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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
105/169

やっと実食、信号実 ~アカ~



信号木の果実、またもや勝手に名付けて信号実。

ずっとずっと食べてみたかった。

満を持して、ようやっと。

実食の時を迎えていた。



「いただきます」



かぶりついた赤い実は、草原近くの森でいつも見ていた信号実より、かなり小さい。

森の信号実は大玉の桃、大玉の林檎をさらに一回り大きくしたような立派な大きさだった。

ヘタしたら小玉スイカレベルだったかもしれない。

しかし今、男の手の中にあるのはその3分の1にもならないように思えた。

スモモか姫林檎というような大きさだった。

それが少しだけ残念だった。



しかし味に大きさは影響しない。

魔女レポートでもそう書いてあった。

今、料理人の本領が試される。

男は目を閉じて、慎重に味を確認した。



「・・・・・・」



やわらかい。

持った時はそれほどやわらかいと感じなかったのに。

プリンやムースに近い。

ゼリーよりは存在感がある。

プルプル高級、水ようかん。

そんな歯ざわり。

というより、歯がいらない。

溶ける。

それでも飲み物のような存在感のなさは感じない。

ちゃんと食べた感がある。

甘い。

そして酸っぱい。

なにをどうすればこんな味になるのだろうか。

例えるなら。

そう。

極上の。



「リンゴとミカンを混ぜた感じか?」



やすっ。



自分で自分に、ツッコんでしまいたくなった。

漂う残念感。

口に出すと、どうしても陳腐になってしまうのだ。

そんな安い味じゃないのに。

この味はもっとすごいのに。

でもこれ以外の表現をしようがない。

極上で絶妙の糖度と酸味。

糖度を想像しつつ、もう一口。

お代わり。



「・・・・・・・・・・」



この味をどう言えばいいのか。

糖酸度計が欲しい。



「負けた・・・・」



・・・・料理人の本領はまた次回に発揮するから。

完敗だ。

ごめんなさい。



料理人のプライドを拗らせた男は、勝手に誰かと勝負をしていたようだった。

そんなの求めてないのに。

なんで素直に旨いと言えないのか。

めんどくさい。

美味しいねーで、にっこり笑えばいいじゃない。

料理人とご飯に行くのは、楽しくない。

こうしてお食事デートでフラれていくのがパターンだった。

過去の反省と経験は全く生かされていない。

男は立派な料理バカだった。

そう。

バカな子ほど可愛い。

老若男女を問わず、友達としてなら男は愛され体質だった。

頑張れ。

ここに皆がいれば、男を応援してくれただろう。

しかし今は誰もいない。



「妹に食べてもらえればな・・・・・」



男は力不足を感じつつ、妹の姿を思い出した。

しかしそこにあるのは兄妹愛ではない。

シスコンでもない。

単にプロとして、妹に味見をしてほしかった。

この味は、どちらかと言えば妹の領分だと感じるのだ。

男ではうまく表現も分析もできない。

兄の後を追いつつ、道を違えたパティシェの妹は、いつも男の良い相談相手だった。

パティシェだって、クリスマスには体力勝負。

最後の追い込みは、午前3時帰りの7時出勤。

産休育休で数回休めた所で、それは最低限の休みでしかない。

タフな毎年行事を、2人の子を産み育てる妹はタフにこなしていた。

夫や父親の協力を得られるとは言えども、あいつはすごい。

自慢の妹は、男の良いライバルでもあった。



この極上の味。

食べさせてやりたい。

妹ならば、なんと言うだろうか。

ナニを作ろうとするだろうか。



俺なら・・・・・。



少し考える。



「・・・・・ソースにできないかな」



ドレッシングでもいい。

信号木から離れれば硬くなり味がなくなるというのなら、信号木のそばで加工して持ち出すことはできないだろうか。

これだけの味を使えないのは惜しい。

もったいない。

諦めたくなかった。


断面をまじまじと観察する。

皮と実の境目がない。

実も赤い。

同じ色だった。

真ん中に種は1つだけ。

種の色は普通。

緑ががかった茶色だった。

桃やアボカドを思わせるような、実のサイズの割には大きな種。

この種は食えないらしい。



さて、最後の一口。

種だけを器用に残して食べ終わった。

後味さっぱり。

さわやかな香りだけが鼻に残るような気がした。

残った種は地面に落とす。

芽も出ないらしいが、大地には帰ってくれるだろう。



「文句なく旨かったな・・・・・」



次はアオだ。



左手の青い信号実を右手に持ち替え、かぶりついた。




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