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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
19/45

カタギリタウンにて


 出発初日にゴブリンと遭遇したこと以外、特に大きな出来事も無くカタギリタウンへの旅路は順調に進んで行く。

 立ち寄った町で現地のガラの悪い冒険者が女性陣に絡んできて少々揉めたが、付き添っていたシューゴが平和的に対応した。


(感電地)

『ぎゃっ!』


 無詠唱のお陰で相手に気づかれず発動した「感電地」で痺れさせ、動けなくなっているうちに退散。

 突然冒険者が倒れた光景に呆気に取られた野次馬は、無詠唱どころかそもそも魔法を使った事にすら気づかず去って行くシューゴ達を見送るばかり。

 そおうして予定の旅路を進み、もうすぐ目的地のカタギリタウンというところで御者台にいるカズトの声が聞こえた。


「うおっ! 海だ、海が見えるぞ!」


 それを聞いたトシキとシノブとコトネとアカネは馬車から顔を出して外を見る。

 林道を抜けた先に広がっている海を見て興奮した様子を隠せず、仕事で来ている事を忘れているのかと思うほどはしゃいでいる。

 そんな年相応の反応に使用人達は微笑む。


「おい、落ち着け。仕事中なんだぞ、あまりはしゃぐな」


 恥ずかしいと思いながら注意するが、誰一人耳を貸さない。

 彼らは帝都で生まれ帝都で育ったため、冒険者学校の野外授業で川や湖の付近へ行ったことはあっても海は見たことが無い。

 初めて見る海に騒ぐのも無理は無いとはいえ、もう少し大人しくしてもらいたいシューゴは恥ずかしくて俯く。

 しかし、同乗している女性使用人の一人が微笑みながっら教えてくれた。


「初めて海を見た時のシューゴ様は、これ以上に騒いでいましたよ」

「えっ?」

「あれは三歳の時でしたね。あまりにはしゃいでトウカ様もショウマ様も困っていましたよ」


 二十年以上カタギリ子爵家に仕えているベテランの彼女の言葉に、ようやく海への興奮が収まった仲間達がくいつく。


「へぇ、シューゴでもそういうところあるんだ」

「子供らしくていいじゃないですか」

「そりゃあ、あんな光景を見ればね」


 次々とかけられる冷やかしや同意する言葉に恥ずかしくなったシューゴは、少し赤くなりながら手元の本に視線を固定した。

 そういう反応もまた楽しいと、馬車の中は笑いに包まれる。

 こうして一行はカタギリ子爵領の中心地、カタギリタウンへと到着した。

 海と山の間にある平地を開拓して造られた町は、港や海に出て働く人々と山で働く人々、少し離れた場所にある魔物の領域を目当てに来ている冒険者、国内の治安維持のために派遣されている国防軍の駐屯地勤めの軍人と、多種多様な職業の人々が賑やかに生活している。


「海の近くって、なんか静かなイメージがあったけど……」

「それは町とか村が無い場所のことだろう? 港町とか大きな漁村はむしろ逆。全員が全員そうじゃないけど、海の男や女は賑やかで豪快で威勢がいいのさ。勿論、山の男や女も負けてないけどな」


 だから割と夜の酒場で喧嘩があるが、最終的には肩を組んで互いを褒め合って酒を飲む。

 これも勉強だからと護衛付きでそんな喧騒を見せてもらった事があるシューゴは、良くも悪くも威勢の良い町であることを説明していく。


「魔法は使わないのか?」

「喧嘩でそんなもん使ってたら、町がいくつあっても足りないって」


 さすがに魔法の撃ち合いに発展しそうになったら、周囲が止めに入り軍人も動き出す。


「その代わり、殴り合いの範囲だったら刃物とか持ち出したり、必要以上に痛めつけたりしなければ止めずにどっちかを応援している」

「なんか、荒くれ者の町みたいだね」

「一時期そういう類の奴らが町へ来たけど、海と山の各組合と冒険者が一致団結して当時の領主代官指揮の下、力ずくで追い出したらしい」


 だいぶ昔の事なので年配の人から聞いただけだが、国内でそれなりにやり手の荒くれ者集団が泣きながら逃げ出したとシューゴは説明する。


「よくやるな」

「今もそうだけど、ここの住人はこの町の賑やかさと喧しさと威勢の良さが気に入っているんだよ」


 説明を受けながらカズト達が改めて町の様子を見ていると、確かにあっちこっちで大声が上がり昼間から酒を飲んで騒いでいるのもいる。おおよそ静けさとは無縁だが、溢れる活気に当てられて自分達も騒ぎたくなってくる。

