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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
143/169

おニューの草履でぶらぶらと



「っんー!やっぱ履き心地サイコーだなっ」



えらいぞオレ。

頑張った。

よくやった。

これで。



夢の裸足生活が始まる。



今日も今日とて自画自賛。

誰に褒めてもらわなくとも良い。

独りで十分。

充実感。

今日も男は自分に甘かった。



「ま、ホントの裸足は出来んからな」



このあたりが落とし所だろう。



裸足生活とは言えども、土足で使うログハウス。

まんまの裸足では生活できない。

仕方ない。

そこで登場、昔取った杵柄。

布草履。

あの素晴らしい履き心地は、足裏がちゃんと覚えていた。

これだこれ。

ヘタすれば、裸足よりも心地良い。

なにより靴を脱いだ解放感。

蒸れる靴下だって、もういらない。

ホントの裸足生活ではないものの、負けずに満足。

これぞ快適、布草履生活が始まった。



「時間かかったけど、作ってよかったな・・・・」



実にめんどくさかった。

草履を編み上げる作業には、それほど時間はかかっていない。

作るだけならば、こんなに苦労しなかっただろう。

ではなにか。

準備。

材料確保。

これがまあ大変だった。

材料から道具まで、何から何まで揃っていない。

準備万端、作るだけの、日本は恵まれていたんだなとしみじみ思う。

慣れた作業となめていた。

イチからのモノづくりって、こんなに大変。

思い知らされる事となった。



試しに履いた足元には、真っ白い布草履。

日中で明るいとはいえども、床に座っての作業は、経糸も横糸も白だから見づらかった。

編んでいる時は手の感覚だけでできるのだが、端の処理などは、やっぱりやりにくい。

民宿で作ったカラフルな草履が懐かしかった。

だがそのかいがあった。



「真っ白な鼻緒ってのも、なかなかカッコイイな」



満足げにつぶやいた。

その他に、厨房の土間兼、外用と予備。

合計3足。

1足は厨房の土間に置きに行く。

もう1足はベッドサイドの棚にでも、服と一緒に置いておこうか。

床に敷いた布などを片付けつつ決める。



「さて」



新しい草履をはいた男が向かったのは本棚。

立ったまま、1冊の本を取り出した。

既にお馴染みの野菜辞典だ。

パラパラとめくって、折り目を付けたページを軽くチェックする。



「これがアレとはなー・・・・・」



ちょっと信じられない。

だがおそらく、この書き方ならアレはこれだろう。



「ま、見るのが楽しみってことか」



本をなおし、踵を返す。

土間に近づき、律儀にそろえた土間兼外用の草履に履き替えた。

大きなザルとウサギの角を手に、裏口から外に出る。



「おっ・・・眩しーねーっ」



嬉しげにつぶやく。

草履づくりで時間をくったと思っていたが、まだ太陽は高かった。

夕食づくりまでの時間は、思ったより余裕がありそうだ。

そこで方向転換。


まずはツッパリ兄弟達がいる信号木に立ち寄った。

ヒップでホップな鳴き声を聴きつつ、青い実の微炭酸で喉を潤す。

兄弟達はもう、今日の水浴びを終えたのだろうか。

時間的にその可能性が高いだろう。

一緒に水遊びができなかったことを残念に思う。

前回は離れた所で、兄弟達を刺激しないよう、そぉっと泳ぐしかなかった。

だがちょっとずつちょっとずつ。

近づいて行きたい。

兄妹達と裸の付き合いができるように。

メタボな腹と金色ツッパリトサカを湖面に突き出して、プカリと浮く兄妹達の隣で浮いていたい。

男は野望を持っていた。



「じゃ、行きますかね」



兄妹達の姿に癒され、次に向かったのは畑だった。

お目当てを探して、ツノをぶんぶん。

ザルをふりふり。

オニューの布草履の感触を楽しみながら、ぶらぶらと歩く。

これで麦わら帽子でもかぶっていたら、小学生の田舎の夏休みの完成だ。



「やっぱ、虫がいないのは有難いよな」



どんな種でもあっという間に、芽が出て育つという不思議な土。

かつてのマイホーム、大草原と似ていた。

虫がいないのだ。

畑の守り神、ミミズすらいないのに栄養豊か。

理屈がおかしい。


だがそのおかげで、こんなにも無防備、裸足同然の草履で歩ける。

土が入るので、がっつり作業には向かないだろうが、ちょっと収獲する程度ならばイケる。

完全に休日モードな男、未だに上半身はマッパだった。

Tシャツぐらい着たらどうだ。

注意する人が、誰もいないという自由。

独り者をかわいそうと言うなかれ。

男は何年も自由を満喫していた。



「どこだー?」



畑は広い。

見渡す限り。

見渡せない範囲にも。

本来、こんな広さの畑を1人でつくれるはずがない。

管理だって無理だろう。

不思議な土。

いろんな種を植えた魔女、調子に乗ってつくっちゃったのだろうか。



「ま、それがありがたいけどな」



野菜辞典にのる野菜が網羅されていそうな、豊富な種類。

作るのも、食うのも楽しみ。

トンデモレベルの低い野菜を期待したい。

とは言っても料理人。

トンデモレベルの高さにも、どこかで期待している自分を否定できなかった。

どうしたって、面白そうなのだ。

トンデモトマトに泣かされた苦い記憶は、事前知識がなかっただけ。

ちゃんと本を読み、準備万端で試食に臨めば大丈夫。

そのはずだった。


だが家主というより、まだまだ客人レベルの男。

どこになにがあるかわからない。

時間があるのが有難かった。

特に焦る事もなく、ぶらぶらと歩いていく。



「見えたっ」



男の視界にコスモス畑が入ってきた。

色とりどり、風にふうわり揺れるコスモスの花。

茎もしなやか、そしてゆらゆら。

定番のピンク、濃い赤紫、うすい紫、白。

ちょっと珍しい所のオレンジ、紫にふちどられた白に、茶色よりの赤。

日本のコスモスと全く一緒だった。

優しげな花たちの揺れる様が男を和ませる。



しかし。



花に近づいてきた男の目線が鋭くなった。

上から下まで、じっくりと観察する。

プロの料理人の目線。

風情ある花を見る視線ではない。



どう見てもコスモス・・・・。

堂々とコスモス・・・・。

しっかりコスモス・・・・。



コスモス、コスモスと頭の中を単語がループ。

だがしかし。



「・・・・この花がイタリアンに欠かせないって言われてもなぁ」



これを食うのか。

信じられない。

イメージが違いすぎる。

戸惑いが隠せなかった。



「ま、やりますかね」



気持ちを切り替え、男はウサギの角を手に、花の根元にしゃがみ込んだ。

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