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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
128/169

フェイクであっても




暗い室内でひときわ輝く灯り花。



朱色のような、オレンジ寄りの優しい赤い光を放っている。

10センチにも満たない直径の花が、立派な大輪に見えた。

その堂々たる存在感。

頼もしい。

久しぶりに見た気がした。



しばらくして、男は灯り花から視線を目の前の棚にうつした。



「・・・・置いたら消えるとかねーよな」



おそるおそる、灯り花を棚に置いてみる。

息をつめ、壊れ物を扱うように。

そっと手を放した。



「・・・・よし」



灯り花は相変わらず美しく輝いていた。

バラのようでバラではなく、カーネーションでもない形。

触ろうとしたところで、霞を掴むような感触の不思議な花びら。

やわらかい光の層が幾重にも重なった花。

美しく、咲誇っていた。



「使える・・・・かも」



男は上半身が裸のまま、次々と灯り花を手に取り、エアーなスィッチを入れていく。

大草原から持ってきたのは10本。

5色の花を2本ずつ。

茎が短いのと茎が長いバージョンだ。



赤に紫、青、白、黄色。



すぐに棚の上は、色とりどりの光であふれることになった。

輝く花を両手に持ち、男は急いで厨房に向かう。

作業台に少しづつ分けて置いてみた。



「・・・・いける、いけるぞ」



色とりどりの光を得て、一気に華やかになった作業台。

手元だけなら、十分と言えるほどの明るさが確保できていた。

まあ欲を言うなら、白熱球のような白い花がもっと欲しい所だが、贅沢は言えない。

厨房で調理続行できそうだ。

それが何より素晴らしい。


男は小走りに厨房を出て、棚に戻った。

白シャツを頭からかぶりつつ、厨房上着を手に厨房に戻る。

慌ただしく戻りながらも上着を羽織った。

厨房に入り、きちんと厨房服のボタンも留め、念入りに手を洗う。



「再開するか!」



水を得た魚とは今の男のことだろう。

灯り問題が解決された今、男の欲しいモノは全て揃っていた。

安全なちゃんと屋根のある家、厨房、調理器具、手元を照らす灯り。

そして旨くできるであろう食材。

腕がなるというものだ。



肉の仕込みに入る前に、男はザルに盛られた葉物野菜に手をつけることにした。

塩をふっていたので、随分しんなりしている。

ザルを3つ全て、窓際の大きなたらいの置いてあるカウンターに移動。

ついでにデカくていびつな寸胴鍋も1つ隣に置いておく。

使わないたらいを3つ重ねておくと、鍋やザルを置く十分なスペースが確保できた。

移動できる流し台は便利だと、つくづく感心する。



そうして野菜の水分を両手で絞り始めた。



「おー・・・けっこう力使うな」



たらいの上、両手でぎゅうっと絞る。

力の限り水分を抜き、シワシワにして隣の寸胴に入れていく。

ざる3つ分、日中に酷使された二の腕には結構な負担だが気にならなかった。



これで筋肉痛になるなら本望だ。

来るなら来い!



城を得た男は無敵だった。

あれほど恐れた筋肉痛も、もう怖くはない。


ほどなくしてザルの上の葉野菜が全て消えた。

男はたらいに溜まった塩水を捨て、軽くゆすいでカラにする。

たらいは木製なのだ。

使ったらすぐに洗って乾かすのが鉄則だった。


男は寸胴鍋を改めて作業台へ移動させる。

中の葉野菜は、カサを5分の1から6分の1ほどに減らしていた。

ずいぶんとみずみずしい野菜だったようだ。

ちょっと惜しい気もする。

少しつまんで、口に入れた。



「・・・・うん、旨いな」



残る塩気で甘みが増されたような気がする。

しつこい甘みではなく、あくまで野菜本来のほのかな甘み。

それが塩によって、良い意味で強調されていた。



さすが魔女イチ押し。



男がチェックした分厚い野菜の本は、手書きだけあって個人的な感想まで書かれてあった。

このオレンジと紫が混ざった奇抜な色の葉っぱは、ラーシャさんの一番好きな葉物野菜だそうだ。



『 苦みがなくてね、みずみずしくて、柔らかい。

  しゃくしゃく噛むとほんのり甘いの。

  炒めたって美味しいわ。

  葉野菜の中では一番好き。

  買ったら高いけど、この畑なら食べ放題なの。

  ぜひぜひたくさん食べて欲しいわ。 』



これを選んでよかった。



まな板に並べられたトマトを寸胴鍋に移し入れながら、しみじみ思う。

薄い赤の激辛トマトは全て投入。

酸っぱい濃い赤、寿司酢トマトは半分ほど。

少しだけ用意した、甘い極上の黒は全量投入。

そうして寸胴に右腕を突っ込み、よくよくかきまぜる。



「ボールがあったらラクなんだけどな・・・・・」



ぼやきつつもしっかりと混ぜ、ちょっと多めのひとつまみ以上。

口に入れた。



「・・・・・もうちょっと酸味があっても良いな」



半分残した寿司酢トマトを全て投入。

さらにかきまぜた。

そしてまた味をチェック。



「・・・・・・ん、まあまあだな」



まあまあと言いつつ、もう一口食べる。

さらに一口。


ガツンとした辛さにちょっとした酸味を効かせ、ほんの少し旨味として感じる甘み。

それらが染み込んだ葉物野菜の歯ごたえも楽しい。

初挑戦でも、良いバランスが取れたと自己満足。

「まあまあ」は謙遜、ホントのホントは大絶賛。



「旨いよな」



久々の味。

フェイクであっても懐かしかった。

もはや日本に馴染みすぎた食べもの。

味噌汁よりも納豆よりもコメよりも。

食べたかったモノ。

その大事な基本材料。



「なんちゃってキムチの出来上がりだな」


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