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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家 食材お試し編
125/169

トンデモトマト、味見終了!


毒を食らわば皿まで。



たかがトマト。

されどトマト。



なんとか気持ちを作りあげ、全種類を試す覚悟をした男。

ただ種類が多く食べきれないので、ミニサイズ、ミドルサイズは次の機会としておいた。

普通サイズのトマトに絞ると、残りはそれほど多くはない。

畑で収穫し、家の前の広場に戻った。


慎重にナイフを入れ、じっくりと断面を眺める。

匂いを嗅ぎ、ほんの少しだけ口に入れていく。

何かの儀式のように、試食を続けた。

罰ゲームならぬ、この戦々恐々試食タイムも、あと少しの頑張りだ。



黄色いトマトはみずみずしいというより、水っぽかった。

味が薄いが甘みがあり、後味には少しの苦みがある。

例えるならニンジンのグラッセを薄くした味。

不味い、不味くない、不味い、不味くない・・・・どっちだろうか。

判断に迷う。

使いどころが難しい味かもしれないと思った。

ちなみに種はなかった。


黒いトマトは大当たり。

甘くて旨味たっぷり、高級トマト。

文句なく旨い。

よかった。

まともなトマトがあったと一安心。


オレンジのトマトには、肩透かしをくらった。

普通に美味しい。

平均点。

日本のスーパーに並ぶような、特別旨すぎることもなく、不味くもない味。

黒いトマトが高級なブランド品なら、このオレンジ色は大衆の味だろう。

普通に種もある。

日常的に食してきた味にほっとした。

これなら、料理人の腕次第でなんとでもなる。

初めにこれを食べれば、こんなにビビることもなかったのにとちょっと悔しい。


そして最後は蛍光ドピンク。



こんな色が自然にできるのか。

アメリカのカラフル過ぎるケーキみたいだ。



パティシエの妹が面白がって、真似して作っていた。

そして大量の売れ残りを、自腹で買って帰ってきた妹に呆れた事を思い出す。

妹は優れたパティシエだが、時々、おかしな方向に暴走していた。

家族でおかしな色のケーキをたいらげつつ、妹に説教したものだ。


和食の基本「青黄赤白黒」は知ってるだろ。

日本には、食に関わる色の歴史ってものがあるんだ。

いくらケーキっつっても、限度ってものがあるだろ。

まともな日本人ならそんな体に悪そうな色、まず手を出さない。

どんなに旨かろうが、そりゃ売れ残って当然だろ?


普段は会話の主導権を握る妹も、この時ばかりはおとなしく兄の話を聞いていた。

ちなみに父は黙ってケーキを3つ完食し、家族全員で食べたケーキ代金を妹に払ってやっていた。



そう、いくら「色鮮やかな食材、目にも美しい色とりどりの料理」と言っても限度があるのだ。

最後に残った、この蛍光色。

そしてドがつくほどのピンク色。

これはヤバい。

キケンキケン。

料理人の本能が囁く。



恐る恐るナイフを入れ、断面をみるとこれも種がないタイプ。

蛍光色ではなくなったが、ピンクはピンク。

透き通ってはいない。

濁っているというわけでもない。

絵具の赤と白を混ぜたようなピンク色。

他に例えようがない。

果肉にはみずみずしさは全くなかった。

アボカドのような、こってりねっとりクリーム感。

匂いは特にない。



「・・・・・これ食いモンだよな」



自分に言い聞かせる。

中の果肉を小指ですくいあげた。

思った通り、ねっとりとしたクリーム状。

トマトとはかけ離れたそのピンク色をじっと見つめ。

思い切って口にふくむ。



「・・・・んー?」



なんだこれ。



もうひとすくい、舐めてみる。



「・・・・これなー、まさかなー」



ちょっと嬉しい、懐かしの味。

もうひとすくい。

ここで会えるとは思ってなかった。

もちょっとお代わり。

畑のトンデモ野菜と言ったって、良い具合のトンデモだってあるじゃーないか。

さらにお代わり。


段々と指を使うのも面倒になり、直接、果肉を口に運んだ。

スプーンが欲しい。

結局、1個丸々食べ終わってしまった。


ある意味アタリの味。

まさかこうくるとは思わなかった。

いや、色からしてわかりやすいのだろうか?



「久しぶりだな・・・・いちごみるく」



そう。

見れば見るほど、いちごみるく。

そんな見た目を裏切らない味。


イチゴのフレッシュさなどは全く感じない。

あくまで「いちごみるく」。

紙パックで売っている、甘いだけとも思えるほどの庶民の味だ。

たまに無性に飲みたくなる味。

なぜか、どうしても欲しくなる時がある。


ただ、いい年したおっさんがレジに持っていくのは、かなり恥ずかしかった。

だから買う時には、あくまで頼まれましたと買い出し係を装う。

そのために、他の飲み物も毎回、大量に買うしかなかった。

タピオカ屋さんには堂々と並んで買えるのに、コンビニのレジでは恥ずかしいという謎。

おっさんがいちごみるくを買うには、苦労があるのだ。


ただ、そうまでして買ったところで、最後まで美味しく飲めたことはない。

一口飲むと、あまりの甘さにその後を持て余してしまう。

なのに数か月後には、なぜか無性に飲みたくなるという不思議な飲み物。

それがいちごみるく。


そのいちごみるくをねっとりクリーム状に固めたのが、蛍光ドピンクのトマトだった。

この不思議、妹に食べさせてやりたい。


この蛍光ドピンクが最後で、全てのトマトの味をみれた。

阿鼻叫喚な始まりで、戦々恐々と続けられた試食タイム。

最後は優しく、懐かしい甘さで終了した。


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