 しかし、生憎と彼らは仕事中。そう好き勝手にはできない。


「皆さん、もうすぐ領主館ですよ」


 御者に促されて前方へ視線を向けると、帝都に建つカタギリ子爵邸に比べると一回り小さいが立派な屋敷があった。

 その屋敷の前に止まって馬車から降りた一行は、待っていた男性使用人の案内で屋敷へ足を踏み入れる。


「やあタイガ、よく来たね」

「ご無沙汰しています、レイトさん」


 ロビーで一行を出迎えたのはカタギリ子爵領の代官を務めるカタギリ準男爵家の当主、レイト・カタギリ。

 顎の辺りに整えた髭を生やした恰幅のいい彼の後ろには数人の使用人と彼の妻達、そして少し不機嫌そうなマサヨとツグトがいる。

 そのツグトは実家から来た私兵の中にシューゴを発見すると、目を見開いて詰め寄った。


「おいシューゴ! なんでお前がここにいる!」


 最低数の文字数でありながら完成度の高い魔法と無詠唱という高度な技術を扱うシューゴは、文字数至上主義者のツグトにとっては異端であり邪魔者でしかない。

 自身は帝都を離れ、シューゴも冒険者として一人立ちした以上、もう会う事も無いだろうと思った相手が目の前に現れたことでツグトは動揺した。


「仕事ですよ。ショウマ・カタギリ子爵の依頼です」

「そんなもの、私は聞いていないぞ!」


 どうしてツグトに伝わっていないといけないんだろうと疑問に思いながら、無視してレイトへ話しかける。


「レイト様には伝わっているでしょうか?」

「うむ。聞いているよ。部屋はタイガと同じく離れの方に用意しておいたから、冒険者活動の拠点としても使っていいよ」

「そんな、レイト様! こんな奴に部屋など必要ありません! それに冒険者活動の拠点とはどういうことです!」


 本当に全く何も聞いていなかったツグトが問い詰めても、そこは仮にも貴族家の当主。

 のらりくらりとかわし、僅かな隙を見つけたらそこを突いて隙を広げ、そこへ鋭く切り込んで言葉を失わさせる。

 いくら差別をしない帝国とはいえ、色々と腹の読み合いが盛んな貴族社会を生き抜いてきた海千山千のレイトに比べれば、ツグトなど赤子も当然だった。


「もうやめなさいツグト。それに彼の事なんか、気にしなくていいじゃない。もうカタギリ家とは関係無いのだから」


 文字数が多いからというだけで自慢になる息子の愚行にマサヨはそう言うが、カタギリ家と関係無いという点は間違っている。

 あくまで継承権を放棄しただけで、カタギリ子爵家との縁は切れていない。もしも、万が一にも、継承権の保持者が全滅した場合には、軍属になったのを機に継承権を放棄した三男のマサヨシと共に継承権が復帰する可能性がある。

 尤も、本人達はそんなものは望んでいないが。


「そうですね、母様。今のこいつはただの冒険者ですから。気にするだけ無駄ですね」


 そう言い残してマサヨとツグトはさっさとその場を立ち去る。

 実家にいた頃はもう少し大人しく、今のようなやり取りは態度はしなかった。当主であり夫であり父であるショウマの下から離れたのが原因だろうとシューゴは思う。


「悪いね。こっちに来てから、徐々にああなってきてね。自覚や責任感が芽生えて矯正されるどころか、悪化の一路を進んでいるんだ」


 この調子では不穏な動きにも真実味が出てきたと言いたげに溜め息を吐くレイトに、それを調べる囮として派遣されたシューゴ達は思ったより早く尻尾を掴めるかもしれないと思った。

