044. ホビット族のジンクス
「それじゃ、容器の瓶や何かもこちらで手配していいかね? 大量購入なら多少安く仕入れられるんだけどねぇ、売れるかどうかは未知数で初めっから沢山作るわけにもいかないしね。飴作るのアタシら素人だし。取り敢えずは薬の数だけ作るので良いかい?」
今ある草飴の在庫は五百三十二個なので瓶五十九個分、青い薬+プラスの方は三百七個あったものをフレスカとマリールで一つずつ飲んだので、薬が二百四十六個も余る。薬を全て使い切るには、二千二百十四個もの草飴を作らなくてはならない。エドナとエレンだけでは気が遠くなるような作業だ。
エドナとエレンが作業量を考えて遠い目をしていると、アエラウェが明るい調子で言った。
「大丈夫よ、エドナ。人手なら無料で二人ほど確保してあるから、扱き使ってちょうだい。二人共、飴どころか料理素人だけど」
「二人と言えば、今日商人さんたち見てませんね?」
マリールがそう聞けば、アエラウェは良い笑顔で彼等の現在の境遇を教えてくれた。
「ほら、あの人達死んだ事になってるじゃない? だから閉じ込めておいたの」
「「「軟 禁」」」
酷い扱いだが、うっかり彼等を殺した者に見つかりでもしたら厄介だ。アエラウェは仕方ないのだと、肩を竦めて見せる。
「退屈だろうから差し入れも色々してあげたし、きっと今頃楽しくやってる筈よ」
美しすぎるウインクと共に発せられたアエラウェの言葉に、ホビット達とバルドは揃って震え上がった。閉じ込められている部屋で、一体何が行われているのだろうか。考えたくは無い。
そんな訳で、エドナとエレン、それに今頃主従関係が間逆になっているだろう商人と従者の四人で飴を作ることになった。
商人達は冒険者ギルドから出すわけにいかないので、二階の一室が製造場所として使われる。冒険者が滅多に寄らないギルドなのが幸いしたようだ。
少女趣味の内装にカフェ風食堂。あげくに二階には飴製造所まで。冒険者ギルドが閉鎖されるのもいよいよ近いかもしれない。バルドは虚空を見つめるしかなかった。
「瓶に可愛く商品タグ付けるとかどうかしら? ほら、何せ私のプロデュースだし、せっかくだから可愛くしたいわよねぇ」
「良いですね! 私の場合は小さな瓶に薬の色のタグを紐で瓶首に結んでるだけなんですけど、アエラウェさんなら何が良いかなぁ……ラベルとか貼れれば良いんだけど」
「ラベルね。それじゃあリボンなんかで瓶首縛ろうかしら? 縛るの好きだし」
「未開封なのを示すために、栓に封をつけた方が良いかと思います」
「あら、じゃあそのデザインも……」
マリールとアエラウェとエレンで容器の装飾について盛り上がる。
装飾に拘ると途端にコストが跳ね上がるが、元々飴としてはぼったくり価格なのでまあ、いいだろうとエドナは黙って聞いていた。それにしても一体どんな装飾になるのだろうか。縛りに特化していないと良いが。
エドナは一抹の不安を感じながらも、そろそろ帰らなければと、アエラウェ達に声を掛ける。
「それじゃあ、アタシらはこれから店を開けるんでね。今日は帰るよ」
「次に来る時は、材料や容器も持って来ますので」
「お仕事がんばってください!」
「ああ。お嬢ちゃんはくれぐれも、攫われない様に気をつけておくれよ? アエラウェ様、ラベルとリボンの用意は宜しくお願いします」
「ええ、まかせて。凄く可愛いのを用意するわ」
エドナとエレンは本業の食事処の準備の為、慌しく冒険者ギルドを去って行った。薬入り草飴の販売目処が立ったところで、マリール達はアエラウェが飾り付けてくれた中庭で、今夜は食事にするようだ。
皆でその準備へと取り掛かる。
ホビット達が作り上げ、バルドが割った土のドームは、今度は釜の形に作り直された。マリールの希望で中が二段作りになっている。
「便利ですね~土魔法! 家とか作れちゃいそう……」
マリールが感心してそう口にすれば、ホビット達が口々に教えてくれた。
「作れるよ? 俺らの村では土で祠作ってさ、その上にまた土を被せて小山みたいにしてるんだよね」
「家作れるようになったら一人前だもんなー。俺まだ作ったことないけど」
「嫁見つけない内に家建てると、ずっと一人でその家に暮らすって言い伝えだからな~」
「じゃあ、ホビットの皆さんは家持ちは全員既婚者なんですね?」
「いや、そんなことないよ」
「嫁見つける前に家建てた人もいる」
「やっぱその人達全員、ずーっと独り身だけどな~」
「ひえ……」
言い伝えなんていうものは迷信だと思っていたマリールも、その確立の高さにゾっとした。
偶然なのか、ずっと独り身で居たいから敢えて家を建てたのか。真実を知るのは本人達のみである。




