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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
135/169

はかない命問題、解決




「っしゃ、こんなもんでいいか」



鉄板モドキをセットして、ウサキムチを炒めなおした男。

昨晩の絶妙の歯ざわりが失われるのは残念だったが、しっかりと火を通した。

食中毒は怖い。

胃腸に自信はあっても、基本に忠実に火を入れた。

ジョッキに氷を入れ、水をなみなみとそそぐ。

3種の一夜漬けの葉野菜と共に、四角いテーブルへと運んだ。

ここで気付く。



「おっ・・・?灯り花、ずっと電気ついてたんだな・・・」



太陽の位置は昼近いことを示している。

室内に差し込むまぶしい光が、ささやかな灯り花の存在を消していた。

白い光や黄色い光は、太陽光に完全に負けている。

残る紫や赤、青い光は室内の明るさとは一線を画していた。

よく見るとまだまだ明るく、夜と変わらず咲誇っているのがわかる。

食材にしか目がいってなかった男も、一息ついた途端、違和感に気付いた。



「そりゃイイ話だな」



魔女の家、初日。

家探しするものの、ローソクやランタンのような、灯りになるモノがなかったことを思い出す。

魔女なりにイロイロ家財道具を揃えていた事がわかるだけに、不思議だった。

灯り花で工夫していたのだろうか。

大草原では午前3時半を過ぎると、花火のように散ってしまう光。

消えてしまう灯り。

それがこんな真っ昼間から、しっかりと点灯している。

朗報だ。



これなら夢にまた一歩。



この見知らぬ世界でも、男の夢はブレなかった。

一流の料理人になること。

どこでいたって、料理人は料理人。

この腕一本で生きていく。



自分の店を持つ。



それがこの世界で、一流になる為の登竜門。

唯一の道。

そう考えていた。


日本にいたなら、勤め続けていたって一流は目指せる。

特に勤めているイタリアンレストランなら、ヘタに自分の店を出すよりも自由がきいた。

経験がつめた。

修行になった。

このまま出世して、「店の顔」になるのもいいかもしれない。

あの店ならばそう思えた。

TV取材の端にうつりこんだ自分を肯定できた。


もちろんこの世界でも、修行がつめるような一流店はあるだろう。

街に出れば、気に入った店も見つかるかもしれない。

しかし男にその気はなかった。



転職は嫌だしな。



男の所属は、日本の、あの高級レストラン。

大ボスはやり手の、美魔女なオーナー。

ただ1人。

そうしておきたかった。


もう戻れないとしても、帰る店がある。

連続の無断欠勤、既にクビになっているだろう。

それでも帰れたならば、またあの場所で。

雇いなおしてもらいたい。

常識にとらわれない大ボスなら、こんなとんでもない事情も理解してくれそうだ。

大笑いでお帰りと言ってくれるに違いない。



変人だし。

大雑把だし。

トシもいってるし。



あ?

ケンカ売ってるよね?

当の本人が聞いたら激怒しそうな失礼さだが、男は真面目に想っている。

そこにはオーナーへの絶対の信頼があった。

だからこの世界では、誰の下にもつきたくない。

どんなにいい店であっても、別の店に勤めるのは絶対に嫌だった。

誰にも雇われずに、客に料理を提供する。

料理人として生きていく唯一の方法が、自分の店を持つことだった。


そしてこの世界で開店するなら、高級店一択。

理由は単純、灯り花を飾りたかったから。

この見た事もない、不思議な花を自分の店に飾りたかった。

大草原でぽつんと1人、暗闇にいた事を思い出す。

5つの月の光、満天の星でも草原は闇に包まれていた。

その草原に無数の、やさしい光の珠が浮き上がったあの瞬間。

歩いてばかりで疲れ切った男が、灯り花を初めて見たあの感動。

自分の店に足を運んでくれるお客様がいるならば、ぜひともそれを感じて欲しかった。


灯り花を飾るなら。

料理だけではなく、味だけでもない。

メシ屋のメシが旨いのは基本で土台。

それ以外にも感動や楽しみがある。

灯り花を飾る店を創るなら、高級店を目指すしかない。

その計画に立ちはだかったのが、灯り花の点灯時間だったのだ。

開花が真夜中、午前3時半を過ぎると散ってしまう。

一晩で萎んでしまう、月下美人よりも短い花の命。

その短時間で、高級店のお高い経費が賄える売り上げを確保しなければならない。

厳しい。

難問だった。



それが解決。

無問題。

助かる。



この世界にきて、素晴らしい肉と出会い。

トンデモ野菜リベンジも果たした。

灯り花のはかない命問題も解決。

順調に夢に近づいている。



「落ち着いたら、物件を探すかな」



まだ人にも会っておらず、街にもたどり着いていない無一文の男。

フライング過ぎる一言を嬉し気につぶやいた。

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