表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
137/169

利き塩3本勝負!~ピンクの岩塩~



次の勝負は、薄いピンク。



男は木匙に盛られた、オレンジと紫の葉野菜の塩漬けをじっと見つめた。

特に変わったところはない。

さっきと同じ見た目。

色鮮やかな色。

その中にピンクは存在しない。

薄いピンク色だった岩塩は、素材と完全に混ざりあっているようだ。



「結構細かく削ったからな」



くすんだ白い岩塩と同じく、このピンクも細かく削った。

ろくに道具も見つからず、仕方なくハンティングナイフを使ったのだ。

結構な苦労。

その成果は出ているだろうか。

男は木匙をゆっくりと口へ運ぶ。



「・・・・・・」



眉間に皺が寄る。

目をつぶった。

慎重に舌の上を転がす。

何度も噛み締め、味を確かめた。



感じたのは甘さ。

白い岩塩も葉野菜本来の爽やかな甘さを感じたものだが、それが強められている。

嫌な甘さではなかった。

果物とまでは行かず、あくまで野菜のカテゴリーを出ない甘味。

塩自体が甘みを持つのだろうか。

甘みを強く感じる割には、しっかりと塩の味もする。

白い岩塩よりも、塩味の強い塩のようだ。


スイカに塩かけたら甘くなる。

その事実を思い出す。

スイカの端っこ、味の薄まる白っぽい部分にこの塩をかけたら甘くなるんじゃないか。

塩が甘く味付けしてくれるというのは、たぶん正解ではない。

素材の甘みを刺激して、甘味が濃く深くなる。

ピンクの岩塩という援軍を得て、甘味の主張が強まる。

そんな感じだ。

なかなかのインパクトがある。

岩塩に含まれる何らかの成分が、化学反応をおこしているのだろうか。



ちなみに地球の岩塩ならば、色の違いは含まれる鉱物の違いで決まるものだ。

微量に含まれた様々なミネラル。

鉄、マンガン、カリウム、マグネシウム。

ただしこれらは全て、不純物。

ミネラル豊富はかえって困る。

微量といえども、鉱物のパーセンテージが高い岩塩は体に毒となる。

食用にはできない。

塩化ナトリウムの純度が高い方がいい。

だから一概に岩塩と言っても、全てが食べられるわけではなかった。


とは言っても、日本では岩塩が生産されることがない。

そんな化石の層がないからだ。

日本で出回る岩塩は全て輸入モノ。

それでも日本は海水から塩をつくる伝統がある。

だから岩塩が手に入らない昔でも、日本は問題がなかったのだろう。

不純物が多く入るような雑な作り方をしても、見たらわかる。

なんかヘン、判断できる。

食べないという選択肢がちゃんとできる。


しかし世界で流通する塩の、半分以上は岩塩だ。

イタリアなんて塩が手に入らなかった時代、塩無しパンのレシピすらできた街がある。

あの不味いパンを食べるしかなかった人たち。

苦労がしのばれる。

不純物が多すぎる岩塩をそうとは知らずに食べ続け、体を蝕まれた人もいたんじゃなかろうか。


そう考えると文明のない中で、食べられる岩塩の見極めは難しい。

さらには、未知の金属が存在する見知らぬ星。

地球とは違う。

少なくとも、鉄板モドキに使われている金属には心当たりがなかった。

調理道具を極めた男。

金属素材にも詳しくなった。

鉄板モドキの金属は、この星ならではのモノだと考えている。


だからこの岩塩も、未知のミネラルが入っている可能性があった。

岩塩とは、気の遠くなるほどの歳月をかけて出来上がる。

いわば、食べられる海水の化石。

この星の歴史を知る物体。

それが毒になるほどの純度ならば怖い話だ。


しかしその点、男は魔女を信頼していた。

世界に2本しかないという、森の番人が枝を与えるほどの家族愛。

まだ生まれてもいない子供の分まで、木皿を揃え、木匙を揃え、ジョッキを揃え。

手紙の中でも、愛する夫を自慢する。


そんな魔女が夢見た生活のため、家族のために揃えたであろう、大量の岩塩。

危ないモノのはずがない。

食用には問題ない品質だとふんでいた。



「地球だったら酸化鉄の色なんだけどな・・・・」



あのピンク色は、どこから来た色なんだろう。

トンデモ野菜ほどのインパクトはなくとも、しっかりとこの星の生まれを感じさせる味。

日本でこんな個性に出会うことはなかった。

それが魔女がくれたピンクの岩塩。



「間違いなく、高く売れるな」



日本に帰れたらの話だけどな、と苦笑する。

旨い塩なら、とんでもない値段がつく。

100グラム、1000円、2000円はそれほど珍しくはない。

数万円の値がつくものだってある。

たったの100グラム。

男のこぶし1個分に足らないぐらいの量。



このピンクはいくらの値がつくだろうか。



いかに高級食材を扱うレストランと言えども、予算の制約がある。

男の働く店ではおそらく、この塩は使えない。

そんな値段がつきそうだ。



またエライものが手に入った。



ひとつ、ため息。

水を一口。

背筋を伸ばす。

気合を入れ直し、男は最後の皿にとりかかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