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学パン!!  作者: ビビディ
10/30

将武その9「開店!?アオヤンベーカリー!!」

休日。爽やかな晴れ模様にて、今日もヤンキー蔓延る東乱楠の町。


葵家のリビングにて、帳簿を見つめながら八千代はラスクを齧り、ココアをひと口飲むと、ため息をつく。


「うーん……困ったわね。」


朝食のつぶあんパンを頬張る千代子は、そんな八千代の姿を見ると気になってしまう。いつもと違う物憂げな母を見ると、やはり心配なのだ。


「どうしたの?お母さん。」


「ああ、千代子…最近お客さんが全く来なくってね。たぶん、デパートにできた新しいパン屋さんにみんな行ってるんだと思うけど…5日も続くのはちょっとね…」


「ムグッ…!!5日も!?」


大ピンチである。

千代子は喉に詰まりかけたあんパンを牛乳で流し込み、持ち直した。

三度の飯より、などの次元ではなく、三度の飯の傍らにパンがあるようなものの千代子にとって、あおいベーカリーのピンチは命の危機とも言えることなのだ。


「でも、こういう時もあるわよ。きっとお客さんがふらっと戻ってくるかもしれないし…」


「ううん、ダメだよお母さん!私が何とかする!デパートのあたりなら人集まるよね、そこでウチのパンを売ればいいんだよ!」


父、竹仁が移動販売に使っていたリヤカーが物置にあるので、それでパンを運んで町の人々に食べてもらおうという千代子の提案だ。八千代は千代子がそこまで言うなら…と、承諾する。


「ありがとう、千代子。でも販売じゃなくて、試食してもらうだけでいいわ。売るとなると、許可を取ったり、色々大変だからね。」


資格と許可が必要なのだと八千代は言う。

パン屋になるまでがとても大変な道のりだと言うことが千代子にとってよく分かっていたので、千代子も快く頷いた。


「わんっ!」


コムギもやる気満々の様子。ついて行きたそうに、尻尾を振っていた。昨日シャンプーしてやったばかりなので、最高のふかふか具合。


「コムギも手伝いたいのね、じゃあお散歩ついでに一緒に行ってらっしゃい。」


「ありがとうお母さん!じゃあ、がんばってくるね!」




そしてデパート前…


新装開店したパン屋は女性が喜びそうな見た目の可愛らしいものから、定番のものでも高級感ある素材を使ったものを販売している。


今では、めっきり見なくなってしまった移動販売のパン屋など、誰も見向きもしない。


素通りしていくのが殆どの中、千代子はパンの試食をひたすらに勧めた。


「あおいベーカリーいかがですか〜?焼きたてですよ〜!」


諦めの悪いところは兄譲り。ただ、食べてくれればいいのだ。

コムギは首輪に着いたリードでリヤカーから離れないようにしている。お利口におすわりをしている様子は、食パンが座っているかのようである。


しかし、誰も食べようとも、足を止めてくれもしない。流行とは、時に敵にもなるのか…と千代子はため息をついた。


「「あっ!!貴方様は!!」」


「え?……あっ!!」


ふと、かけられた二人の男の声。

その声のするほうを見ると、千代子は驚いたようで、2人の指を差した。


宇佐見 兵吉と、樺地 正男。

舎弟の二人と学校の外で、しかも千代子として遭遇したのは、これが初めてである。


「タケの兄貴の妹さんっすよね?この前、女子校舎で江頭を投げ飛ばした千代子さん!動画に映ってた!」


「こんなとこで何してるんですかい?コレ、あおいベーカリーのパンじゃねぇですか、バイトっすか?」


宇佐見と樺地は目を丸くしながら、千代子とコムギ、そしてリヤカーに陳列するパンを順番に見た。ずいっと身を低くして目線を合わせる宇佐見のリーゼントはほんの少し縮んでいた。榊原にバラされ、刻まれた為だろう。



事情を話すと、宇佐見と樺地は心配そうな反応をしつつ、双子である千代子をまじまじと見る。

初めに口を開いたのは宇佐見だ。

「にしても、ほんっとそっくりだよなぁ。遠目から見たらタケの兄貴が女装してるのかと思ったぜ。バラさんから双子だって聞いたけどよォ。妹さん動画でも男らしかったって言うかな。真っ平らだからかな?」


千代子にとっての禁句が突き刺さる。


そこに続く樺地もまた、地雷を踏んだ。


「ああ、男みてぇな真っ平らだしな。オレもそう思ッ……」



デパート前で遭遇した葵 千代子のパンドラのスカスカウォールを暴いて、およそ10秒間。


宇佐見と樺地は…アッパーカット、エルボーバット、ラリアットの3つの技を受けて、戦慄を極めていた……!!


