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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
110/169

お台所拝見 ~左側~



お天道様の下、朝っぱらからマッパで湖を泳いだ男。

大自然の醍醐味。

これぞ。



「男のロマンだよな」



男のロマン?

ホントか?

変態のロマンじゃないのか?


指摘する者もいなかった誰得な光景。

だがそもそも、得する者も損する者もここにはいない。

男は自由だった。

言い換えれば変態が野放し。

キケン、近づくな。

〇〇出没。

立看板が必要ではなかろうか。


自らの危うさに気付かぬ男は、ご機嫌だった。

鼻歌を歌いつつ、ぶらぶらと歩く。

鳥たちに挨拶をするのだ。

広い畑の一角、信号木までは意外と距離があった。



「ヨー」「キョー」「ヨー」



近づくほどに聞こえてくる、兄弟達の声。

もう起きているようだ。

やっぱりヨーキョウダイ、ヨーキョウダイヨーと聞こえる気がする。



「よー、きょーだい」



男の挨拶に刺激を受けたのか、鳥たちの鳴き声はいっそう賑やかになった。

ヤンキーモードな金髪は、今日も元気にトサカってる。

ガッチガチのリーゼント。

今日も兄弟達は元気にツッパッているようだ。

男は嬉し気に頷いた。


鳥たちに交じって、信号実で朝ごはん。

朝食は大事なエネルギー源。

エネルギーと言えば、バナナだろう。

好みの青は少なめに、黄色を多く食べた。

3色の中では、一番食べ応えがある。



相変わらず、イイ仕事をしているな。



タピオカミントのぷちぷち。

控えめだが、存在感抜群だ。

ミント味だが、チョコミントのような歯磨き粉感もないのがよかった。

このおかげで、男には甘ったるくも感じるバナナの味もさっぱり食べられる。



上等な果実で贅沢、かつ、さくっと腹を満たした後。



「さてやるか」



初日に使った、たらいに雑巾を何枚も浸して準備万端。

早速、掃除に取り掛かった。

心身もスッキリ、気合だって入っている。

ようやく取り掛かれることが、嬉しかった。

今日の予定は、玄関から見て左手奥、一段下がった土間。

10畳近くはありそうな、台所と思わしき場所だ。



まずは、左手横、家の骨格を為す壁沿い。

長さは土間の左側の奥まで、びっちりとカウンターが設えてある。

高さも、幅も1メートルないぐらいだろうか。

大柄な男には気持ち低く感じるが、まあまあ使いやすそうだ。



ここについている窓が他とは違った。

横に細く長い。

両外開きでもない。

カウンターの真ん中あたりで、窓は結構な長さを占めていた。



「横・・・・2メートル超え、2メートル50ない・・・くらいか」



男の父親ならば、パッと見ただけでもっと詳しい数字を出すだろう。

いつもほぼ正確な数字を言い当てていた。

ベテラン大工の感覚は侮れない。



「縦は・・・・60・・・いや、70センチは超えるか?」



高校当時、週一で現場の手伝いをしていたと言えども、男にわかるのはその程度だった。

ちょっと悔しい。

日曜大工よりは上だというプライドがあった。

つまりどっちも素人、謎のプライドをかけて、じっくりと窓を観察する。


凝った造りだった。

窓の下側がカウンターの高さにちょうど合うように造られている。

外開きの突き出し窓のようだ。

窓枠の上端に固定された軸をもとに、窓全体が振り子のように、外側に突き出すように開けられるはず。

両手で押してみた。



「へぇー・・・・なるほど」



木造だからか、結構力がいる。

やはり窓の上端は回転軸の役目を果たしてくれ、窓全体がぐぃっと外側に持ち上がった。

向こう側に90度以上開く。

一旦開けると、上手い事支えてくれるストッパーもちゃんとあった。

そうして開いたまま固定すると、なかなかいい風が通る。


ちなみに窓の前には、たらいが置いてあった。

1つ1つがやけに大きい。

直径がカウンターの幅いっぱいを占めるほどで、ずらっと4つ。



「大きさは・・・・・」



料理の道具なら任せろ。

大工は素人だが、料理ならこっちのもの。

目で見ただけでも、ちゃんと数字を出してやる。



男は、なぜか張り切ってサイズを当てようとしていた。

何の勝負をしてるのか。

ノリノリだ。

いや、早く掃除しろよ。

誰も注意をしてくれないので、先ほどからカウンターを拭くはずの雑巾はきれいなままだった。



「寿司桶・・・2升用よりは全然大きいな」



二升の寿司桶は山奥のリゾートバイトで使っていたものだ。

婆さん特製、山菜ちらし寿司は旨かった。

2升用なら直径45センチ。

目の前のたらいは、それよりかなり大きい。



「となると・・・・蕎麦のこね鉢・・・・2尺・・・いや、一回り大きいか」



蕎麦のこね鉢も山奥の民宿で使っていた。

爺さんが指導する蕎麦打ち体験は、特に壮年の男性客に好評だった。

なぜに蕎麦となると、普段料理をしない男性が打ちたがるのだろうか。

体験客用が尺5寸の45センチ、爺さん専用が2尺の60センチ。

2尺よりも一回り、5センチほど大きいとして直径65センチ前後だろう。

正確な数字が出せたと、一人うなづく男は満足気だ。

いや、だから掃除しろ。

誰も注意はしてくれない。

今までの所、男がしているのは掃除ではなくお台所拝見だった。

非常に楽しそうだ。



桶の高さは40センチ強、50センチはないだろう。

エアーな動作で水を出し、それぞれのたらいに水を溜めてみた。

水がいっぱいに入ったたらいを、窓から外へ半分ほどスライドさせる。

そのまま外側へ傾けると、家の外へ水が流れ出した。

同じようにして、たらいの水を4つ全て捨ててみる



「ほー・・・・」



この土間には流しがない。

電気、ガス、水道のない環境だから、炊事で水を使う時には湖に行く仕様だと思っていた。、

普通の日本人ならそうするしかないだろう。

だが魔女も男も魔法で水が出せる。

そしてこの窓のおかげで、外に水を捨てに行く手間もいらない。

窓とたらいがセットでシンク代わり。

よく考えられている。



「こりゃ、便利だな」



文明はなくとも、快適なお台所ライフがおくれそうだ。

改めて魔女に感謝した。



さて、掃除でもするか。



好奇心を満たした男は、上機嫌でカウンターを拭き上げ始めた。


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