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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
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兄弟達のキラキラ姿



疲れ果てた男は青空の下で目を開けた。

いつの間にか、眠ってしまっていた事に気付く。



「やべっ・・・・」



飛び起きる。

寝てるヒマなんてないのだ。

いつもの癖で腕時計を見ようとして、左腕を目の前にふりあげた。



「そっか・・・・壊れてたよな」



街に行けば直してもらえるだろうか。

時計がないと、どうも落ち着かなかった。

仕方なく男は空を見上げ、太陽の位置を確認する。

まだ中天に近い。

地面を見て、己の影が小さいのも確認した。



「よかった、助かった」



それほど時間は経っていなかったようだ。

しかし短時間と言えども、睡眠はすばらしい。

きちんと回復してくれた。

「手書き本検索」で、大量の文字を追った目と頭もすっきりしている。



「大分楽になったな」



軽い体に自然と口数が増える。



「っしゃ、やるか」



家の中に入ろうとして、空腹に気付き足を止める。

そういえばトマトモドキを取りに行こうとして、力尽きたのだと思い出した。



「・・・・・・今食うのはもったいないな」



温存しよう。

今食うと、感動がなくなる。

次は、ちゃんと料理に仕上げて食いたい。



トマトを食べることをやめ、信号木に向けて歩き出す。

ツッパリ兄弟達に癒されたかった。



何を食べるかは大事。

誰と食べるかも大事。



母親が最期の日々に身をもって教えてくれた事だ。


仕事を終え、急いで病室にやってくる父親と皆で一家団欒、晩御飯。

拙いながらも、中学生であった男と小学生の妹が頑張る手作り弁当。

医師の判断だった。

病人の食事時間はどうしても遅くなる。

栄養バランスだって格段に悪くなる。

それでも、1日1回、少しでも食べられる事を優先した。

食べる事は生きる事。

笑顔で食べた分だけ、ほんの少しであっても長く生きられるからね。

だから2人とも頑張れるかな?

別室で家族に説明した医師は、兄弟が泣き止むのを待って、優しく問いかけてくれた。


『 美味しいね、すごいわ、2人だけで作ったのね、すごいわ美味しい 』


満面の笑みで食べてもらえて嬉しかった。

黄身がつぶれ、少し焦げ、固焼きになって味付けもなく、不味いはずの目玉焼き。

なぜか、確かに美味しかった。

ハッピーバースデーと不格好に刻んだスイカは、人生で一番甘かった。



「やっぱ誰かと一緒にメシを食いたいよな」



人じゃないけど。



心の中でツッコミつつ、足どりも軽く信号木に向かう。


静かだった。

気持ちいい。

短いお散歩を満喫している男だったが、違和感を感じた。

静かすぎる。

耳を澄ませば、どこかで鳥の声が聞こえるような気もする。

だがもっとうるさくなってくるはずなのに。



「・・・・・お出かけか?」



信号木に着いてみると、鳥たちの姿はなかった。

どうりで静かだったと納得する。



がっかりだ。

一緒に飯を食いたかったのに。



そういえば、初めてここで信号木を見つけた時も兄弟たちはいなかった。

とりあえず信号実で腹を満たしつつ、どこかに飛んでいないかと空を見上げる。

遠くでかすかに、兄妹達の声がするように思ったからだ。



あんなメタボな腹でも飛べたんだな。



流石ツッパリ兄弟。

飛んでる姿を見れてはいないが、飛べているだろうことに感心する。

あの魅力的な短すぎる羽は、お飾りではなかったのか。

ぜひとも兄弟達の雄姿を拝見したい。


金髪ツッパリ。

三角ツリ目グラサン。

メタボな腹。

そして超がつくほどに短い羽。


そんな男の過去イチでカワイイ兄弟達が、バタバタと羽ばたく姿が見たい。


絶対、惚れてしまうだろう。

食べ終わるまで見上げていたが、鳥たちを見つける事はできなかった。



「どっかで声がすると思うんだけどなー・・・・・」



幻聴か。

オレ、そんなに寂しいのか。



若干の危機感を感じつつも、まっすぐ裏口へ戻る気はしなかった。

やっぱり会いたい。

荒んだ心を、あのカワイイ姿で癒されたい。

いったん湖の方を回って、鳥たちを探しつつ、正面玄関から家に戻る事にした。

それぐらいなら時間もかからないだろう。


広い畑を横切り、湖に向かう。

近づくにつれ、水音と共に鳥たちの声が少ないながらしっかりと聞こえてきた。



「水浴びしてたのか」



水から飛び立てないのか、遊んでいるのか。

湖面でパシャパシャと音だけを立てている者。

もぐっては浮き上がってを繰り返す者。

鴨のようにすぃーっと泳いでいる者。

メタボな腹を湖面に突き出し、仰向けに浮いているだけの者。



「楽しそうだな」



どうなっているのか、濡れていても金髪リーゼントはガッチガチ。

ちゃんとトサカっている。

いつだってツッパリ三角グラサン。

兄弟達の一糸まとわぬ水浴び姿。

湖面はキラキラ、兄弟達もキラキラ姿。


期待した雄姿とは違ったが、なかなか良いモノを見れた。

見ていて飽きなかった。

一緒に湖に入りたくなり、ムズムズする。

だが時間がなかった。

早く掃除に戻らないと思いつつも、足はそこから動かない。

せめてもうちょっとだけ見ていたかった。



「おっ!!そーかっ」



良い事を思いついた。



「待っててくれよっ」



鳥たちに声をかける。

小走りで家に戻り、作業台の上に置かれた木箱の中身を両手いっぱいに木箱からすくいあげた。

黒っぽい小石のような、ドングリぐらいの大きさの木の実。

これぞ第二のお宝。

お盆代わりに外した蓋にざらっと中身を入れたものを持ち、急いで物干し場に向かう。

干してあったスポーツタオルを首にひっかけ、兄弟達の所にむかった。



「最高のお宝デビューだなっ」



さっきはせっかく見つけたのに、疲れすぎて喜べもしなかった。

もったいない。

仕切りなおそう。

存分に感動を味わおう。



期待を胸に、男は第二のお宝を入れた木の蓋を湖のほとり、地面に置いた。


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