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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
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無感動に第二のお宝発見



「すげーっ・・・・うぉーっ・・・」



塩の発見に、定番の雄叫びで喜びを爆発させた男。



しばらく後、まだまだ興奮冷めやらぬままでも、目の前に現実に気付いた。

つまり、とっちらかった作業台。

ポイポイ投げられたような蓋や、横倒しになった瓶、蓋のない木箱が散乱している。

当然全て、ホコリまみれ。

土間に落ち、転がっているものすらあった。

こっちはホコリに加え、土にもまみれている。

泥棒にでも家探しされたのかという状態だ。



「うぉ?・・・・・・うわぁ」



定番の雄叫びが力をなくし、控えめな「うわぁ」に変わる。



「・・・・・」



じわじわとやらかした事を自覚した。



「調子に乗りすぎた・・・・片付けっか」



あまりの散らかりっぷりに、どこから手をつけていいのかわからない。

これを片付けるのは時間がかかりそうだ。



「・・・・・・まずはお宝を避難だな」



岩塩の入っていた木箱と対となる蓋を丁寧に拭き上げ、棚に戻した。



「さてどっから手をつけるか・・・・」



腕を組み、少し考える。


建物に劣化防止の魔法をかけてくれていた魔女だ。

目立つ所に手紙を置き、指輪を添え。

新品の服はきちんと畳んでおいてあった。

土間の棚だって、しっかりと壁に打ち付けられた丁寧な造り。

目の前には、何に使えるかわからないが、イロイロと詰められた箱や瓶。

品物一覧を紙にしたためてくれていた。

鍋だってまな板だって、男が大満足できた品々。

これらの経験から、魔女はとても丁寧に財産を引き継いでくれていると判断していた。

となると。



第二のお宝があるんじゃないか。



男がこれらの品を知らないだけで、お台所には不可欠のすごいスパイスやハーブじゃないだろうか。

紙を手に取った。

やはりよくわからない単語が並ぶ。



男は紙を手にしたまま、土間から床に上がり、対角線上の壁沿いの大きな本棚に近づいた。

玄関入って右手側、多くの本が収められている方の本棚だ。

ホコリを払いつつ、お目当ての本を探す。

驚いたのが、全て手書きだったことだ。

本の体裁こそしているものの、明らかに印刷されたものではない。

特注なのか、自分で書いたのか。

よく見ると製本には紐が活用され、手作り感満載だった。

皆、年季の入っている。


時間をかけて、それらしきモノを3冊発見した。

薬草を主として、植物がまとめられている辞典のような本。

カラーではないが、丁寧なイラストが描かれていた。

ハーブやスパイスと言った記述がないが、表現が違うだけだろう。

何より、見た事のある草の記述が多かった。

この世界に来た当初、森にたどりつくまで大草原でひたすら歩く他は、草の観察しかすることがなかったのだ。

嫌と言うほど草を観察した。

それが今、生きていた。


ちなみに野菜や魔法について書かれているモノもあった。

その誘惑には、ぐっと我慢。

また落ち着いたら読もうと、すぐに本棚に戻した。


本を手に、土間に戻る。

座りたいが、立ったまま作業を進めることにした。

紙に書かれた単語の品のページだけをすみやかに探し当て、瓶やら木箱やらの中身を把握するのが目的だ。

うっかりじっくり、読み進めてはいけない。



本はあくまで検索用。

ネットの代わり。



男は自分を厳しく戒めた。

ここで頑張らなければ、今日中に料理するのが難しくなる。

お掃除あるあるの罠にハマってはいけない。

時間がかかりそうな作業量を想像し、第二のお宝探しのワクワクはなくなっていた。


紙に書かれた品の記述があるか、1つ1つ、本で探した。

ページが見つかると、そのページだけをさっと読む。

読んだら、次は目の前の木箱や瓶からそれらしきものが入ったモノを探した。

探し当てたモノのホコリを拭き上げ、散らかった中から対になる蓋を探す。

蓋も拭き上げ、一緒に棚に戻す。


あらゆる誘惑に抗い、ひたすらそれだけを繰り返した。


その結果、作業台に残ったのは1つの木箱。

今、一番欲しかったモノ。

第二のお宝を見つけていた。


このお宝がわかったのは、台の上を片付けていく作業の中盤。

しかし感動できるほどの余裕はなかった。



「あー・・・あった・・・助かったー・・・」


無感動に声が出た。

疲れが男から感情を奪っていた。

限度も過ぎれば、鈍くなる。


欲しかったモノを見つけた際は、雄たけびをあげるどころか、大きな声すら出なかった。

既に朦朧とし始めていた。

頭にあるのは、目の前の作業台を片付けることだけ。

次の単語。

どの本のどのページか。

どこにある、どの品のことなのか。

瓶か木箱か。

探し物が見つかった感動もなく、次の探し物の作業にうつっていた。

見知らぬモノを扱う、膨大な作業。

まだまだ先が見えなかった。



その後とうとう、作業台には大きな木箱が1つだけとなった。

奇しくも塩を探した際、最後に念のためと確認した箱。

ドングリぐらいの小石のような、おそらく木の実であったものがいっぱいに入っている箱だった


男は最後に残した木箱と蓋をもう一度拭き上げる。



「やっと・・・・終わった・・・・」



箱をそのままに、裏口からよろよろと外に出た。



甘いトマトモドキが食べたい。



しかし、すぐそこのはずの畑が遠かった。

疲れで目がかすむ。



「ちょっと・・・・休憩」



青空の下、男は倒れるように大の字に寝転がった。


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