表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
魔女の家でお勉強編
103/169

魔女レポート ~森の番人 後編~


はたして魔女が番人とよぶ信号木の果実は食べられるのか。



今まで読んだ所には、何も書いていなかった。

食えるのか食えないのか。

早く知りたい。

この部分を探して、先に読みたくなってくるほどだった。

はやる気持ちを抑えつつ、男は魔女レポートを順に読み進めていく。



『 同じ木を家のそばで、育ててみたかったの。


誰もこの木のことは、よくわからない。

いつから森に居てくれたのか、誰も知らない。

世界にたった2本だけ。

そんな特別な木。


それで3本目を家に植えたいなんて、贅沢だよね。

でも欲しかった。

私と違って夫はあんまり戦えない。

生まれながらの学者肌なの。

よく生きてこられたと思うわ。

だから夫が研究に打ち込めるようにしたかった。


野菜は畑でとれるけど、やっぱりお肉もお魚も食べたいし。

湖の近くには獣は来ないから、私が捕りに行くつもりだった。

お魚だってそう、ここでは獲れない。

あんなにきれいな水なのに、湖にはお魚が一匹もいないの。

だから近くの川に行くしかないのよね。


その時、安心して留守を任せられるように。

夫と、そしていつかは授かりたい私達の子供も。

護ってほしかった。

ここにも番人に居て欲しかった。


まあ湖の周りには危険なモノは寄ってこれないから、気持ちの問題なんだけど。

でもどうしても欲しかったの。

見ているだけでもほっとするし。

幸いここの土ならどんな種を植えたって、すぐにちゃんと育つから大丈夫だろうって思ってた。

でも番人はやっぱり特別ね。 

どの種を埋めてもだめだったの。


3つの果実の種がそれぞれ違うから、イロイロ試したわ。

1つずつ植えたり、3ついっぺんに植えたり。

小さい種を大目に植えたり、ちょっと間隔をあけてみたり。

乾燥させた種や、実から取り出したばかりの種。

果実をそのまま埋めてもみたわ。

頑張ったの。

でも芽も出なかった。


夫が来たら相談しようかと思ったけど、いつこっちにこれるかわからなくなって。

待っている間、ダメもとでいろいろ試した。


種じゃなくって、番人そのものに来てもらうことにしたの。

惑わしの森はちょっと遠いから、楽園側の番人の所に行った。

枝を少しもらおうと思った。

切る前に、ちゃんと話しかけてお願いしたわ。

私たちの家にも来てくださいって。

だからちょっとだけ枝を切らせてくださいって。

一生懸命お願いした。


私は植物と話ができるスキルは持ってない。

まあスキルがあっても、番人とは話せないって聞いた事があるわ。

だから話しかけても、通じないのは十分承知だった。

単なる自己満足ね。

でも必死だった。

必死で、この特別な木を傷つけてしまう言い訳をしていたという所かしら。


不思議よね、果実ならばいくつ採っても何も思わなかったのに。

採取依頼もあるし、皆だって当たり前のようにもらっていく。

慣れていない人が木を登るときに、枝が折れてしまったりもするでしょうし。

でもわざわざ枝を切るっていうのは違うのよね。

すごい罪悪感。

だからごめんなさい。

お願いしますって深く頭を下げた。


そうして頭を上げたらね。

目の前に枝がふわりと落ちてきたの。

もっと重いはずなのに、ふわって。

慌てて手を出したら、両手の手の平におさまった。

葉っぱも実もついてなかった。

すぐ折れてしまいそうな細い枝。


嬉しかった。

認めてくれたんだって思ったわ。

番人からの授かりものだって。

だからお礼を言って、大事に持って帰った。

ちゃんと土に植えようと思ったの。

種の代わりね。

でもいざ土を掘って埋める直前になると、違和感が出てきてしまって。

なんかこれじゃないって感じ。


土の中に枝を埋めるのって、骨を埋めるみたいで縁起悪いなって。

ちょっと嫌な気分になったの。

だって枝はちゃんと生きていた。

すごく細いけど枯れ木じゃない。

なのに埋めるのって、おかしい。

枝が息をできなくゃなるんじゃないかって。

妙に心配しちゃったのよね。


だから半分埋めて、半分は土の上に出す事にしたの。

ちゃんと息ができるように。

縦にね、半分から下を土に差した。

畑の野菜は特に水をあげなくとも育つんだけど、ちょっと不安で。

湖の水で毎日水やりをした。

でも1晩経っても、3日経っても、何も変わらなかった。

枯れるわけでもなかったし、良くも悪くもね、変化がないの。

毎朝起きるとすぐに、見に行ってたわ。


7日目に見に行ったらね、急に育ってた。

私の身長2つ分にちょっと足らないぐらいの大きさ。

嬉しかったわ。

今はそれから何日か経つけど、大きさは変わらない。

果実も番人ほどの大きな実じゃなくて、片手で包み込めるぐらいかな。

ちゃんと3色あるけどね。

楽園の番人の子供が、湖の番人として来てくれたのかしら。

もうこれ以上、大きくはならないのかもね。 』



男は1つため息をついた。

魔女の苦労が伝わってくる。

やはり信号木はこの世界でも、特別な木なんだと納得した。


魔女の体格は、着る予定で誂えたという白い服からだいたいわかる。

当時で、魔女の身長2つ分に足らないくらい程度だという。

ここの信号木は3メートルちょっとに見えた。

やっぱり大きくは育たなかったという事か。


護ってくれるとは知らぬとも、信号木を発見してほっとしたのは男も一緒だった。

魔女が頑張ってくれてよかった。

ここに居てくれてよかった。

心からそう思う。



それで結局、3色の実は食えるのか。



集中力が途切れたのは少しの間だけ。

男はパンクしそうな頭を整理しつつ、読み進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