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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
150/169

ハーブは焦がしちゃイカンよな

ウサギ肉を手に取った男。



肉の表面にくっついた数種類のハーブを、指で丁寧に取り除いていく。

なかなか面倒な作業だ。

細かくちぎられた数種類のハーブ達。

赤身肉の強烈なクセと、上手く折り合ってくれると願いたい。



色などちょっとした違いがあれど、日本で手に入るモノと同じような形状のハーブ。

大草原では目視だけで研究。

ひたすら見てるだけ。

イノチ大事に。

その合言葉のおかげで、今までお触りすらも我慢してきたのだ。

昼間に薬草辞典で確認し、ようやく味見を済ませている。

待ち望んだ研究結果は、喜ぶべきものだった。

見た目が似ていれば、日本で使っていたものと味はほぼ同じ。

だから注意点すべきも、おそらく同じ。

男はそうふんでいた。



「たぶん、焦げると苦いだろーし・・・・」



例えばローズマリーもどき。

松の木の葉っぱを短くしたような、ツンツンしたその葉っぱ。

灰色がかった薄紫色の葉は、いかにもローズマリーっぽい。

乾燥に失敗して、ちょっと変色でもしたのかなと思う程度の違いだった。

特性がローズマリーと同じなら、焦げると苦みが出る。


そしてローズマリーに限らず、ハーブは焦がすとだいたい苦い。

マルゲリータピザに必須のスィートバジルの扱いには、コツを掴むまで苦労したものだ。

高温の窯の中で、緑はあっという間に黒くなる。

だが生地は、しっかり焼く必要がある。

この両立が難しい。

単純なピザほどごまかしがきかなかった。


 

 ―――ピザの端を持ち上げてな、裏側の焼き色もチェックすんだよ。

    まあ、悔しいよな。

    イマイチだって、わかってるしな



ナポリのピザ焼き世界大会に、惨敗した先輩が語ってくれた。

店のピザ舞台ならナンバーワン。

誰もが認めたエースの背中。

それはもう、凹んで帰ってきたものだ。



 ―――窯がな・・・並んでんだよ。



会場にはいくつものピザ窯がずらり。

そこに選手が次々と入れ替わり立ち替わり、ピザを焼く。

流れ作業のように、皆がピザを焼き、チェックを受ける。

日本ではまあ、一生見る事のない景色。

先輩はこれでまず、緊張とプレッシャーにやられたらしい。


初見のピザ窯に挑むのだ。

短い持ち時間の中、窯のクセをほぼ一瞬で把握する必要がある。

本場のベテランだって難しい。

ピザを入れてから、温度が足りないと薪を足した者すらいたそうだ。

高温の窯の中、あっという間の真剣勝負。

なんとか表面の焼きムラを防いだものの、それだけだったと先輩は肩を落とした。



 ―――まあまあ上手く焼けたじゃ、だめなんだよな・・・・



3人の審査員が待ち構える長テーブルに、選手達は焼き上がりをすぐに持っていく。

そのまま立たされている目の前で、あっという間に審査が終わったとのこと。

日本ならば十分売り物になるピザ。

だが世界では通用しない。

トッピングのバジルが焦げるなんて、論外らしい。



「ハーブは焦がしちゃイカンよな」



尊敬する先輩を思い出しつつ、ちまちました作業は続く。

いつか続きの話を聞けるだろうか。



丁寧に取り除いたハーブは、そのたびに木皿に盛られたトマトの上に移動した。

極上の甘み、旨味の黒トマトだ。

もちろん仕込みは終わっている。

まな板モドキの上で刻もうかと思ったが、果汁が惜しかった。

旨味、一滴足りとも無駄にしたくない。

もったいないオバケが出てしまう。

ゆえにヘタをくり抜き、皮だけむいた状態だった。

煮込む際に木べらでつぶすと、いい感じで崩れてくれるだろう。


奇人変人びっくり人間の、どこでもエアーなガスバーナーは本当にありがたかった。

魔女の家には鍋と言えば、バカでかい寸胴鍋しかない。

寸胴でトマトの湯剥きするのは、さすがに嫌すぎる。

ポンコツさんでなくとも火傷しそうだ。

大は小を兼ねるというが、気の利いた小さい鍋だって欲しいものだ。



「ん、きれいにとれた」



ようやくハーブを取り終え、念のため全ての肉を確認する。

大丈夫そうだ。

手を軽く洗う。

肉に軽く塩を振った。

ハーブとケンカしないよう、主張控えめな白い岩塩。

仕上げには、味をみてからどの色の塩を使うか決めるつもりだった。

3色の岩塩もちゃんと砕いて、木皿にそれぞれ準備してある。

段どりに抜かりはなかった。


そろそろ室内が暗さが気になってくる。

灯り花の電気をつけた。

優しい灯りで、室内がパッと華やぐ。



「さー、焼くか」



セットした鉄板モドキに、エアーなガス火はまず強火。

十分に温まった所に皮目から肉を置いていく。



ジューッ



勢いのある音が響く。

木べらで肉を押さえつけた。



ジューッ!

ジュジューッ!!!



「イイ音してんなーっ・・たまんねーっ!!!」



肉を焼く音が一層賑やかに響く。

男はご機嫌だ。

両手で木べらを使い、鉄板のできるだけ広い範囲に油が回るよう、肉を移動させていった。



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