「さ、さすがタケの兄貴の妹さん…ぐへぇ…」


「うおぉ…強え…いいパンチだ…」


膝をついて崩れ落ちた宇佐見と樺地を、千代子は青筋を額に浮かべながら見下ろす。

地面に伏した樺地が千代子のパンチを称賛しつつ、ひとつ提案を宇佐見に持ちかけた。


「お、おい宇佐見ィ…妹さんの役に立てば、きっとタケの兄貴も褒めてくれるんじゃあねぇか?」


「はっ!ナイスアイデアだ樺地…!そうすりゃ今度こそタケの兄貴も実力を認めてくれるはずだ…!葵ヤンキーズの懐刀として!早速他の奴ら呼んでこのパンを全部食ってもらうんだ…!!」



葵ヤンキーズ……

もうすこし捻りが欲しいが、覚えやすいからいいか、と千代子は二人による丸聞こえの作戦会議を聞いていた。




15分後……


「「「「あおいベーカリーいかがっすかァ!!!!!!!」」」」


葵ヤンキーズ…アオヤンベーカリー…爆誕!


パンをいれた籠を片手に持った不良軍団がデパート前の通行人にパンを押し付ける恐ろしい風景……厳ついモヒカンやリーゼント、パンチパーマの集団により恐怖する通行人たち…ああ、かえりたい。千代子は胃がきゅっとなるのを感じた。


「オイてめぇこれどこパンじゃワレ。パン言うたらあおいベーカリーじゃろオルァ!!」


「あおいベーカリーのパン買えやぁ!」


「ミルクフランスのミルクと、カリカリフワフワなパン生地をあおいベーカリー以外認めねぇ事くれぇオセアニアじゃ常識なんだよ!!」



地獄絵図である。泣き出す子供までいる…


デパートの入口ではおそらく店長らしき人が社員と対策を考えていた。


「てっ、店長!不良がカチコミに来るとかなにかやばいことしたんですか!?パン買ってこいじゃなくて俺のパン食えって逆に恐ろしいですよ!」


「私にもわからん!だが…そうだ、不良といえばビラ配りのバイトの子が!!おいっ!あの子にとめさせよう!!」


店長は携帯電話を使って、ある人物を呼び出すことにしたようだ。そろそろビラ配りから戻ってくるはず…と、賭けに出た。


5分後……不良によるパンデミックが激化し始めた頃。戻ってきたその人物に早速指示を出した。


「早く止めてくれ酒井くん!!ヤンキーにはヤンキーだ!!」


「任してください店長ォッ!こらァおめーら!パン売りは間に合ってるからウチに帰り…やが……あれ、お前らどうしたこんなとこで?」


「酒井ィ!?」


「アイエエ酒井!?酒井なんで!?」


まさかの人物に不良たちも騒然とするが…驚きは怒りへと変化する。


そう、あおいベーカリーの客足を遠のかせたパン屋でアルバイトをしている早雲が、彼らには謀反を起こしたように見えているのだ。


「なぜだぁッ!なぜだ酒井ィ!!」


「おめェタケの兄貴の妹さんが大変だって時に…!裏切りやがったなぁ!!」


「はぁ?裏切るって、バイトだよバイト。人聞き悪ぃなぁ。って、タケさんの妹!?見たい見たい!!」


自分と会おうとする早雲を、不良たちが阻む。口論の中、千代子の携帯に着信がきたのを、家康はパンツの身で感じた。


『千代子、電話ぞ。』


「あっ、ありがとう家康さん。全然聞こえなかった…!」


電話の相手は……井伊 虎徹。


あの騒動以降、虎徹も協力してくれる仲間となってくれたのだ。リヤカーの陰に隠れ、電話に出ることにする。彼には、東乱楠で何かあった時にすぐに連絡しろと伝えてあるのだ。