 その後、翌日からの打ち合わせのためにレイトとタイガは執務室へ向かい、他の面々は数名の護衛をタイガに付けて離れの方へ向かう。

 使用人達は部屋の具合を確認し、シューゴ達は私兵達と警護のために離れの構造を確認していく。

 自分達が使う部屋で一休みをするのは、それが終わってからだった。


「ふう、やっと落ち着けるぜ」


 冒険者学校時代の寮と同じくシューゴ、トシキ、カズトの三人での共同部屋。

 室内には人数分のベッドの他はちょっとした物が置いてあるだけの質素な部屋だが、内装は離れとはいえ貴族に相応しくそれなりに力を入れてる。

 そこまで凝っていないのは、下から二番目の準男爵家だからだろう。

 しばらくするとコトネ達も部屋にやってきて、今後の動きについて話すことになった。


「まずは護衛の仕事についてだけど、カズマさんから二人貸してほしいっていう要請があった」


 領内で情報収集して囮役をこなすのは大事だが、同時に護衛も大事な仕事。

 そういう依頼でここにいる以上、護衛もこなさなくてはならない。


「この役目はカズトとトシキに任せたい」

「僕達だけ? 交代でやるんじゃなくて?」

「そこはまあ、消去法というか諸々の事情があるというか」


 まず、密かな役目が囮であり冒険者活動で活躍してツグト達を挑発することであるため、目の敵のようにしているシューゴは外で活動する必要がある。

 次いで文字数至上主義者にとって同志となる八文字以上の相手とは積極的に接触する可能性が高く、八文字のアカネを置いていくのは不安ということで除外。

 さらにツグトは七文字以下の女性に無理矢理手を出そうとしているという噂あり、これによりコトネとシノブも除外。

 こうした理由から男で七文字以下のカズトとトシキの二人に白羽の矢が立った。


「性別勘違いされてトシキに手を出す可能性はあるが」

「ちょっと!?」

「そこはまあ、諦めてくれ。さすがに見た目がそれでも男に手を出すことは……無いと思いたい」

「最後のそれで一気に不安になったよ! いいよね? 身の危険を感じたら魔法で反撃していいよね!?」


 必死にシューゴから反撃の許可を得ようとするトシキの姿に笑いが起こり、そのままの流れでシューゴの提案は了承される。

 警護についての打ち合わせと二人の紹介のため、シューゴ達はカズマの下へ向かいコトネ達は部屋へと戻った。

 紹介の際、トシキが男だと告げられた私兵達とタイガが驚いたのはいつものことなので、もうトシキ以外は気にしない。

 その一方でツグトの方はというと、何故シューゴが同行してきたのかをマサヨと話し合っていた。


「おそらくはあの人が領内の様子を調べさせるため、依頼を装って送ってきたのでしょうね。冒険者活動が認められているのが、その証拠です」

「なるほど、冒険者活動をしながら領内の様子を探ろうというのですね」


 当たらずとも遠からずであり、注意を引かれているのが思惑通りなのを二人は知らない。


「ですが、所詮は四文字しかない出来損ないの欠陥品です。あんなのに任せるとは、父上も耄碌しましたね」

「とはいえ、注意は必要です。何の拍子に、不当に評価されている私達の崇高なる思想の布教を知られるか分かりませんからね」

「分かっていますよ、母上。誰かしら見張りを立てましょう」


 既にそうしていることが策にはまっているとも知らず、二人はシューゴ達の動向に目を傾ける事となった。


 ****


 翌日、シューゴはパーティーの女性陣を引き連れて早速カタギリタウンの冒険者ギルドへ向かった。

 道中で顔を知られている相手から話かけられたり、異性ばかり連れているのをからかわれたり、屋台の商品を勧められたり、海の向こうの国から仕入れた本を勧められたりした。

 去り際に最近の様子を聞いて、情報収集をしている素振りをするのも忘れない。


「随分と顔を知られているんですね」

「屋敷を抜け出ては、本屋とか図書館とか本が置いてある店に通い詰めてたからな」


