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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
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この1本を守りたい


泡だらけになった頭を、シャワーで洗い流したばかりの男。

もちろん泡の正体は第二のお宝。

魔女のおススメ、髪にもいいし、手にもいいし、お皿洗いにもいいという木の実である。

当然環境にもいいだろう。


だが髪にもいいというのは、「使える」だけなのか「使用感が素晴らしい」なのか。

人によって、合う合わないはないのだろうか。

肝心なところがわからなかった。


そもそも家をくれたと言っても、魔女と会ったことはない。

見知らぬ人に勧められた得体の知れないモノを使うのは、若干の抵抗があった。

しかし、パッチテストをするほどの知識もない。

肌荒れに対する警戒感もありはしない。

あったのはハゲに対する警戒感。



「髪、抜けてねーよな・・・・・・」



地面にしゃがみ込み、髪が落ちていないか、目を皿のようにしてチェックする。



大丈夫そうだ。



ひとまず安心。

スポーツタオルをとり上げ、首にひっかけ立ち上がった。

いつもならそのままガシガシとタオルで拭くところだが、今回ばかりは慎重だった。

坊主はいいけど、ハゲるのは嫌。

この1本を守りたい。

謎のコダワリを持った男は、濡れた髪をそーっとそーっと撫でてみた。



「・・・・・・」



ひと房つまんで、これまたそーっと引っ張った。



「・・・・・・」



両手で撫で撫で。

アチコチ引っ張り。

手櫛で髪をといてみる。

そしておもむろに髪を触った両手を下ろして、目の前にもってきた。

目視確認。



「・・・・・・よし、抜けてない」



髪の安全は守られた。

んふーっと、鼻から大きく息を吐きだす。

鼻の穴のふくらみっぷりが、男の満足感を表していた。

改めて髪や体を拭き、名残惜しいが裸族の身分を捨て、服を身につけていく。


若干、髪がキシキシするような気がしないでもない。

しかしそんなことはどうでもよかった。

これで石鹸を使い切っても問題ない。

たぶん洗濯にも使えるだろう。

何にだって使えるらしいのだ。

安心安全、万能木の実。

すばらしい。

料理人として衛生環境を保つ品が確保できるのは嬉しかった。



「・・・・・なんて言う木の実なんだ?」



棚にあった魔女リストには当然書いてあったが、覚えていなかった。

瓶や木箱に入った物品をチェックした流れ作業を思い出す。

リストの名前を魔女本で検索する膨大な作業。

文字は、記号と化していたかもしれない。

感情すらも失う無機質な作業だった。



覚えていないのも仕方ねー・・・・。

後で見直すか。



木の実の入った木箱の蓋を手に、家の裏口近くに出してあった調理器具の所に移動する。



「スポンジねーし、雑巾使うか」



洗剤を泡立てるスポンジがない。

エアーな動作で水を木の実にかけ、膨らんだ実をぷにっとつぶす。

あふれ出た汁をスポンジ代わりの雑巾にかけてこすると、おもしろいほど泡が立った。

大きな鉄板から洗い始める。



「おー・・・・気持ちいいな」



白い泡はたちまちホコリの色をうつして、黒くなった。

何度も水で流し、泡を補充する。

すばらしく気持ちがよかった。

洗剤を節約する必要もない。

水を節約する必要もない。

料理人にあるまじき、非常に贅沢な洗い物。

ほんの少し、イケナイ事をしている感覚がとってもとっても気持ちイイ。

男は小市民だった。



「ヘチマとか、あんのかなー・・・あっても固いよなー・・・・」



ヘチマスポンジ作りは、山奥の民宿バイトで何度もやったことがある。

丸々と育ちきったヘチマを大量に収獲し、切って煮て、冷やして、果肉や種をとって天日干し。

残って乾いた繊維が固いスポンジ。

1日あれば十分できる。

そして売れる。

婆さんと夏の終わりのクソ暑い中、冷たい麦茶を飲みつつ、冷やしたスイカを食べつつ、のんびりだらりとスポンジづくり。

意外と楽しい恒例行事だった。


ただしヘチマスポンジは固かった。

スポンジというより、タワシと呼ばれるのも理解できる。

作り方にもよるのだろうが、いつも出来上がるのはゴワゴワしたモノだった。



「こびりつきを洗うなら固い方がいいけどなー・・・・・」



欲を言えば、固いのとやわらかいのを2種類欲しい。

トンデモ野菜に期待したい所だった。

畑の野菜は、見た目は普通でも、一味も二味も違う。

ならば一味違ったヘチマスポンジになるようなトンデモ野菜はないものか。

手早く洗いあげつつ、まだ見ぬお宝を想像する。



「仕込みのハーブも欲しいしなー、いっちょ探してみるか」



どうせ乾くまでの時間がいるのだ。

洗いあげた調理器具は、拭き上げることなく、天日消毒することに決めていた。

拭き上げに使える衛生的な布巾もない。

使われている金属は鉄でもなく、錆びることもなさそうだ。

これだけの陽射しがあれば、すぐに水分もとぶだろう。



「乾くのを待つだけってのもな、時間の無駄だしな」



ゴールが見えてきた男は、イロイロと言い訳を考えつつ腰をあげる。

まだ掃除が終わっていないのはちゃんと理解している。

それでも残すのは、土間の右手の壁側のみ。



いけるいける。

楽勝楽勝。



まんまと目の前の誘惑に負けた男は、いそいそと魔女本を取りに家に入って行った。


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