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お薬いかがですか?  作者: ほる
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082. モルガと獣人2



 海に身を投げたモルガは、咄嗟に小さな揺り篭の中でぐったりとしている赤子を取り出し、豊かな胸の間に挟んだ。それから赤子が少しでも息が出来るようにと、籠と自らの腕で空間を作るように抱え込む。


 背から強く海面に打ち付けられ、モルガの身体は海中へと沈んで行く。モルガは痛みに耐えながらも早く海面上へ向かわなくてはと、足を泳がせた。


 荒くうねる波と、重く纏わりつくスカートが思うように泳がせてはくれない。波は漸く海面上に顔を出す事が出来たモルガが落ち着く少しの隙も与えず、モルガの華奢な肩を容赦なく岩礁に叩き付けた。


「ぐあっ……!」


 痛みに思わず叫びもがけば、モルガの身体は再び海の中へと沈んでしまう。波への恐怖心を抑える事が出来なければ、もがく身体は益々波に囚われてしまうだろう。


 モルガは波に寝そべるように力を抜き、顎を上げた。すると自然とモルガの身体が海面へと浮上していく。豊かな胸が水面に浮けば、赤子が酸素を求めて咳き込み、鳴き始めた。



 ――ああ、鳴いてくれた。どうか、この子だけは



 鳴く子供をあやしたい気持ちを抑えて、モルガは自らの身体を浮き袋に、波にたゆたった。

 何度も波を被り、岩に打ち付けられ、獣人の爪で裂かれた背中の傷がじくじくと痛む。段々と胸に抱く赤子の鳴き声が遠くなっていくのを感じながら、モルガはとうとう目を閉じた。







「ハ! ハハハハハハハ!! 刃鮫にでも喰われてしまえば良い!!」


 モルガと赤子が海に落ち見えなくなると、領主は狂ったように嗤い声を上げた。放心して海を見つめていた獣人達は、その笑い声を聞くと崩れるようにその場へ膝を付く。


「……で?」


 領主の笑い声が耳に障ると、フレスカが眉を顰める。


「ハハ、ハ……」


 焦る事も無くうんざりとした様子のフレスカに、領主は笑うのを止めた。


「こんな陸から離れた海の上に大きな船で、漕ぐ獣人も騎士も使い物にならない。さて、どうするのかしら?」


 私は幾らでも陸へ戻る手段があるけれど、と首を傾げるフレスカの言葉に、領主は船上を見渡した。フレスカによって動けなくされた護衛騎士に、傷だらけで放心した獣人。それに己が切りつけ止めを刺した従者が転がっている。船内へと続く道を作るように、動かなくなった獣人が転々と倒れていた。

 こんな海では逃走する手段も無い。捕まるくらいならばと、自らも海に身を投げる事も腹を切る気概も、領主には無かった。


 「――フン。さっさと殺せ」


 自棄糞になったのか、貴族らしくなく床にどかりと座る領主にフレスカが言った。


「ねえ。彼等の首輪、外してくれない?」

「――外せん」

「外せない? どうして」


 奴属の首輪は確か、付けさせた者が解除するか、又は付けさせた者と付けられた者のどちらかが亡くなれば解除される筈だ。


「首輪を付けた主は別に居るからだ。私はその者から譲られたに過ぎん」

「……奴属の首輪は、付けさせた者から離れられない筈だけど」

「私を殺せばいい。そうすればわかる」


 逃げる事が出来ないならば、このまま捕まり惨めたらしく貴族裁判に掛けられるより、この場でフレスカに屠られた方がマシだ。そんな腹積もりだろうが、挑発するように言い捨てる領主に、フレスカは面倒そうに溜息を零した。










お読みくださりありがとうございます。

ブクマと評価頂いておりました。

ありがとうございます、更新がんばります。

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