 ちゃっかり購入した海の向こうの国から仕入れた本を「収納空間」に入れながら、シノブの質問に答える。


「で、その時に買い食いとかしていたから、屋台の店主達に顔を憶えられたと」

「そういうこと」

「なんか……割と自由にしてたんだね」


 こちらもちゃっかりと屋台で売られていたイカ焼きを購入しているシノブとアカネも、多くの屋台の人々から声を掛けられる様子から昔のシューゴが何をしているのかを察した。

 なお、そうして顔の広まってしまったシューゴに不穏な輩が近づこうとしたこともあったが、それはショウマの命で密かに付けられていた護衛が全て片付けている。


「あっ、これ美味しいです」

「面白い歯ごたえだね。これが海の生き物なんだ」

「あっちで売ってるホタテの串焼きもいけるぞ。また変わった歯ごたえと噛みしめた時の旨味が」

「あのさ、私達は食べ歩きに来たんじゃないんだけど?」


 目的が海産物食べ歩きツアーに移ってしまいそうなのをコトネが止め、一行は改めて冒険者ギルドへと向かう。

 カタギリタウンの冒険者ギルドは帝都のギルドに比べると規模は小さいが、冒険者はそれなりに多くいる。

 依頼を受付に提出したり、ロビーで打ち合わせしたり、どの依頼を受けるか掲示板の前で仲間と話し合ったりと、帝都の冒険者ギルドの変わらない光景がそこにあった。


「へえ、大きさ以外は向こうと変わらないんだね」


 周囲を見渡すコトネ達を引き連れて掲示板の前へ行こうとすると、大柄で人相の悪い男が立ち塞がった。

 後ろにはニヤニヤしている男達を数人引き連れ、見るからにガラの悪い連中に見える。


「よう兄ちゃん。三人も女引き連れて景気いいじゃねえか。ちょっくら分けてもらえねぇか?」


 男達の様子と言動にコトネ達は警戒心から身構えるが、シューゴは落ち着いて三人を制止させて男へ向かって一言。


「本気で言っているなら、嫁さんにこのこと伝えるぞおっちゃん」

「マジでスンマセンッしたぁっ!」


 突如ジャンピング土下座をした男にコトネ達は驚き、続けてギルド内が爆笑に包まれると再度驚く。

 事情を知らないコトネ達女性陣は何が起きているのかと戸惑う中、男の仲間や周囲にいた冒険者が土下座した男とシューゴに声を掛ける。


「いやあ、さすがのリーダーも嫁さんには勝てないっすからね」

「そこを突いてくるシューゴの坊主もえげつねえぜ」

「ちょっと、もう坊主って年じゃないでしょう?」

「いいじゃねえか、俺達にとっちゃ坊主はいつまでも坊主だって」


 土下座する男の背中をバンバン叩いたりシューゴと肩を組んだりする様子を見て余計に困惑するコトネ達へ、苦笑いを浮かべて頬を掻きながらシューゴが説明する。


「ええっと……ここにも入り浸っていて、ほぼ全員顔見知りなんだ」


 説明にその通りだと冒険者達も声を揃え、賑やかな喧騒に包まれる。


「あの……どういう理由で入り浸っていたの?」


 まだちょっと戸惑いを残すアカネが尋ねると、再び頬を掻いたシューゴが受付の一部を指差す。

 そこには、各種資料をギルド内限定で誰にでも無料貸し出しをしていると書かれた札が置かれていた。


「……あんなのも読みに来ていたの? 一応本と言えば本だけど」

「そうなのよ。驚いたわ、まだ六、七歳くらいのちょっと良い服装した子が平然と入ってきて、資料を読ませてほしいって言ったんだから」


 偶然その光景を目にしていたベテラン女性冒険者が当時の事を懐かしむように語る。

 受付にいた職員も最初は目を点にしていたが、誰にでも貸し出し可能ということで戸惑いつつも貸し出す。

 受け取った当時のシューゴは、嬉々として近くの席に座って真剣な目でそれを読んでいたという。

 魔物や薬草の資料、魔法名に関する資料、上位冒険者に関する資料を始めとした各種の本を何度も訪れては読み漁り、全てを読み終えても度々訪れて資料を再度読み漁ったり冒険者から色々と話を聞いたりしていたという。