「なんだ、虎徹。」


竹康としての声で、電話に出た。虎徹の声はやや焦り気味。余程のトラブルなのだろう。こちらも一触即発だが。


「もしもし、タケ兄ぃ…!?よかったすぐに出てくれて…いま学校大変なんだよ。…って、いまタケ兄ぃどこ?やけに騒がしいね。」


「あ、ああちょっとな……それで、どうしたんだ?」


「隣町のヤンキーが押しかけてきたんだ。種子島犯津亜(タネガシマパンツァー)っていう大人数の落書きグループでね。休日を使って東乱楠にマーキングしに来たんだよ。いま榊原先輩と三河先輩が止めに来てるんだけどキリがなくてね……酒井とも連絡が取れないから、すぐに来てくれるかな。」


「わかった、早雲とちょうど会った所だから仲間と一緒にそっちに向かう。なんとか持ちこたえてくれ、虎徹。」


電話を切って、千代子はため息をついた。なぜこうも休日なのにトラブルばかりなのか。だが、いざと言う時を考え、竹康の服を持っていたのが幸いだった。リヤカーに繋がれたコムギが、竹康の服を入れた鞄の取っ手をくわえて、くいくいと引っ張っている。


『行くのだな、千代子…!いざ参ろうぞ!』


家康の力で強化された千代子は鞄のファスナーを開けると高速で着替えを終えた。黒の学ラン、同じく黒の学生ズボン、白のスニーカー、金色のヘアチョークで右のフェイスラインにかかる髪を塗り…完了!!

口論はまだ続いている。今だ……!!


「おい、お前らァッ!!」


仁王立ちで、千代子は大きく声を張り上げた。

声を聞いた不良たちは、一気に静まる。


「「たっ、タケの兄貴!!」」


「おー、タケさん!偶然だな、妹さんと一緒にパン売りか?」


注目される……通行人まで釘付けだ。

恥ずかしさなど家康を穿いた時に捨てたようなものだが、しかし一般人の前でこれはきつい。


だが、構わず続ける。東乱楠の危機だ!!


「妹が世話になったな、千代子は用事を思い出したんで帰った!!それよりもだ!たった今、東乱楠高校に種子島犯津亜が来ていると虎徹から連絡があった!オレたちの高校を連中に汚させる訳には行かねぇ、行くぞおまえら!!」


「なぁにぃ!?シマパンども、俺たちの学校になんてことしやがる!!」


「ぶっ潰してやりましょうぜタケの兄貴ぃ!!オレたち葵ヤンキーズの力で!!」


一致団結する葵ヤンキーズ。

しかし、早雲が首をかしげながらリヤカーを指さした。


「行くのはいいけどよタケさん。コレ、どうすんだ?まだパン残ってるよな。」


「あっ……」


固まる千代子。すかさず家康が、言葉を発した。


『千代子よ、余にいい考えがある!』


家康の作戦……パンも全て試食させ、さらに種子島犯津亜を止めることが出来る考えとは……!!


そしてそれを伝える千代子。沸き起こる不良の歓声。獲飛巣喰(エビスクイ)に跨る早雲に詰め寄るデパートの店長…!


「さっ、酒井くん!どこ行くんだい!!」


「すんません、店長!オレ今日で辞めます!!行くぜタケさん!!」


「ああ、かっ飛ばせ早雲ッ!!」


ヤンキー軍団はあおいベーカリーのリヤカーを獲飛巣喰に括りつけて、各々がパンを持って東乱楠へと走り去っていく。


唖然とする店長を残して、葵ヤンキーズは去っていった…




そして東乱楠高校。虹色のツナギを着た落書き集団、種子島犯津亜の数は60人ほど。それぞれがカラースプレーを持って、校庭をカラフルにマーキングし始めていた。


犯津亜(パンツァー)Fooooo!!!!」


安全圏である教室の中で、虎徹は校門の方を見ていた。竹康と早雲を待っているのだ。


「もう、遅いなぁタケ兄ぃたち…!なにしてるんだよ…!」


榊原が校庭で落書きをしようとする彼らを追い払うと、別の場所で落書きを始める。


それを忠勝が止めようとするが、将武を持たない彼が大勢を相手にするのは無謀であるため、やはり榊原が、出向き、鼓帝架を振るいながら女走りで向かうのだ。

流石の榊原も疲れてきたのか、そのスピードは落ち始めていた。


「くそ、俺にも将武があれば……」


自分の無力さに、忠勝は嘆いた。汗だくの頬に癖の強い銀髪が張り付く。


「弱音吐くのはまだよ!タケちゃんが来るまでもちこたえなさいッ、イイコちゃん!タケちゃんは!?」


「井伊 虎徹だっ…その呼び方やめろ!って、来た…!見えたよ榊原先輩っ!!って……な、なにあれ。」



虎徹は唖然とした。


大勢の1年の不良たちを率いて、先行するのはバイクと合体した酒井 早雲ッ!その両手に二刀流、フランスパン!!!


