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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
112/169

お宝発見!!



さんざん水をかけたにも拘らず、全く濡れていなかったタオル。

壁にぴたりと密着させたタオル。



「・・・・・・・」



男は言葉もなく、ただただ見つめた。

固まったかのように動かない。



「・・・・・・」



やがて男は息をゆっくりと、長く吐き出した。

大きなため息だ。

タオルを壁に押さえつけていた手を離し、膝を離す。

窮屈な体勢のままだったので、若干の凝りを感じた。

しゃがんでいた体勢から、そのまま地面に座り込んだ。


そこで壁に密着していなかった部分のタオルは、びっしょりと濡れているのに気づく。

全く濡れていないのは、壁にぴたりと沿わせた部分のタオルだけ。

ぴったりと押さえつけた部分だけを見ていたから、他の部分が濡れているのには気付かなかったようだ。

唸るように声が出る。



「魔女・・・・ラーシャさん、すげーな」



これも魔法なのだろうか。

大工の知識を少しなりとも持っている男には、その凄さがわかる。

ドン引きするレベルだった。

日本でこんな技術の特許でも取れば、億万長者だ。

軍事に利用したい国も多いだろう。

単なる億万長者で終わればいいが、どこかの軍に目をつけられて危ない目にあうかもしれない。

それぐらい異常な技術。

改めてとんでもない所に来たもんだと実感した。


文明が魔女の魔法に負けている。

科学よりも化学よりもすごい魔法。

はたしてこの世界の魔法がすごいのか。

それともラーシャさんが特別すごい魔女なのか。


正解はわからないと早々に考えるのは放棄した。。

深くは考えない。

いつものパターンだ。

男は立ち上がって、おもむろにエアーなシャワーで水を出した。

自由自在に水をかけられる、散水ホースバージョンだ。


家の周りを歩きつつ、四方の壁全体に水を盛大にかけていく。

ぐるっと一周してきたところで水をとめた。

壁を見ながら、ぐるっともう一周歩く。


やっぱり壁はどこも全く濡れていなかった。

地面にはしっかり残っていた水の形跡すらない。



「いやぁ・・・・ホントにすげーな」



今度はすっきりした声が出た。

ちょっと歩いたことがよかったのか。

気持ちが切り替わったようだ。

現実に戻ってきた感がある。



そうなれば。



「おそーじしないと」



忙しい忙しい。

わざとらしく呟きつつ、家の中に戻った。

さっき手放した雑巾はどこへ置いたのだったか。

探すまでもなく、土間の中央部分を占める作業台の上で見つける。



ついでだ。

次はここをやるか。



そのまま作業台の天板を拭き上げ始めた。

ぱっと見はアイランドキッチンに見える。

だが、シンクもなくコンロもない、単なる作業台だ。

2メートル50センチはないだろうが、1辺が2メートル以上はあるような正方形に近い形。



これは有難い。



まな板次第ではあるが、獣や魚をさばくにも使えそうな十分な大きさ。

ピザ生地だって、蕎麦打ちだっていけそうだ。

何を仕込むのにも十分なスペース。

広々として非常に使いやすそうだった。

ちょっとした飲食店であっても、これだけ立派な作業用スペースはなかなか確保できない。

プロ仕様に耐える大きさ。

男は大満足していた。


上機嫌で雑巾を動かす。

ホコリ対策として、雑巾を洗いつつ、天板を3回拭き上げた。



「きれいになったな」



作業台は扉のない棚をいくつか組み合わせて、天板を支えるつくりになっているようだ。

どこかに金属も使われているのだろう。

結構な重量感がある。

ちょっと体重をかけたり、力を入れたぐらいでは、びくともしない。



良いぞ良いぞー。



パンを作れるかどうかはわからないが、結構な力で台に生地を叩きつけるレシピもあるのだ。

華奢な作業台など、危なっかしくて作業できない。

これは合格。

十分だろう。

鼻歌を歌ってしまいそうだった。



いや、こういうときはだ。

オーソレミーオを歌うべきか。



イメージは両手を拡げて歌い上げるイタリア男性。

そんなふうに朗らかに歌い上げたい気分だった。

だが残念。

男は歌を知らなかった。


しゃがみ込んで天板の下の棚をチェックする。

あまり数はないが、大きな水瓶のようなものやサイズ違いのたらい、板などが収納してあった。

ラーシャさんが揃えた調理器具だろうか。

これらをどけないと、棚の拭き上げはできない。



いったん全部出すしかないだろう。



しゃがみながらも、作業台の周りをじりじり動いて、器用に見て回る男の目が歓喜に輝いた。

思わずガッツポーズする。



これは待望の。

夢にまでみたあの形。



「ぃよっしゃーっ!!お宝発見!!」



鍋だった。

男にとっては、何よりの宝モノ。

うっとりと鍋を見つめる。



全ての脂を、旨味を逃がさないであろう、抜け目のなさ。

多くの食材を全て受け止める懐の深さ。

食材同士を仲良く交流させるリーダーシップ。

何て包容力のある形。

最高すぎるだろう!!

惚れるわ!!



料理バカの妄想、ここに極めり。

テンションMAX。

ゲージがあるなら振り切れているだろう。

わかりやすく有頂天になっていた。



「よっしゃ、全部出そっ」



男は棚の中のモノを全て天板の上に出すべく、ほおずりする勢いでまずは鍋をつかんだ。


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