 結果、シューゴがカタギリタウンを訪れた際は必ずここを尋ねるのが恒例となり、言葉遣いも気にしないほどすっかり冒険者と職員と顔馴染みになってしまった。


「頼んますシューゴさん! シューゴ殿! シューゴ様! どうか嫁には言わないでください!」

「分かってるって。だからお前も冗談でもあんなこと言うのやめろ、仲間に手を出したら承知しないぞ」

「出しませんって! そんなことして嫁を悲しませたら、精神的に俺が死んでしまいます!」


 決して妻が恐妻家なのではなく、大事な嫁を悲しませたくないという見た目によらず愛妻家の男に再び爆笑が起こる。

 その中心にいるシューゴもまた笑っており、どれだけ馴染んでいるのかがコトネ達にも窺えた。


「で、今日はどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、冒険者として仕事をしに来たんだ」


 そう言って冒険者ギルドのカードを見せると、周囲から小さな歓声が上がる。

 あの坊主がもう成人して冒険者か、月日が経つのは早いな、これでまた婚期が遠のいたのね、という一部関係無い呟きも聞かれるが、まるで息子か弟の成長を見守る保護者のような気分になる冒険者達だった。


「そんじゃ、頑張れよ。何か困ったことがあったら言えよ」

「ありがとうございます」


 去って行く冒険者達に礼を言い、改めて掲示板の前に立つ。

 帝都のギルドと比較的似ているように見えて、所々に海に関する依頼や山中に関する依頼も混じっている。

 こうした依頼は帝都ではなかなか見ないためコトネ達の気を引く。


「どれがいいかな?」

「帝都付近にはいない魔物の討伐を!」

「シノブちゃん、こっちでもそのスタンスは変わらないんだね……」

「だとすると、あれとあれと……」


 あれこれと意見を言い合って決まった、こっちに来て最初の依頼は魔物の討伐系の依頼。

 山中にある魔物の領域に出現する、バインドスパイダーの討伐に決定した。


「大きさはさほどでもないけど、目に見えにくい糸で獲物を捕まえて捕食するっていう特徴を持った蜘蛛の魔物だ。この糸が厄介で、伸びがいいし強い粘りもあるからなかなか切れないらしい」


 移動の最中、かつて読み漁った魔物の資料からバインドスパイダーに関する情報をコトネ達へ伝え、周囲には気をつけるよう促す。

 油断していた冒険者がこの糸によって捕縛され、そのまま美味しく頂かれてしまうという話も少なくないためだ。


「嫌よ、蜘蛛に食べられて死ぬなんて」

「何か糸の位置を知る方法が無いかな?」


 これまではトシキの「しゅういをしる」でバインドスパイダーを探し、その付近に仕掛けられているであろう糸を警戒すべきだが、そのトシキは生憎といない上に必ずしも付近に糸を張っているとは限らない。

 それでも、最低限バインドスパイダーの位置は調べておく必要がある。

 幸いにも「月下の閃光」にはトシキ以外にも、少々使い勝手は悪いが索敵系の魔法の持ち主がいる。


「というわけでシノブ、周囲を調べてくれ」

「分かりました。「まものをさがす。バインドスパイダー」」


 シノブが使用した魔法は、索敵系ではあるものの指定した魔物しか探せないという微妙な魔法。

 依頼のあった魔物を探すために創ったとのことだが、盗賊や動物相手にはどうするんだと指摘されて数秒沈黙してから崩れ落ちたことがある。

 尤も、主に魔物と戦う冒険者としては使い勝手が悪いだけで、決して無意味な魔法ではない。

 その魔法により、シノブの脳裏にバインドスパイダーの反応が映る。


「いました。向こうです」

「よし、行こう。糸は俺が盾で対処するけど、油断はするなよ。特に他の魔物への警戒は怠らないように」


 シノブが指差した方向に「浮遊動盾」を出現させ、ある程度距離を取った位置で距離感を固定しておく。

 こうすることで進行方向に糸があっても盾が先に接触するため、糸に捕えられることを防げる。

 それでも他の魔物への注意を怠れないため、普段以上に警戒しながら魔物の領域へと足を踏み入れて進んで行く。

 その先に思いもよらない存在がいるとも知らずに。


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