バイクにヒモで括り付けられた屋根付きリヤカーの上に立つ我らのリーダー、葵 竹康ッ!!両手には、あんパンふたつ!!


そして二人の将武パンツ使いの後に続く不良たちが持つのはパン!!!あおいベーカリーのパン全種類ッ!!!


パラリラパラリラとヤンキーホーンを鳴らす新手のテロリストのような絵面で迫り来る葵ヤンキーズ、否!!


アオヤンベーカリー、襲来!!!!!


千代子は呆然とする種子島犯津亜へ向けて…

自らが愛する店の名を叫ぶッ!!!!



「あおいベーカリーッ!!!いかがっすかぁあああああッ!!!!!!!!!」


バイクから降りて迫り来るパンを持った軍団に怖気付いて逃げ出そうとする種子島犯津亜を捕まえた東乱楠の不良たちは、その口に各々が持ったパンを一人一人にねじ込んでいく…!!


「絶対に許さんぞシマパンどもッ!!じわじわとなぶりコロネにしてくれる!!」



諸君、千代子はパンが好きだ。

諸君、千代子はパンが好きだ。


諸君!千代子はパンが大好きだ!!


「ヒャハハ、コッペパン!!ヒャハハ、コッペパン!!」


あんパンが好きだ。チョココロネが好きだ。メロンパンが好きだ。米粉パンが好きだ。フランスパンが好きだ、ミルクフランスが好きだ、ドーナツが好きだ、カレーパンが好きだ!!


「ヒャッハー!!汚物にはショートニングだぁあーーっ!!!」


髪を掴んで引きずり倒し、口を開けさせ思い知らせてやれ!!連中にあおいベーカリーのパンの美味しさを思い知らせてやれ!!!


「ばっ、化物……パンの化物だぁあ!!!」


種子島犯津亜のひとりが彼らに向けて、そう口にすると宇佐見と樺地はあんパンを両手に持ち、こう答えた。


「オレたちが化物?違う…」


不敵に笑う宇佐見と……


「俺たちはパン屋だっ!!」


ゲラゲラと笑う樺地。


恐ろしきかなパン魔境!!

全員がその口にパンを詰め込まれたのを確認すると、千代子は勝どきをあげるように、その拳を高らかに天にあげた!!!


「完売だぁあーーーーーっ!!!!」


「「「うおおおおおーーーーっ!!!!!!」」」



葵殿!!葵!!竹康!!竹康殿!!タケの兄貴殿!!!!

歓声と共に、アオヤンベーカリーは解散した……。




種子島犯津亜を退いた葵 竹康の名は、隣町にも知れ渡ることとなる。その豪快なオモテナシによって、恐怖を刷り込ませたと同時に……


葵 竹康は戦った者に敬意を評して自らの愛する店のパンを差し出す懐の広い男であると語られるようになった。


そしてあおいベーカリーは、そのパンの味の虜となったガラの悪い隣町の者たちが来店に来たおかげで久しぶりの混雑に見舞われ、経営を回復したという……



2日後。


あおいベーカリーの前を訪れたその男は、看板犬である真っ白な柴犬…コムギの前で立ち止まった。


鉄パイプを持った詰襟をきっちりと着た少年。


森 永吉……彼はしゃがみ、コムギは尻尾を振って近づいた。もふり、と擦り寄るコムギを永吉は撫でてみる。

一瞬、永吉の顔は緩く微笑んだ。




「…………食パンだ。」


そんな様子を微笑ましそうに眺める八千代。


東乱楠。この町は、今日もヤンキーが蔓延るが……退屈しない町である。





次回も尋常に……将武!!


今回は東乱楠の日常パートをお送りしました!

最近はコンビニとかパン屋さんで、あんパンを見ても殆どケシの実が乗っているものしか見かけない気がします。

私はやっぱり黒ごまが乗っていて、つぶあんがいいです。

ついこの前入ったパン屋さんで見つけたあんパン、やっと黒ごまで、つぶあんかな!?と思ったらまさかの小倉あん…しかも黒いケシの実という…一体どこに売ってるのでしょうね?


次回もお楽しみに!

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