表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
141/169

魔女に謝らねばならない


「・・・・このくらいで足りるか」


結構な時間をかけて、布を裂き、大量の編み紐をつくった男。


四角いテーブルの上には、毛糸の玉のようにくるくるまとめた大玉が7つあった。

古いTシャツをつぶすなら、2枚から1足は作れる。

素材は違えど、目分量で十分だ。

これだけあれば、3足ぐらいは十分に作れるはずだった。



「いや、これ、大変だな・・・・」



まだ準備も終わってないのに。



こきんぼきんと、首を回すと音がなる。

かなり集中させられていたようだ。


編み紐と言いつつ、単に布を1.5センチほどに細く、長く長くなるよう切っただけ。

だがこれがホントに、まあ大変。

つまり、この布はしっかりしすぎていた。


例えば古いTシャツならば、端にハサミを入れるだけでほとんどが手で裂ける。

だがこの生地は刃を入れて裂けめをつくり、力をこめてもびくともしない。

頼もしいのが裏目に出るほどに、丈夫な生地だった。

仕方なく、ハンティングナイフを使う。

そして感じたハサミの偉大さ。

作業をなめていた自分を反省する。


これで編み紐はできた。

次は。



「ビニール紐なんてないからな」



布草履を編むときの、縦紐であり、足裏の大きさを決める紐。

土台を固めてくれる紐が必要だった。

ただし特にデザイン上、見えるものでもないし、履き心地にも影響しない。

そのため、民宿では安価なロープ状のビニール紐を使っていた。

ビニールロープは一家に一巻き。

あると便利。

荷造りから、布草履にまで大活躍。

山奥では箱買いだった。

伸びることもなく、ひっぱってもしっかりしているから、草履だって編みやすいのだ。

しかしここには、そんな気の利いたものはない。



「贅沢だが、コレ使うのが一番だろうな」



棚からとってきた大きな白い布は、まだまだ余っていた。

ありがたい。

夢のような不思議な布。

汚れない布。

どんな繊維でできているのだろうか。

もったいないが、これも白い布を応用することした。

先ほどの半分ほど、より細く布を裂く。

念のため、必要量よりかなり多い自分の身長に少し足らない程度の長さを確保。

3本をしっかりと固く、三つ編みにしていく。

それを3足分、6本用意した。



「あとは鼻緒か・・・・どうすっかなー」



鼻緒が一番難しい。

これが草履の履き心地を決める。

カタいのにしたら悲惨だ。

こすれて皮膚が切れてしまう。

ヘタしたら流血沙汰だ。

できるだけ足ざわりの良い、柔らかく弾力があるのが望ましい。



「草履は鼻緒で決まる・・・・だよなー」



民宿ではカラフルな布を、細長い筒状に縫っていた。

ハチマキのようなぺったんこの布の内部に綿を入れ、厚みと弾力を確保するのだ。

そのため、クッション性は最高。



「裁縫道具なんてねーしな・・・・」



さてどうしたものか。



鼻緒の選択を誤れば、夢の快適ハダシ生活の実現度合いが変わってしまう。

男は女子力も当然低かった。

煮物料理が上手くできても、裁縫道具なんて持ってやしない。


綿の代わりのアテはあった。

男は立ち上がって厨房に向かい、土間に降りる。



「・・・・よ・・ぃしょっと」



いくつか蓋を開け、中身を確かめた木箱。

けっこうな大きさの木箱を1つ抱えて戻った。

木箱を広いテーブルにドンと置く。

そのまま動きをとめ、考えた。



「・・・・やっぱアレしかないか」



ベッドのそばの棚に向かう。

畳まれた服の山の脇から、お目当てのそれを取り出した。

ハチマキよりは若干太く、長い布。

服と同じく、白い布が使われていた。

あるのは、長さが違うものが2本ずつ。

どちらも男の身長の半分以上の長さがあった。


この家に来た当初、あることに気付きもしなかったものだ。

もらった服の便利さにハマって、毎日のように袖を通しているうちに気がついた。

服同様、きちんと縫ってあるハチマキモドキ。



何に使うものだろうか?



ファッションに疎い男。

答えらしきものに辿りついたのは、その存在に気付いた翌日だった。

ベルトのように使うんじゃなかろうか。

例えるなら旅館で使う、浴衣の帯。

そう結論づけた。

上半身用の服は、尻が十分に隠れるほどの着丈の長さだ。

Tシャツというよりもチュニック。

この布ベルトを使えば、すーすーする服が体にピッタリ寄り添う。

使えば便利、なのだろう。



「使ってないしなー」



すーすーするのがいいのだ。

空気が入って涼しいのがいい。

カッコ悪かろうが、着方がおかしかろうが問題なかった。


当初はダサいと断じた白い服。

今では上下ともに愛用するが、布ベルトは使っていなかった。

この布ベルトなら、旨い具合に筒状だ。

幅も若干太いが、問題なく使えるだろう。

初めて着た時にはごわごわと感じた布の感触も、今はそれほど気にならない。

ちゃんと体に馴染んでいる。


この布ベルトを切って、筒の中身にモノを詰めれば上出来だ。

ちゃんとした鼻緒になるだろう。


ただ少しだけ。

ほんの少しだけ、罪悪感を感じる。

服用に仕立てられた布ベルト。

もらった服とはいえ、勝手に作り変える事を魔女に謝らねばならない。



「ラーシャさん、すんませんっ」



当人が目の前にいない以上、自己満足に過ぎない。

だが男は頭を言葉を続けた。



「ホントにすんませんっ・・・大事に使いますからっ・・・」



テーブルに戻った男の気持ちは平身低頭。



「切らせてもらいますっ」



慎重に慎重に。

布ベルトにハンティングナイフをあてた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