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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
148/169

新玉アチョーにツー玉オチョー


♪♪


たまたま、しんたま~っ


しんたま、たまたま~っ


しんたま、あっチョーっ


つうたま、おっチョーっ


たまたま、たまたま~っ


♪♪



今日もまた、でたらめな歌が厨房にひびく。

今度はセンスのかけらもないという自覚があった。

だが何も気にしていない。

開き直って、センスの悪さを楽しんでいた。



楽しい。

今日も料理ができる。



厨房に立てる事が嬉しかった。

テンションも上がる。

寡黙な料理人だった男は、すっかり陽気なおっさんとなっていた。

この変わりよう。

後輩料理人の憧れ、無言の背中はどこに行ったのか。



どうした。

悪いモノでも食ったのか。



様子がおかしい時は、悪いモノを食った時。

そんな決め打ち、ワンパターンな体調確認をしてくる同僚はここにはいなかった。



出来上がりを待つ人もおらず、時間に追われない厨房。

気合の入ったイタリア語、暗号のような短い言葉が飛び交うこともない。

ある意味、自由。

のんべんだらり。

男を自由を満喫していた。



「ぉおっ!いいオレンジだねぇーっ」



洗い終わったニンジン。

ただし人参ではなく、洗い終わると真っ青な皮が不安をあおる。

しかしこれはトンデモ野菜。

色ぐらいで引いちゃいけない。

イタイ味だって使ってみせる。。

泣き笑いを経て、畑の野菜を受け入れる強さがあった。

どんとこい。

ノーモアガブリシャスが継続中ではあるものの、男は器のデカい男に成長していた。


食材の色としてはあまり見る事のない鮮やかな青は薄く、ぺりぺりとはがせる。

ちょっと気持ちい。

むきたてつるん。

とはいかないが、現れたのは色の濃いオレンジ色だった。

ここまでくると見慣れた姿。

人参だ。

ただしこれは人参ではなかった。

新玉アチョーに続き、掘り出したばかりのものだ。



朝顔のような、蔓性の植物が地面を低く茂っている畑の一角。

そこから掘り出した。

目印となった蔓の所々に咲誇るいくつもの花。

楚々とした朝顔よりも濃い姿だ。

例えるなら、真っ青なハイビスカス。

咲き乱れていた。

その蔓の根元を掘り進めて引っ張ると、ずぼっと芋のようにゴロゴロくっついてきたモノ。

土にまみれた形は、ニンジンそのもの。

親指ほどの小さいモノを含めて大小の違いはあるが、一気に10個近くがとれた。



野菜辞典によれば、通年出回る玉ねぎの味に近いはずだった。

確かに固い。

新玉の柔らかさはない。

そしてニンジンな見た目だが、ちゃんと玉ねぎの層になった繊維質を受け継いでいる。

味見済み。

色に反して期待の玉ねぎ味、そのままだった。



玉ねぎをニンジンの形に品種改良した新種。



そう言われれば信じるかもしれない。

新玉アチョーに比べれば、ハードルの低い姿だった。

ちなみにこちらは「オーチョー」と呼ぶらしい。

男はこれを「ツーたまオチョー」と名付けていた。

「通年出回る玉ねぎ」を略したつもりだ。



新玉アチョーにツー玉オチョー。



最強の料理ができそうだと満足している。

今晩のご飯はイタリアン。

決めてはいるものの、玉ねぎコンビを名付けてから中華を食いたくて仕方がなくなった。

激辛トマトをなんとかすれば、エビチリが作れないだろうか。

新玉アチョーと、ツー玉オチョーを使ったエビチリ。

絶対旨いはず。

専門外の中華であっても、プロの料理人。

絶対旨く作りたい。

男は野望に燃えていた。


川に行けば、川エビが手に入るかもしれない。

ゲットできれば考えよう。



「夢はふくらむねえ・・・」



ちなみに畑でゲットした晩御飯の食材はもう一つあった。

キノコである。

こちらの見た目も一筋縄ではいかない。

果実のように、木になっている。

ただ慣れも生じて、もうそれほど驚きはしなかった。


海外で市場に行けば、見慣れぬ野菜がたくさんあるのが当然だ。

男の扱っていた京野菜だって、他府県民からは珍しがられた。

観光ホテルで一緒になったアメリカ人は、海藻を知らなかった。

食用菊の酢の物を、ほぼ皆が残した中国人のツアー客。


意外と美味しいんですよ?


当時、一生懸命説明してくれたお運びさん(料亭の仲居さん)のおかげで、辛うじて2、3人だけ食べてくれたそうだ。



トコロ変わればシナ変わる。



地域が違うだけ、国が違うだけでもあんなに違ったのだ。

惑星どころか、太陽系でもないのだから、そりゃイロイロ違うだろう。

男はそう理解していた。

食べられるとわかっているキノコがあるだけでも、有難い。


キノコの実っていた木の形は、ぱっと見は低い生垣だった。

京都は和束町を思い出したお茶畑のような一角。

まあまあ広い。

ただし葉は硬そうで、お茶摘み体験をした新茶の葉の柔らかさには似ても似つかなった。

そこに点々となる、赤黒い実のようなキノコが食べられる。

分厚く、マッシュルームを思わせる大きさ。

5つの頂点を持つ、イラストのお星さまが崩れたような赤い実。


赤い星型を崩したような実の弾力は、確かにマッシュルーム。

裏返すと、しいたけっぽい「ひだ」だってちゃんとある。

胞子が飛ぶんだろうか。

木だから種があるのだろうか。

トンデモ畑にふさわしい、謎な植物だった。


この赤い実、生食はできない。

ただ焼いただけでも旨味が強く、塩をして食べるのがおススメだとか。

噛み締めると、じゅわっと旨味たっぷりな汁があふれるらしい。

疲労回復効果もある。

肉と一緒に焼くのがサイコーよとラーシャさんが書いていた。


収獲した赤い実は、真ん中、直径5ミリ程度の円形が蛍光のどぎつい黄色。

この色が重要だ。

同じ赤い星型でも、真ん中が青なら毒らしい。

間違っても青を食べてはいけない。

野菜辞典には、注意して収獲するよう、繰り返し書かれていた。



「そりゃヤバいよな」



死ぬほどのモノではないそうだが、腹は確実に下す。

勘弁してほしかった。

しかも、同じ木に同じように実るというその怖さ。

キノコとは、どこの惑星でも美味く、そして怖ろしいモノのようだ。

何度も色を確認して、おそるおそる収獲した。



「毒物キケン、腹ピーは断固拒否だな」



新玉アチョーとツー玉オチョーを洗い終え、皮もむいた男。

続いて赤いキノコもどきを手に取り、慎重に色の確認しつつ洗い始めた。


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