉にかぶりつくのもいいが、弾力タップリのこの赤身肉は顎が疲れる。

食べる時にまで、ナイフで切り分けるのも面倒だ。

イタリアンのシェフである男。

肉を掴むトングが欲しいとは言わない。



「やっぱ、菜箸、欲しーな」



断然、おハシの国の人であった。

魔女の家には、木でできた先が2つに割れたフォークとスプーンがある。

だが箸はない。

まあ魔女も、そのご主人も聞いたことのないカタカナ人種。

パンが主食のようだし、アジアンな文化ではないのだろう。



最優先で菜箸を作ろう。



お手製の布草履を履いている男は、明日の予定を決めた。

絶対に菜箸は要る。

普通の箸だって欲しい。

明日もハンティングナイフの出番だった。


ちなみに厨房靴を履かずに厨房に立つ男。

調理前に靴下を履いていた。

指の部分が5本にわかれた靴下だ。

高校時代から長らく、室内履きに布草履を愛用していた男。

靴下は全て5本指ソックスである。


本当は厨房靴を履きたいところだが、仕方なくの妥協案だった。

アツアツの食材を足の上に落とすなんてマネはしないが、厨房で裸足はいけない。

落ち着かない。

だが靴は一足しかなかった。

温存しなければならない。

ひたすら歩いた大草原生活。

ウサ追い祭り。

こちらに来てから、厨房靴は大活躍だ。

酷使されたダメージが心配だった。

繁忙期前に買い替えたからまだまだ新しいとはいえども、次にいつ買えるかわからない。

買えたとしても、同じモノを手に入れるのは難しいだろう。



イノチ大事に。



こちらに来てから、人にもモノにもよく使える合言葉だった。



「ん~・・・これ以上は厳しいか。」



あまり火を入れ過ぎたくない。

男は肉から脂を引き出すのを諦め、肉を全て新玉アチョーの山へ引き上げた。

火力は中火から動かさない。

コスモスの花びらモドキを鉄板の上いっぱいに広げた。

アガーの花びら、色とりどりだ。



「色、どーなるかなー」



ウサギ肉から出た脂と絡めるように、ざっと混ぜあわせた。

ガーリックの良い香りが漂い始めた。



コスモスな見た目でもワタシはニンニク。



力強く主張していた。

拡げられた花びらは、すぐに鉄板モドキの端っこに集められる。

色にはまだ変化がない。


男は火力を調整した。

中火から、ごくごく弱火。

そして今度はアガーの根の部分、みじん切りを投入。

焦がさぬよう、じっくりと炒めていく。

朱色が混ざった、鮮やかなボイルエビの色合いが変色してきた。

白は薄い黄色へ。

朱色はその色を薄める。

変化を見逃さぬよう、注意深く鉄板モドキを見つめた。

鮮やかなボイルエビの色合いが、その特徴を失っていく。



厨房はガーリック祭り。



空腹を誘惑する香りで一杯だった。

おそらくこの香りは厨房を飛び出し、部屋いっぱいに広がっているだろう。

全開のいくつもの窓から、外にだって行っているはずだ。

魔女の家とニンニクの香り。

ニンニク臭が染みつく魔女の家。

怒られるかもしれない。

ラーシャさんが気にしない人であるよう願う。



さほど時が経たずに、ボイルエビの色合いが全体的に黄色っぽくなった頃。

通玉オチョーのオレンジ色をしたみじん切りを投入。



「さー、こっから長いぞー」



これから始まる飴色玉ねぎへの道のり。

男は気合を入れた。


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