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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
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よー、きょーだい


男が勝手に名付けた信号木。

この見知らぬ世界でも特別扱いされるべき樹木らしい。

前置きの話は確かに興味深かった。

湖の周りは安全とわかったのもありがたい。

だが本来、男が知りたいのはただ1つ。



食えるのか食えないのか。



アカ、アオ、キイロ。

この見たこともない3色の果実。

料理人として、非常に気になる所だった。


ウサギの白身肉が運命を感じるほどに旨かった事から、湧き出る期待感。

同時に、畑で収獲したトマトに見えるアレコレを食べ、湧き出た警戒感。


この世界の食い物は普通じゃない。

良くも悪くも学習していた。



さて、結論は。



「食えるのか・・・・そっか・・・」



森の番人に関する魔女レポートを読み終わった男は、ため息をついた。

遠い目をしている。

全く嬉しそうじゃない。

どうした。

悪いモノでも食ったのか?

同僚がここにいたならば、やさしい言葉の一つもかけてくれただろう。


机に肘をつき、前のめりになっていた姿勢から、背もたれにゆっくりともたれた。

椅子は男の軽くはない体を支えても、きしむこともない。

抜群の安定感。

座り心地もよく、丈夫なつくりのようだった。



「・・・・・・」



食える。

もぎたてはやわらかく、齧ってでも食べられる。

そして旨いらしい。


それ自体は朗報だった。

嬉しいニュースのはず。。

だがそこには問題があった。

テンションを上げていいのか、下げていいのかわからない。

男には大問題なのだ。

理不尽さすら感じる。



「・・・・はーっ」



何度もため息をつきつつ、魔女レポートを読み返した。

問題は、信号木の葉が拡がる範囲から身長一人分ほどでも離れると起こるそうだ。

せいぜい2メートル程度の距離だろうか。

硬くなり、同時に味も香りも消えてしまう。

木の一部のような硬さの実は、毒はない。

だがそんなもの、食いたい人などいるわけがない。



「意味ねー・・・・・・」



食えたところで、料理ができないじゃないか。

厨房に持っていくことすらできない。

食える意味がないじゃないか。



がっかりだった。

男は紙をテーブルに置き、その上に人差し指にはめていた指輪を外して置いた。

重し代わりだ。

風もないし、ゴツイ指輪だから大丈夫だろう。

そのまま、なんとなく湖を見つめる。

そういえば、湖に魚はいないと書いていたなと思い出した。

湖はいつの間にか赤くなった空の色を映している。

赤のような紫のような湖面。

雲ひとつない赤い空と、赤く色づく木々。

なんとも幻想的な風景だ。

もう時間も遅いのだろう。



「・・・・・・」



男はガシガシと頭をかき、立ち上がった。



「食ってみるか」



家の横手から裏に回り、大股で信号木まで歩く。

なかなか広い畑の一角を目指した。

近づくにつれ、騒がしい音に気付く。

ピーチクパーチクではないが、鳥の声だ。



「鳥、居たのか・・・・」



信号木に近づいてみると、確かに鳥だった。

たくさんの同じ種類の鳥が、信号木の果実をつついている。

なかなか可愛らしかった。

ただ素直に愛らしいとは表現し辛い。

非常に個性的な見た目であった。

思わず笑ってしまう。



「すげえ・・・・ツッパッてんなっ・・・・」



鋭い三角のツリ目。

トサカのような、モヒカンのような金色の「ツッパリ」毛。

ご丁寧にも、リーゼントで固めたようなコダワリの仕上がり。。

スズメと同じぐらいの大きさで、白い体。

小さい体をずんぐりむっくりに見せている、丸く突き出たメタボな腹。

古き良き時代のマンガにでも出てきそうな、チンピラな見た目。

特徴的な鳴き声をしていた。

「ヨー」「キョー」と鳴いている。

それが「ヨー、キョーダイ」と聞こえるような気がした。

むしろそのように聞きたい。

少し言葉数が足りないのは、脳内補完だ。

男も挨拶を返すことにした。



「よー、きょーだい」



男の声を受けてなのか、鳥の声は益々賑やかになった。

楽しくなってくる。

手で容易に捕まえられる距離まで近づいても、鳥はマイペースだった。

特にこちらに目線を向けるでもなく、果実をつついている。

マジマジとみると、鳥はツリ目ではなかった。

大きくて丸い。

しかし、目の周りを逆三角形の黒い模様が覆っている。

小さな三角グラサンをかけているかのようだ。

それがまたツッパリ度を増しており、微笑ましかった。

顔の筋肉が自然と緩んでくる。

こんな同居人がいるとは知らなかった。

思わずつぶやいてしまう。



「バカな子ほど・・・・・」



この鳥が馬鹿かどうかはわからない。 

だが、見た目は立派にバカだった。

つまり可愛い。

歴代一位。

山奥で様々な動物を見てきた男。

過去イチで可愛いと思った。

十分に彼らの姿を堪能し、本題に取り掛かった。


信号木を改めて見上げる。

果実は片手におさまる程度の大きさだった。

例えるならば姫林檎か、スモモか。

アカ、アオ、キイロ。

全ての果実を、鳥たちを刺激しないよう1個ずつ収獲する。

ハンティングナイフを使わずとも、容易に手でもぎ取れた。



まずは赤から。



果実を両手に持ったまま、器用に手をあわせる仕草をする。



「いただきます」



男は立ったまま、右手に持った赤い色の果実にかぶりついた。



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